昼下がりの衝撃(7)

 要するに、自分の部屋でくつろぐ彼女がどんなふうなのか、妄想はできてもイメージの特定ができない。

 渉にとっての茅子もそうだし、もちろん茅子にとっての渉も、職場の同僚という間柄でしかない。


 そんなことはわかりきったことではあったけど、休日に渉の知らない人物と楽し気に一緒にすごしている彼女を目撃したことで、思いもよらないタイミングでいやでも現状を突きつけられた。


 渉の知っている茅子は、彼女の全体の数パーセントでしかないのだ。出会ってからまだ数か月、そんなことはわかっていたのに、こんなにショックがでかいのはなにゆえか。


 枕を抱えて夢見心地のまま悶々として、体までごろごろしていたようだ。自室のベットから転げ落ちて渉ははっきりと覚醒した。

 もう午前十時をすぎている。日曜日の起床時間はいつもこんなものだ。

 昨夜は細く窓を開けて眠りはしたが、部屋の中は蒸し暑くて額に汗が浮いていた。喉が渇いている。水分が欲しい。


 パジャマ代わりに着ていたTシャツはそのまま、トランクスの上にジャージをはいて渉は部屋を出て階下に下りた。

 リビングには誰もいなくてテレビもついていず静かだった。ダイニングテーブルの方で母親がひとり、帳簿を開いて電卓を叩いている。

「おそよう。朝ごはんはもうないよ」

「いいよ、昼まで我慢する」


 渉は台所へ行って水切りカゴからコップを取り、冷蔵庫から牛乳パックを出して中身を注いでその場で飲み干した。

 炊飯器の横のバナナスタンドにシュガースポットが少し出てきたバナナがぶらさがっている。食べてもいいかと母親に声をかけてから一本もいでダイニングに戻った。


「それ、工場の?」

 立ったままバナナの皮を剝く渉にちらっと眼をくれ、母親は丸い頬の上にちょこんと載せていた老眼鏡をはずした。

「キビシイ?」

「まあね。最初から黒字経営なんて夢見てないからどうだっていいけど」

 領収書類を保管袋に入れて頁の間に挟み、帳簿をパタンと閉じて母親は立ち上がった。


「父さんと真美は?」

「真美は部活。お父さんは釣り」

「え、なんだ。俺も行きたかったな」

「チアに?」

「釣りに決まってんだろ」

 まったくこのおばさんは、と渉は屑籠にバナナの皮を投げ入れる。

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