昼下がりの衝撃(5)

 茅子はクリーム色の半そでのブラウスに紺色の膝丈スカート、黒のパンプスという服装で、出社の日とあまりに変化のない格好に、実は今日は仕事があったのだろうかと渉は混乱してしまう。いや、そんなはずはない。


 小永井にいじられて以来、サイドでシュシュでまとめるようになっていた髪は、今日は以前のようにうなじの後ろでゴムで結んでいる。それでも、野暮ったいメガネと前髪が替わっただけですっきりと品が良く見えるから不思議だ。それはもちろん、服装や外見をどうこう言うつもりはないのだが。


 ていうか、どうして自分は隠れてるんだ? やあ、偶然だね、俺もアンパン買いに来たんだ、とでも声をかければいいのだろうに。

 しかし今からそれをやろうにも、態度がぎこちなくなってしまいそうで怖い。


 また思考がずぶずぶになっている渉の視線の先で、順番が回ってきて店頭に立った茅子が店員に注文している。やはりパンをいくつか購入するようだ。

 しばらくして、手提げ袋を抱えた茅子が道路の方を振り返る。渉は知らずに体を竦める。

 いや、ダメだろこれじゃあ。行け、声をかけるんだ。


 意を決したとき、渉より先に茅子に近づいた人物がいた。茅子は笑顔になってその人物に手提げ袋を渡す。順番待ちの邪魔にならないよう、列から離れて彼女を待っていたような雰囲気だ。

 ふたりは肩を並べて駅の方へと通りを歩き始めた。


 茅子の隣を歩くその青年は、カジュアルな服装といい前髪を長く流した若手俳優のような髪型といい、年齢はハタチくらいに見えた。細身でひょろっとした長身で、小柄な方であろう茅子がますます小さく見える。


 だれ!? 茅子と青年の親し気な様子に愕然となって、渉はふたりの後姿をただ見送る。と、脚はなぜか彼らの後を追うように動き出していた。


 茅子たちは駅前ロータリーをぐるりと回り、先ほど望月が上がっていった駅舎へのエスカレーターに乗った。中央の通路を進んで、ファッションビルの入り口やJR線のりば、いつも渉と茅子が別れる私鉄線のりばの前も通りすぎる。

 新幹線のりばへの曲がり角も素通りして、茅子と青年は駅構内を通り抜ける形で再び外へと出ていく。おそらくこれが、茅子の毎日の通勤ルートなのだろう。


 ということは、これから向かうのは茅子の家なのだろうか。鼓動を速めながら渉の脚も止まらない。

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