誰が為のおしゃれか(6)

 その場にいた全員の軽蔑の視線を浴びて、遠藤は顔を真っ赤にする。

「はっ。してねーし、そんなこと」

「しました!」

「そんなひらひらしたスカートで会社に来るからだろ」

「なんですかそれ。痴漢にあうのはスカートが短いからだって理屈ですか?」

「似たようなもんだろ。男の気を引きたいからちゃらちゃらして化粧も濃くなるんだろ」

「ばっ……」

 ぷるぷると肩を震わせ立ち上がった小永井は、この時間になっても崩れない、綺麗にアイメイクの施された瞳を目いっぱい見開いて遠藤を見つめた。


「ばっかじゃないですか!? 自意識過剰のサイテー男。なんでそんな男のためにおしゃれしなくちゃならないんですか!? ちょっと考えればわかりますよね。化粧だの服装だの外見で判断するのはレベルが低い証拠ですよ! 女の子がおしゃれするのは自分のためです。自分に自信を持ちたいからです。鏡に映った自分を見たとき、冴えない顔の自分が映ってたらがっかりしてもっと冴えなくなっちゃう。可愛い顔した自分を確認できれば、よーし私はカワイイって自分で自分に元気をもらえるんです! 可愛いお洋服を着れば身だしなみや歩き方にだって気をつけようってなるんです。お洋服に相応しい自分になれるようにって。だから毎日メイクも頑張るし、可愛くなれた分、仕事も頑張らなきゃって思うんです。女の子がおしゃれするのは自分のためで、男のためだなんて思ったら大っ間違いですから!!」


 一息に言い放ち、彼女は椅子に座り直してぜいぜいと肩で息をした。あらん限りの小永井の主張に、遠藤は毒気を抜かれた様子でぽかんとなっている。


「あー、なんだ、おまえら」

 気まずい沈黙を破ってくれたのはいちばん年長の川村だった。

「言いたいことはもう言ったみたいだからさ」

 人差し指でぽりぽりこめかみを掻きながら、川村は交互に小永井と遠藤を見る。

「ガキみたいなケンカはやめてもう仲直りしろ。こんなくだんないことで仕事に支障をきたすなら、社会人としてどうかと思うぞ」

 引き締まった表情で言い切った後、川村はすぐに声音を和らげて言い添えた。

「ここはおれの顔に免じて」


 ぷっと清水が真っ先にふきだして、渉もそれに続いた。涙目になっていた茅子もほうっと息をついて顔をくしゃくしゃにした。まだ呆気にとられた表情で遠藤は自分の席に座り、小永井は指先で目元をぬぐうようなしぐさをした。

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