平和の為の戦い 前編
さて、三人は部隊長さんから貰った紙を見ながら警備を避けて魔王派遣本社の建物に近づいた。
崖を背に、高い高いレンガの壁に囲った巨大な要塞で上から見たところ、正面の巨大な門と近くに水路から水が流れる裏門の二つだけ。
中はやや古い感じのたたずまいと言うか、どことなく三国志のゲームに出てきそうな雰囲気と言うか……。
ただ、ガス灯等の現代風の様子も残しているので、ファンタジーらしいと言ったほうが正しいかもしれない。
また、そんな要塞の中には壁をも超える高さの崖から水が叩きつけられ、そしてその水を一つの水路をだどって要塞の外に流している。
正直、この豪華で古風な建物の数々、とても好みだ。
これはセレスさん(悪)の言っていた通りと言うか……。
さて、とりあえず計画通りにそれぞれ準備するかな……。
「ユキ、そろそろ行動に移るぞ! セレスさん、クルシナさん! そっち頑張って!」
「あはは、任せておいてくれたまえよ、ノブユキ君達!」
「リリア、しばらく顔を見れなくなるが……、泣くんじゃないぞ! うぅ……」
「お、お母さまが泣いているではないですか、もう! ……もう、無事に戻ってきたら抱きしめて良いですから……」
「ほ、ホントだな!? よし、頑張って来るぞ!」
そして俺たちは、セレスさん達と別れると、要塞外の水路へと向かっていった。
あ……、地図をセレスさんが持ったままだ……。
…………。
「こちら
「ユキ、それをやりたい気持ちは分かるが、今はやらんでいい……」
俺たちは岩などに隠れながら、ゆっくり前進していた。
のだが……。
『敵だぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
俺たちは直ぐに魔族の兵士に見つかってしまった。
ええい、クソ、もう少し相手にこのこの画面が見えなくなるとかの機能が、あればいいのに!
「の、ノブユキのせいよ! そんな画面でついてくるんだから!」
「仕方ないだろ! こんな不便な感じに作った邪神に文句を言え!」
「あ~いけないんだ、人のせいにしたら!」
「でも事実だろう!」
えーい、だって本当じゃないか!
全くもう……ん? 何でこの兵士、下を向いて、あからさまに『行け』と言いたげな手の動きをしているの?
『……ほら、隊長から話は聞いている。 俺、何もみなかったから、行け……』
「…………」
そして俺たちはその言葉に従って、静かに去っていった。
…………。
『敵だ! ……何見つかってんだよ、早く行け……』
『敵だ! ……ところで、グロリアちゃんは元気にしているのか? 俺達ファンクラブの物としてそこが気になって……』
『敵だ! ……あのさ、セレス様を紹介してくれない? あのミステリアスでどSな感じがたまらなくてさ……』
さて俺たちは、そんな歓迎を受けながら裏口前へ到着した
うん、何だろう、なんか見つかるのに慣れてしまった気が……。
と言うか。
「ユキ。 お前な、見つかっても見逃してもらえるからって、堂々と進んでいくのはどうかと思うんだ」
「ユキさん、私もそう思います……。 と言うより、グロリアさんの為に戦いに来たと言う緊張感が全くなくなってしまっていると言うか……」
「ふっふっふ、二人ともそれは当然よ! だって、私達はあいさつされているのだから!」
「「はい!?」」
コイツは一体何を言っているんだ?
つまり何か? 兵士達の『敵だ!』と言うのはあいさつだとでも言いたいのか?
「ほら二人とも、挨拶は礼儀よ! ちゃんと相手の流儀に乗っ取ってあいさつしなきゃ! 敵だ!」
『『『…………』』』
ほらユキ! お前、思いっきり手をあげながら言ってるけどさ、兵士の皆さんの顔を見ろって、すっごく困った顔をしているからさ!
「敵だ! あれ……? 敵だ! あれ……? 敵だ! あれ……? な、何か挨拶の仕方が違うの!? こ、これは大賢者であるユキちゃんも悩ませる難問ね……」
「ユキ、違うからな! 兵士の皆さんの顔を見てみろ。 困った顔をしているだろう?」
「は! これは罠だったの!?」
「何がどうなれば罠になるんだよ……」
そして、そんな会話を聞いていた兵士の皆さんは、申し訳ない気持ちにでもなったのだろうか?
『あの、そんなつもりじゃないんだ……敵だ!って挨拶じゃないんだ』
『その、我々の条件反射って言うか、自然な癖って言うか……』
『この、敵だ!って言うのは兵士としてのポリシーと言うか……』
そう言ってユキに『敵だ!』と言っていた理由を説明するのであった。
兵士の皆さん、ユキが迷惑をかけてごめんなさい。
おい、ユキも『あ、そうだったんだ……』じゃなくて、ん? これは謝らなくても大丈夫なのだろうか……?
