誰が為のおしゃれか(5)

 一区切りつけ、訂正済みのチラシを持ち上げて端をそろえながら渉は遠藤のデスクの上を見る。遠藤が貼り付けたシールはどう見ても曲がっていて雑だ。これならやらせない方がいいかもしれない、などと渉は思ってしまう。


 作業を再開しようとしたところに遠藤が戻ってきた。外の自販機で買ってきたのか、コーヒーの缶を持っている。どう見ても自分の分しか持っていない。

「ちょっと」

 小永井がとんがった声をあげた。


「まさか自分だけコーヒー買いに行ったんですか? それも自分の分だけ?」

「ったりまえだろ」

「違いますよね。ここはみんなの分、買ってくるところですよね?」

「はあ? なんでオレがそこまでしなきゃなんねえわけ? オレは自分が飲みたかっただけだし」

「だからそのついでにみんなの分も買ってきてくれれば、わあ、ありがとうございます、これで頑張れます、とかモチベだって上がるのに。どんだけ気が利かないんですか!」

「ぶ、ふざけんな。なんでオレが気ぃ利かせんだよ。この残業、おまえのせいだろ。おまえの」

「おまえって言わないでください!」


 子どものケンカか。ヒートアップしていくふたりを止めるか放っておくか。メンドクサイなあと、ちらりと考えていた渉だったが、茅子がおろおろしているのが目に入って、ここは自分がバシッと止めるべきだと思い直した。が、


「なにを騒いでるんだ、こら」

 のんびりと言いながら清水が入ってきた。手にはドーナツショップの箱をぶら下げている。後ろには川村もいた。

「はかどってるか? 働いてないならドーナツとコーヒーはやらないぞ」

 居残り組に差し入れを持ってきてくれたようだ。


「ほらー、これ!」

 嬉々として小永井が、失礼にも先輩社員ふたりを指差す。

「これ! これが普通。気の利くオトコのフツウ! 遠藤さんはダメダメです!」

「はあ? ざけんな。ちょっと可愛いからって調子に乗って言いたい放題かよ。ろくに仕事もできないくせに!」

「それこそ遠藤さんに言われたくないですよ! いつもいっつもふざけた話し方しかしないで。仕事の頼み方だって説明ヘタクソなんですよ。だからこっちもミスするんです。いつも急かしてばっかだし」

「自分がバカだからだろ? 人のせいにするなよ、バカ!」

「そのバカのスカートの中のぞこうとしたのは誰だよ!」


 小永井の暴露に、聞いていた渉の方が目の前がくらりとなる。遠藤……そんなことしたのか。

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