彼女がメガネをはずしたら(6)
そう言う清水の方こそ大口の契約をもぎ取ったばかりだ。渉は恐縮して目を伏せる。
「よし。今日はおごってやる」
「やったあ」
「遠藤にはおごらねえよ」
「なんでですか」
がやがやしながら移動して、四人で近くの焼鳥屋に入って生中で乾杯した。
先輩ふたりは少ないつまみでビールを飲む。いまだ自分の酒量がわかっていない渉は、彼らの飲み方に合わせることにした。
遠藤は、「おまえは女子か」と言われながらファジー・ネーブル片手にチーズ入りのつくねを頬張っている。そんな後輩に向かって川村が説教を始めた。
「おまえ事務の女の子たちを下に見るのやめろよな。態度に出てんだよ」
さすが川村さん、と渉は内心で親指を立てる。
「そりゃあ稼ぐのは俺たちだが、あの子たちにそっぽ向かれたら業務が成り立たなくなるんだぞ」
「そうは言ってもー。急ぎの仕事を頼めば嫌な顔するし、おだててやってもらったはいいけど間違いだらけだし。怒りたくなりますよ、そりゃあ」
「ミスしない人間はいないだろ。人に仕事をやらせるならミスをしにくい環境で頼むのがコツなんだってよ。おまえの場合、もっと段取りを考えて時間に余裕をもって頼めば良かったってことだろう」
「そうですけど、急なことだってありますよねえ」
「だからおまえの事前の準備が甘いの。よく考えろ」
「……ほんとに緊急なことなんかそうそうないよ」
営業部のエースである清水のひとことは重たい。遠藤は首を竦めて引き下がった。
「あとは適材適所かな」
続けて清水は話す。
「それぞれ得意不得意があるから、それが得意な子に任せればいい」
渉は感心しながら話を聞く。平社員といえども人に仕事をおろすのは難しい。
と、初めの方こそ仕事の話などもしていたが、話題はどういうわけか女子社員の品定めに転がっていった。
「小永井さんがいちばん可愛いですよ。明るいし話しやすいし」
遠藤はとことん簡単な男のようだ。
「ああいうのを嫁にすると後悔するんだ」
唯一妻帯者の川村がしみじみとぼやく。
「嫁にするなら俺はカヤコチャンかな」
清水が断言して遠藤がのけぞる。その隣で渉は内心でつぶやく。うん、そうだと思ってた。
「カヤコチャン? ヤですよ。家の中めちゃくちゃになりそうだし、なんか暗いし。ずっと一緒にいるなら可愛い子がいいっすよ」
「可愛いだろ、カヤコチャン」
焼き鳥の串を振って川村が遠藤に突っ込む。
「確かに」
ふと素の表情に戻って頷いた遠藤の横面を、思い切り殴ってやりたかった。
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