彼女がメガネをはずしたら(7)
「カヤコチャンのデータのおかげで話が上手くいったし。お礼にたまにはおごるよ」
営業部のエースともなると羽振りがいいっすねえ……なんて言いながら割り込んで邪魔をするべきだろうか。
給湯室で清水が茅子を誘っているのを目撃した渉は、迷った時点で遅れを取ったことを思い知る。
「えええ、そんな。滅相もない!」
そうだ、カヤコチャン。断っちまえ。
「オムライスの専門店ができたの知ってる?」
「オムライス……」
外食を我慢している茅子には魅力的な誘いのようだ。ぐううっと彼女のおなかが鳴ったのが渉の耳にも聞こえた。
「腹減ってるなら行こ?」
真っ赤になっておなかを押える茅子を清水が押す。茅子が頷くのを見たくなくて渉は目を背ける。
なかなか茅子は返事をしない。すると突然、清水に呼ばれた。
「高山も来いよ」
は? と渉は目を丸くしてそちらに顔を出す。ばればれなんだよ、と顔に書いた清水はにやにや笑っている。
「金曜の夜に寂しいひとりもん同士で集まってメシ食いにいこう。ね、カヤコチャン」
渉が現れたことで茅子の頬が緩んだように見えたのは気のせいだろうか。清水とふたりきりで食事に行くことを警戒していたのかもしれない。だとしたら渉は清水に利用されたということか。
デートを阻止できてほっとはしたけど、悔しい。複雑な思いのまま業務を終え、清水が言うオムライスの店へと向かった。
オムライス専門店なら若い女性向けの明るい色調の店かと思いきや、シックな色合いで統一した大人向けの喫茶店という印象だ。雰囲気だけでも良い店だと思ったが、オムライスの味も絶品だった。
「バターの良い香り」
うっとりした目になった茅子は、スプーンを口に運んで更にとろけそうな笑顔になった。
「ふわふわとろとろです……」
見てるこっちの頬が落っこちてしまいそうだ。
「来て良かったです」
「そりゃあ良かった」
最初は緊張する風だった茅子も、オムライスに相好を崩してからはにこにこと食事を楽しみ始めた。
「高山はゴルフできるか?」
「いえ。まるっきり未経験っす」
「覚えといた方がいいぞ。中小の社長と仲良くなるには必須だ」
「接待ゴルフなんかやるんですか?」
「イマドキそれはないけど」
食べ終わった皿をわきによけながら清水は笑った。
「ゴルフコンペに誘われて社長仲間の輪に入れてもらえることもある。ゴルフやるのかって訊かれてやりません、じゃそれっきりだ」
「はあ」
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