……とりあえず計画通り、水路の出口に壁を立てないと……。
あと、門をユキに壊してもらって、その門のあった前にも壁を設置しないと……。
…………。
『頼むぞ~、セクハラ野郎をぶっ飛ばしてくれ〜!』
『すまない! 俺たちはアイツに手も足も出ないから何もできないんだ!』
『後の事は任せたぞ~!』
俺たちは、兵士たちのそんな声援を受けながら、門の中へ入っていき、俺たちはセクハラの代名詞を探し始めた。
ただし堂々と石の道の上を歩きながら、それもシリアスさからは程遠い雰囲気で会話をしつつ……。
「あのさ、思ったんだけどピンポンだかカツドンだか言う奴、人望が無……」
「ユキ……その名を出してはいけないぞ。 セクハラがうつるぞ」
「……でも、冷静に考えればノブユキの裸を何度も見ているんだけど、あれはセクハラじゃないの?」
「ユキ、落ち着いて考えてみろ? お前、俺の裸を見て、何か思うか?」
「別に何も?」
「だろ? あ、それで思い出したけど、お前そろそろブラを変えたらどうだ? 最近きついだろ? この前の風呂上がり、結構無理やりホックを止めている感じだったし」
「あ、やっぱ分かる? 最近ちょっと考えていたんだけどさ~」
「今度買い物でも行くか、ユキ? まぁ退治が終わってからだけどさ」
「あ、行く行く~! あ、でもこの前お菓子いっぱい買っちゃってお金ないからさ、ノブユキ買ってよ!」
「お前な、あれほど無駄遣いは止めろって……、まぁ良いか、どうせ報酬も入るんだし、それ位余裕だろうからな」
「やっほー!」
そして、そんな会話をしている俺たちにリリアちゃんが『やっぱりノブユキさん達、おかしいです……』とやや引き気味の声で言った時の事だった。
「お、お風呂も一緒だと! ぐほ!」
突如現れた痩せ型で褐色のメガネ魔族が、ユキの後ろで一人、勝手に血を吐いてバタっと倒れ込んだ。
「え、何この人気持ち悪い……」
流石のユキもそんな魔族が気味悪いらしい、俺もそう思う。
だって突然後ろから湧いて、しかも人の話を盗み聞きした挙句、吐血しているんだもの、気持ち悪い訳がない。
でも待て、もしやコイツが……。
「お前、何者だ!?」
俺は睨みつけながら口を動かす。
するとメガネの魔族は不敵な笑みを零しながら、俺たちに答えたのあった。
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれた! 私は通話システムの責任者、ドルガノフさ……」
「何だ、人違いか、行こうぜユキ!」
「うん、ストーカーみたいで気持ち悪いし……」
「ちょ、ちょっとまてぇぇぇぇぇ!」
そして、そう叫ぶ魔族をスルーして俺たちが立ち去ろうとした時、リリアちゃんが突如声をあげ、俺たちを止める。
「ちょ、ちょっと待ってノブユキお兄ちゃん、ユキさん! ドルガノフって私たちの敵のアスト……モガ!」
「リリアちゃん、その名前を言ってはいけない」
のだが、その中に禁句があったので、俺は右手でリリアちゃんの口をふさぐ。
だって教育にわるい言葉だから……。
リリアちゃんの為にも、決してそれは口に出させてはいけない……ん?
「ふざけるな貴様ら! この背後奇襲のドルガノフ様を無視して行こうとはふざけた奴らめ! 第一そこの画面に映る男、お前は許せん! そこの女と楽しそうにのろけ話をしおって、羨ましい! 私の妻なんか、いつも『アンタ給料安いんだけど、どうしてなの?』とか『ホント毎日休みの無い主婦の苦労を知らないから良いわよね~』とか嫌味を言われる毎日なんだぞ! だから良いじゃない、浮気したって、良いじゃない夢を見たって!」
突如始まったメガネの熱弁だが、こちらは聞くつもりはない。
なのでユキに「おい……」と小声をかけ、そしてひそひそ声で『ビックバンを撃て』を伝えると、ユキは静かに構える。
そして。
「だからふざけんなよ、若いうちから青春イチャイチャしやがって! リア充は死……」
「ビックバン!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ユキはロケットランチャーをぶっ放し、そんな爆発の衝撃で真っ黒に染まる石の道の上に、メガネをかけた黒焦げが「う、う……」と声を漏らしながら地面に寝そべるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます