小さな恋のメロディ(3)

「嫁みたいに大事にして一緒に暮らすってことだよ。だから今頑張ってるんだ。横からかっさらうマネしないでよ。余計な心配だとは思うけど、ちょっかい出されるだけでも不愉快だから、かやこに近づかないで」

 固まってしまっている渉の頭には俊が話している言葉の中身がなかなか染み込まない。


「そういうことだから、ヨロシク」

 渉の反応を待たずに俊は背を向けてエスカレーターの脇の階段を下りていった。ぎこちなくそれを見送り、渉はどうにか改札に向かう。


 うまく頭が働かないまま電車に乗って帰宅して、はっと我に返ったのは、ダイニングテーブルで白米をもごもご食べているときだった。

 サバの水煮が入った味噌汁でご飯を流し込み、渉はリビングのソファに寝そべって音楽番組を見ている真美に声をかけた。


「なあ、増田俊くん、てさ……」

「え、先輩がなになに?」

 真美はぴょこんと頭を上げる。

「なんだその反応」

「だって、まさか増田先輩とご縁ができるとは」

「ご縁って」

「あたしさ、応援団やってるじゃん」

「ほんとはチア部だろ」

「ほんとは、最初から応援団に入りたかったの! どうして入れなかったかわかる?」

「女の子は駄目とか」


「そう! お兄ちゃん知ってた? あたしはびっくりだったよ。人を応援したい、だったら女はスコートはけって、おかしくない? 大体チアリーディングって元々アメリカで、男子がやってたんだって。それがなんで今ではあんなスカートひらひらさせなきゃならないの? しょうがないからチア部には入ったけど、あのユニフォーム着るのだけはどーしても嫌で。ダメもとで生徒会の目安箱に納得できませんって入れてみたんだよね。そしたら増田先輩がすぐに話を聞きに来てくれて。とりあえず女子でも派遣て形で応援団に入れるようにしてくれたの。種目で男女別があるならともかく、性別で入部を拒否するのはおかしいって、今度の生徒総会で議題に挙げるって約束してくれて」


「すごいな」

「でしょ。こんなふうに新しいことをガンガンやるから煙たがってる先生もいるみたいだけどね、応援してる先生も多いし。デキる人は違うよねー。行動力がさ」


 そこで、お気に入りのアーティストが登場したのか真美はテレビを見るのに集中しだした。

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