彼女がメガネをはずしたら(5)





 翌日には茅子がコンタクトにしたことが少なからず職場で話題になっていた。

「カヤコチャンて可愛かったんだな」

 調子よく遠藤がほざくのを聞いて渉は殺意を覚えた。やっぱりこいつは外見しか見ていない。


「良い決断だよ」

「うん。あたしもコンタクトにすればいいのにって思ってた」

「髪型も変えてみたらいいのにー」

 女性社員たちに褒められて赤くなっている茅子はもちろん可愛かったが、その午後にはさらに可愛さが増していて、渉は「やめてくれ」と内心で呻いた。

 女子社員の小永井にいじられたらしく、髪型が変わっていた。今まで首の後ろで無造作にひとつにくくっていたセミロングの髪を、横に流して肩の位置でふんわりと結び、前髪も少し梳いたのか軽くなっている。もともと顔が小さいからぱっちりした目が強調されてメイクしてなくても十分に可愛い。


 茅子が可愛いのは嬉しい。だけど皆に見られるのはいかん。いかんと言ったらいかん。叫ぶわけにもいかず渉は悶々とした気持ちを抱え込んだのだった。





 数日後の昼休み、中途半端な時間に渉が戻ると、茅子が自分の机でぽつんとひとりでおにぎりを食べていた。

 このオフィスは賃貸だから社員食堂なんてものはない。駅に近い分まわりに飲食店がいくらでもあるから昼食は外に食べに行くのが普通だった。

 営業で外を回るならなおさら食事の時間が決まらない。渉がこの時間に戻ってきたのは本当にたまたまだった。

「いつもお弁当?」


「いえ。日によりますけど、出費があったからしばらくは外食は控えようかと」

 小さなおにぎりを手にした茅子の手元には、あとは小さな丸いタッパーの中に卵焼きとミニトマトがあるだけだ。

「もしかして自活してる?」

「はい」

「マジで? 偉いなあ」

 メガネを高価なものと言っていた。もしかしたら無理な買い物をさせてしまったのだろうか。親元でぬくぬく生活している渉は申し訳なくなる。


 そんな渉の前で茅子はおにぎりを手に持ったまま固まっている。食事するのを自分に見られるのは嫌なのだろうか。察して渉は飲み物を買いに再び外に出ることにした。




 その日は定時に遠藤とふたりで会社を出た。一階のエントランスでは先輩営業マンの清水と川村が飲みに行く相談をしているようだった。

「飲み行くんすか? ご一緒させてくださいよ」

 調子よく近づいた遠藤にめんどくさそうな目を向けた清水だったが、後ろにいる渉を見て表情を緩めた。

「高山の商談成立祝いがまだだったな」

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