昼下がりの衝撃(4)
「おれ、駅はあんまり来ないからな。今日は電車で行くんだけど。料理と酒の味見もできるらしいからクルマじゃないほうがいいって」
「はは、がんばれ」
「おまえも仕事がんばれよ」
じゃ、と軽快に手を上げて、望月は駅構内へのエスカレーターを上っていった。それを見送り、さて自分はどうしようと渉は考える。
まだ昼時を少しすぎた程度だ。ほぼ毎日通勤で来ている場所とはいえ、せっかく休みの日に出てきたのだからすぐに帰るのはもったいない気がしてしまう。少し探検して帰ろう。
渉は懐かしい気持ちで、目抜き通りではなく駅前ロータリーの脇から伸びた古びた細道へと入り込んだ。高校時代、通学に毎日歩いていた道だ。
渉の高校はこの道を抜けた先の坂を上った場所にある。今もどこかの会社のビル越しに校舎の屋根がのぞいている。
車両が一台通れるほどの道路幅のその道は、両サイドに商店が並んでいる。その多くが老舗の甘味処や釜飯屋、金物屋やお茶屋、観光客相手の土産物屋で、つまりはこの通りはとても古びた商店街だ。
元々は城下町のこの街は、有名観光地への玄関口なこともあって観光客が多い。が、人出は以前ほどではなく、数年前にはまだ店を開いていた個人の商店もしもた屋となっているようだ。学校帰りにいつも立ち寄っていた中古ゲームソフトのショップもなくなっていた。時代の変化をいやでも感じる。
そんな中、昔から人気の惣菜店にだけは行列ができていた。間口の狭い小さな店で、正面の陳列ケースには天ぷらやコロッケやきんぴらごぼうなどの茶色の総菜類が何種類も並んでいる。
その端に、こんもり積まれているのはコッペパンだ。大きさといい色といい、まさに給食で出てきた懐かしのコッペパンで、客が選んだ総菜をその場で挟んで販売してくれるのだ。
コロッケやちくわ天やフランクフルトやポテトサラダも定番だが、いちばん人気なのはあんことバター、あんことホイップクリームの組み合わせで、このあんこが美味しくて、地元民の間では贈答用に使われるくらいこの店のアンパンが有名だったりする。惣菜店なのに。
渉も家に買って帰ろうかと迷いながら順番待ちの行列に目をやる。
そこに茅子の顔を見つけて、渉はとっさに電信柱の陰に身を隠した。
それからそっと首をのばして窺ってみる。
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