小さな恋のメロディ(7)
「あ……」
茅子は口元に手をあてて顔を赤くする。
「俺、思うんだけど。俊くんて、増田さんに褒めてもらいたいんじゃないかな。誰よりも増田さんに褒めてもらいたいから、増田さんのためにって言うんじゃないかな」
「褒めてますよ? いつも」
「うん、わかるけど」
我知らず、渉はそこで苦笑いした。
「もっともっと褒めてほしいんじゃないかな」
眉根を寄せて少し考えこんでから、茅子は小さく頷いた。
「わかりました。もっともっと褒めることにします」
「……ごめん」
「どうして謝るんですか?」
「キツイ言い方しちゃって」
何も知らない他人のくせに。
本当は渉にだってわかる。茅子と俊はふたりきりの姉弟で、寄り添う絆が深い分いろいろ気負ってしまうのだ。
それなのに、一般論で茅子を諭した。卑怯だ。
「そんなことないです。高山さんは、いつもわたしが思いもしなかった考え方をしてくれて、わたし、気づくことが多くて。……ありがとうございます」
どうしよう。情けなくて、なんか泣きたい。
と思っていたそのとき、膝カックンされて渉は崩れ落ちた。
「おかえり? お兄ちゃん」
もちろん、こんなことをするのは真美しかいない。
茅子はびっくりしてうずくまってしまった渉としれっと隣に立っている真美を交互に見る。
「あ……妹さんですか?」
「はい。妹です! あなたはもしや、増田俊先輩の?」
「はい。姉です」
ぺこっと頭を下げる茅子の前で真美はおおらかに笑う。
「あたし、俊先輩にとってもお世話になってるんです」
どさくさに紛れて名前呼びになっている。
「そうなんですか? わたしも渉さんにはお世話になっています」
名前! 名前で呼んだ、今。感動で打ち震える渉の頭上で、ころころころころと女同士の挨拶は続く。
「いやいやいやいや。うちのお兄ちゃんなんてヘンタイで。御迷惑をかけてませんか?」
「え、そうなんですか?」
「いや、知りませんけど」
「ああ、でも。そういえば」
「ええ!? うちの兄、ヘンタイなんですか! おまわりさ……」
「やめんか」
立ち上がり首根っこを押えるとようやく真美は黙った。
「ごめん、うるさいヤツで」
「いいえ」
それまで真顔で真美の相手をしていた茅子はくすりと微笑んだ。
「可愛いですね」
「それほどでも~」
「引き留めてごめんね」
「いいえ。わたしの方が愚痴を聞いてもらったんですから。ありがとうございました。お疲れさまです」
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