平和の為の戦い 後編
「の、ノブユキお兄ちゃん!? さ、流石に汚いのではないですか!? 相手が話している間に不意打ちなんて!」
不意打ち気味に、ドルガノフを倒した事に、リリアちゃんは不満な様だ。
だが、俺にも正当な理由がある、それは。
「リリアちゃん、世の中には校長の挨拶と言う、聞きたくもない話を黙って聞かされると言う拷問があるんだよ。 だから、そんな疑似拷問の被害者を減らすために行ったんだ!」
と言う実に正当な理由。
だって、聞きたくもない話を強制的かつ一方的に聞かせる行為が善だとは思えないし、少なくとも殆どが聞きたくもない世間話、ありがたみがある訳がない!
しかしながらリリアちゃんにはまだ難しかったらしく。
「ええ、でも……」
と少し困惑した声での返答、俺はそんなリリアちゃんに分かりやすく伝えよう、そう思った時だった。
「貴様ら! 俺の友人をよくも! しかしながら、兵士たちはどこにいっているのだ、全く……」
丁度目の前にあった巨大な建物の屋上から槍を持った竜人が目の前に着地し、そう声を高らかに上げる。
も、もしやコイツが……。
「な、何者だ!」
またしても俺はそう口を動かすのだが。
「我が名はガドッグ! 誇り高き……」
「よしユキ、別の場所を探そうぜ」
「分かった〜」
「おい、待て貴様ら!」
結局こいつもセクハラの代名詞では無かったので去ろうとするのだが、竜人は俺たちを呼び止める。
全く、こっちは用が無いって言……。
「お前たち、この建物にいらっしゃるアストロド……」
「おっと、ユキ、ぶっ放せ!」
「分かったわ!」
危なかった……、今、禁句ワードをリリアちゃんのモフモフの耳に届けてしまうところだった……。
だが。
「貴様らの攻撃など、我には通じぬ!」
この竜人には、ユキの攻撃は通じない様だ。
なにせ、攻撃が直撃したはずなのに微動だにしていないからだ。
これは強敵だ……、そう思い始めた時だった。
「だが、貴様らに免じて逃がしてやらない事もない、さぁ早く消え去れ!」
そう叫ぶ竜人、だが何か顔色が悪いと言うか……。
「あのさ、大丈夫? トカゲっぽい人? 顔色悪いけど?」
流石にユキも心配なのか、そう声をかける。
すると、竜人は。
「だ、大丈夫だ! ただ、サキュバスのお姉さんの所で大サービスを受けた為、腰をやったと言うか、さっきの着陸で腰にトドメが入ったと言うか……」
とその理由を痛みをこらえたような声で……うん。
もうやる事は決まった……。
「ユキ、思いっきり腰を蹴ってやれ! 遠慮はいらない、一発と言わず何発もやってやれ!」
「うん、分かった」
「や、やめろ……辞めるんだ! ここは正々堂々……ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」
ユキは竜人の腰を容赦なく蹴り倒し、濡れた地面に倒れ込んだ。
そして俺はユキに。
「ユキ、扉を開けて俺が入ったら、計画通り逃げてくれ!」
「うん!」
そう言うと、ユキは目の前の大きな建物の大きな引き戸をゆっくりと開け、俺が入り、戸の前に壁を作り、天候コマンドを使って天候を変えた。
「ほう……ひ弱な人間が画面越しにこちらに来るとは何事か……」
目の前に現れた大きな岩の巨人がそう俺に声をかけてきた。
少なくともユキの2倍以上はありそうな岩の巨体に、不愛想な顔つき。
それに、今までの敵と違う、殺気と言うか何と言うか……言葉に表しにくい得体のしれない何かを放っている感じ。
そんな、巨大な岩男が窓もない巨大な建物の中にあるランプの明かりによって薄っすら映る光景が俺の目に入ってきたのだった。
「こ、これがアス……モガ!」
「ん!?」
そんな緊迫した空気の中、突如ハンカチを口に当てられて、眠りについてしまうリリアちゃん、その後ろには。
「ふふふ……他人の苦しみが感じられる時間が来たみたいなのでやって来たわ~少年〜。 あ、ここからはオ、ト、ナ、の時間だからリリアちゃんには眠って貰わないとね」
ニコニコ笑顔を浮かべたセレスさんの姿が!
……絶対悪い方だな、このセレスさんは……。
あ、それならどうやってこっちに!?
「セレスさん(悪)ですよね!? どうしてこっちにこれたのです?」
「この体はコピーよ。 体のコピーが近くにあれば別に体のコピーを作れるし、そのコピーに精神を移すことも出来るかな~と思ってやってみたら、意外と試したら出来ちゃったの、少年。 ふふふ……」
何て能力だよ……、と言うか、それって実質不死身じゃ……。
「い、一体何の用だ、セレス!」
そんなセレスさんの姿が向こうにも映ったのだろう。
岩男は、セレスさんに向けてそう低く迫力ある声で話しかける。
だが、セレスさんは微笑んでいる。
「あら、童貞の岩男さんをからかいに来たに決まっているじゃない〜」
「ど、童貞の事を言うな貴様!?」
「あら〜? 私がここに来る前にみんなにバラしているのに、何を今更〜?」
「や、やはり貴様が!」
「へぇ、しかし童貞岩って、童貞ってばらされて恥ずかしいの? セクハラする中年オヤジの癖に童貞ってばらされて恥ずかしいの? ねぇ、どうして? どうして恥ずかしいの? ねえって、童貞岩〜? カッチカチなのは身体だけでいいのだけど~?」
「き、貴様! もう許さん! 私の権限を持って貴様を消し去ってやる! もう貴様に脅され、そして恥をかかされる人生なんてこりごりだ! 本来ならあの地下魔王城にいる時に消し去るつもりだったが、ここに来たなら丁度いい! 始末してやる!」
え、コイツこんな偉そうにしているのに童貞なの? セクハラするくせに?
