小さな恋のメロディ(10)
「こちらに座って」
小振りなテーブルの前の木目の丸いスツールに腰を落ち着けると汗が噴き出した。
「お兄ちゃん、ふいてふいて」
真美にタオルを押しつけられていると、先ほどの女性が麦茶を持ってきて向かいに座った。
「暑かったでしょう。水分補給してね」
お盆を置いて自分も一口麦茶を飲んだ後、女性は朗らかに名乗った。
「私が園長の丸山です」
「園長さん、でいいんですか?」
「施設長って名乗ることもあるけど、ここでは園長で」
明瞭な返答に真美は「はい」と頷いてバッグの中から封筒を取り出して丸山園長に渡した。
「高山真美です。よろしくお願いします。あ、これは付き添いの兄です」
封筒の中の学校からの挨拶文らしい書面に目を通して、丸山園長は真美に目を向けた。
「真美さんは俊さんの後輩になるわけね」
「はい。俊先輩の発表を聞いて里親制度と〈ひまわり〉をレポートのテーマにしようと考えました」
ノートと筆記用具をテーブルに広げ、真美は事前にまとめてきたらしい質問を始める。
まずは里親制度について。詳しくはこども支援協会などのホームページで確認してね、などと交えながら丸山園長は簡単に里親とはどういうものかを説明してくれた。
施設が生活の場となっている子どもたちに家庭での暮らしを知ってもらうため、一時的に一般家庭に養育を委託するのが里親制度であり、週末に泊まりに行かせてもらう感覚で受け入れてもらうのが季節・週末⾥親、自立までの一定期間を里親家庭に委ねるのが養育里親なのだと教えてくれた。
「俊先輩の里親さんは星野さんで、先輩は星野のお父さんお母さんて呼んでますけど、先輩は増田なんですよね」
「里親は一時的なもので、法的な親子関係が結ばれるのではないからです。実名は元の親の名字のまま。でも学校では里親の姓を名乗る場合が多いです」
「どうしてですか?」
「子ども自身にイヤな思いをさせないようにと里親や学校側が配慮するからでしょうね」
ぴんときていない表情のまま真美は首を傾げる。
「でも俊先輩は」
「ええ。私は〈ひまわり〉の子どもたちには、できるだけオープンでいてほしいと思っていて」
そこで丸山園長は渉の方にも視線を流した。
「自分の事情を隠さずに、身近な人には明かしておいた方がいいという考えです。何かの拍子に気まずい雰囲気になったり、陰で間違った詮索をされるより、最初から知っておいてもらった方が誤解が少なくすむのではないかと思うのです。誠実に打ち明けたことに対して、相手の方がどういう対応をするのかは、その人自身の問題だと私は思うのです」
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