彼女がメガネをはずしたら(8)
「子どもの頃、ゲームをやりませんでしたか?」
オムライスを食べ終えて満足そうに微笑みながら茅子が話に入ってきた。
「わたし、ファミコンのゴルフが大好きだったんです」
「ファミコン? 『みんゴル』じゃなくて?」
「ファミコンです!」
いつの時代の人ですか。
水を飲んで一息ついた後、失礼しますと茅子は鞄を持って立ち上がった。化粧室に向かうのを見届けた清水が、またにやにやしながら渉を見た。
「高山は、カヤコチャンがイメチェンしたから俺が誘ったと思ってるだろ?」
渉が黙っていると、清水は笑みを消して頬杖をついた。
「それはないよ。ずっと前から狙ってた」
わかってたし。それは俺だって。でもここで下手なことは言えない。清水の方がずっとずっと交渉に長けている。黙っているのが花だ。
清水もそれ以上は何も言わず、空いた皿を下げに来た店員にデザートセットを追加注文した。
渉の隣に茅子が戻ってくる。
「まだ食べれるだろ。デザートがくるから」
「そんなにごちそうになるわけには」
「ここまできたら遠慮するなよ」
ケーキとコーヒーもたいらげて店を出た。居酒屋で奢ってもらったばかりだし自分の分は払うと主張した渉に清水は財布を出させなかった。
「彼女の前でかっこ悪いとこ見せたいのかよ」
お互いスマートにいこうと釘を刺されて渉は唇を噛む。悔しい。相手はまるっきり余裕なのだ。
「帰り道大丈夫?」
「大丈夫ですよ。まだ早い時間です」
駅の改札の前で挨拶を交わして別れた。歩いて行ってしまう茅子の後姿を見送る。残された男ふたりもどちらからともなく踵を返し、その夜は解散になった。
「おいしかったですねえ。オムライス」
月曜になっても茅子はにこにこと清水と話していた。くそっと渉はぶうたれる。オムライスくらいでポイントを稼げるなら、いくらだってごちそうするのに。
月曜は終礼がないので、就業時間がすぎるまで外ですごした。くたくたになってオフィスに戻る。事務員たちは帰ってしまったようで課の居室には誰もいなかった。
喉が渇いて給湯室でお茶を淹れることにする。向かうと、給湯室の電気がついていた。なぜか床に這いつくばっているのは茅子だ。
「どうした?」
顔を上げた茅子は泣きそうな顔をしていた。
「コンタクト、落としてしまって」
だと思った。
「使い捨てなんだから、別に探さなくていいんじゃない?」
「でも」
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