と言うか、一気に迫力が感じられなくなったなぁ……、見た目だけはいいんだけどなぁ、強キャラ感があるって言うか……。
しかしながら、セレスさんの邪悪な笑み、実に心地よさそうです。
「まぁ待ちなさいって! 良い話をしに来たのよ、私……」
「何だと?」
良い話?
あれ、俺そんな作戦聞いていないんだけど?
それ以前に落ち着いて考えたら、このセレスさん(悪)が来るなんて聞いていないのだけど?
「では、心して聞きなさい! むかーしむかし、ある所に、童貞のくせにセクハラ大好きな童貞石が住んでいました。 童貞はある日、美人で素敵な年下の美女であったセレスさんに惚れ、あの手この手でアプローチをかけました。 ですが、セレスさんは面白い人が大好きです。 そしてある日、下着と『面白い事をして』と書かれた手紙が届きました。 童貞は考えました。 そして考えた末の行動がこちらです」
そしてセレスさんの右手にいつの間にか持たれていたのは、一枚の写真。
それには、顔に白い女性用のパンツを被って、ヒーローの様なポーズを取った童貞石の姿が映っているのであった。
「き、貴様あぁぁぁぁぁぁ!」
騒ぐ童貞石。
「そして、セレスさんは思いました。 『うわ、キモイ』っと……」
そんな童貞石の苦痛な表情が、たまらないと言わんばかりの表情でにやけるセレス。
「そしてもう一つ思いました『よく、近所のおばさんのパンツを顔に被れるな』と」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「くくくくくく……」
そして、もがく石男の姿を楽しそうに眺めるセレスさん、この人からかう為にわざわざ来たんだな……。
まぁしかし、何か悲惨と言うか何と言うか……。
だけど自分でパンツを被ったわけだし、自業自得だと言わざるを得ないけどさ……。
「しねぇぇぇぇぇぇぇ! ビックバン!」
「え?」
そして、その声の方を見た時、そこにはユキの姿が。
それと同時に俺の方を強い風が通り抜けていき、そして後ろで爆発音が響きわたった。
「ユキ、お前いきなり何だ! 殺す気か!?」
「だって、ノブユキ浮気してんじゃん! 大賢者の彼女のユキちゃんがいるのに、浮気してるじゃん!」
「ん? あれ? ノブユキお兄ちゃん、ユキさん、一体何があったんです?」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉ、目覚めのリリアも可愛いぞぉぉぉぉぉぉぉ!」
「はっはっは、みんな面白くていいなぁ。 あ、悪い私、あんまり悪さしちゃダメだよ~」
「でも面白いわよ~、良い方のワ、タ、シ! もう、苦痛にゆがむ表情がたまらないって言うか~」
それは不意に訪れた、皆らしい会話の始まりだったのかもしれない。
俺はそんな会話を耳にしていて、ふと。
「ふふっ!」
っと笑みを零してしまった。
何と言うか、この雰囲気が心地いい雰囲気と言うか。
「あ! ノブユキが笑った! 何それ開き直り!?」
「へ? あ、あの、ノブユキお兄ちゃんの浮気って、またユキさんの思い違いとかでは!?」
「た、たまらんな……リリアの必死な顔も……!」
生きていて良かったと感じさせる楽しい空気と言うか……。
「はっはっは、何と言うか……」
「ふふふ、みんなバカね……」
「「いい意味で……かな(かしら)?」」
きっと、なんだかんだ言いながら、この仲間たちに愛着がわいているのだと俺は思わされた。
「貴様ら! 急に無視するな!」
ん、そう言えば、この童貞岩がいたのだったっけ?
そろそろ、話に決着をつけますか!
俺たちは皆でスマホの画面をのぞく。
そして。
「童貞岩、俺たちの条件を大人しく飲めば、痛い目に合わずにすむぞ?」
「何を言う! 貴様ら如き、鋼の様に固い石の体で一方的に蹂躙してやるわ!」
「そうか、ならば、遠慮はしないぞ? そうそう、邪神曰く『このアプリで出来る事は、建物や壁等を建築したり消したり、食材を出したり、後は天候を変えたり、その他色々出来るようになっています』だそうだ……」
俺はその言葉を聞いた瞬間、この建物に入る時に作った壁をゴミ箱のアイコンに入れた。
その瞬間、外の世界の光、そして、外に流れることが出来なくなった要塞内に溜まった水が建物に押し寄せ、『うぉぉぉぉぉ!』という声と共に童貞石を飲み込んだ。
いくら石の化け物でも、呼吸が出来なければ死んでしまうだろう。
それもセレスさんの睡眠薬も混じっている特別性だ、この事を知れば素直に交渉に応じてもらえるかもしれない。
いや、応じてほしい。
殺すなんてしたくないから……。
「どうする? こちらの条件を全部飲むか? 飲まないと、睡眠薬入りの水のせいで、いずれ眠って終わりになるけど?」
そんな交渉が上手くいったのだろう。
童貞石は素直にうなずいてくれた。
なので俺は、城門に作っていた壁を消し去り、一気に水を外へと流したのだった。
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