俺たちの方針は決まった

 さて俺は、今までの話をメフェスさんに説明すると。


 「なるほど、それで魔界に行きたいと……ってえぇぇぇぇぇぇぇ! 正気ですか、ノブユキ殿!?」


 流石に想定の範囲を超えるものだったらしく、メフェスさんは驚きのあまり腰を抜かしてしまった。

 まぁ、俺的には殴り込みと言うより……。


 「その、俺個人としてはグロリアさんをセクハラしていた奴を一発ぶん殴りたい!って思いの方が強いんだけどね」

 「セクハラ? あぁアストロドン殿ですね、なら一発お願いします、うちの妻もセクハラされた口なんで……」


 セクハラの代名詞って節操無しなのか……、と言うかメフェスさん、結婚してたんだ……。


 「あ! ところで、アストロドン殿に勝てる自身はあるのですか?」

 「ははは! セクハラするような奴が大して強い訳ないでしょ、メフェスさん! きっと余裕で勝てるでしょ!」


 だって、セクハラキャラって太っていて偉そうにしているだけの大臣キャラって相場が決まってるもの!

 もし強くても、こっちにも魔王が二人もいる訳だしさ、戦力としては圧倒的……。


 「あの、ノブユキ殿……。 アストロドン殿は高い攻撃と防御で有名で、その硬い岩の身体には、並みの攻撃は通じませんよ……。 もし通じるとしてもトップクラスの強さの魔王たちでしょうが、それでもやっと……」

 「え……?」


 あれ? 普通に強いの?

 え、嘘でしょ? だってゲームでもセクハラするような奴って太ってて部下にまかせっきりな最低な奴ってパターンが多いでしょ!?

 ま、まぁ大丈夫! こっちには最強クラスの魔王、グロリアさんが……。


 「スー……スー……」


 そ、そうか……さっき何か飲まされてたし、だから寝ているだけなんだよね!

 そ、それなら眠らせた張本人であるセレスさんに……、あれ、何で目を背けるの?

 何か嫌な予感がするんだけど……。


 「あの、セレスさん……。 グロリアさんはいつになったら起きるのです?」

 「え? 何でかしら……? 何でそんな事を聞くのかしら少年……」

 「だって、グロリアさんいないと……ヤバイ気が……」


 すると、セレスさんは人差し指をあげて静かにこっちを見る。

 それって一時間って事だよね、セレスさん!

 一日って事じゃないよねセレスさん!

 冷や汗流しているのも気のせいだよね、セレスさん!


 「せ、セレスさん……、一時間って事ですよね……」

 「い、一週間……なのだけど……多分……」

 「…………」

 「…………」


 互いに沈黙して見つめ合う俺とセレスさん。

 ユキは全く分かっていないのか、ボーっとした顔をしている。

 リリアちゃんはしっかり理解できているのだろう、口を開けて固まっている。

 そしてクルシナさんは、そんなリリアちゃんの姿を嬉しそうに眺めている。

 それは何かが爆発する寸前の静けさだったと言うか……。


 そして、沈黙を破る様に俺はセレスさんの肩を掴むと、胃から上がってきた思いを一気にぶちまけた。


 「どうするんですか、セレスさん! と言うか何でそんなものを持っているんですか!」

 「あれは私が作り出せる、無味無色の眠り薬で、昔は人形に仕込んで爆破させたり……。 って言うか少年を拉致した時も使ったものよ!」

 「そんなの今更どうでもいいですよ! と言うかどうするんですか!?」

 「私、知らなかったのよ少年! 時空を移動できる魔族を呼べるオカリナがあるなんて知らなかったのよ!」


 あぁ、どうするんだコレ!?


 「あの……お二人とも……」

 「「ん!?」」


 あれ、どうしたんだろ、メフェスさん?

 何か困った顔をして。


 「その、とりあえずノブユキ殿の世界へ避難しませんか? そこで一度作戦を立て直しても問題ないかと……」

 「「あ!」」


 そういえばそうだった、一度元の世界へ戻ればよかったんだ!


 「そうだよね、メフェスさん! 行こう、俺たちの世界へ!」


 その後、俺たちは、一度元の世界に戻る事になり、俺たちは暗闇に包まれていった。

 そして。


 「ふぎゃ!」

 「ノブユキ、お前勝手にどこ行ってたんだ?」


 帰ってきた俺の顔面にそんな声と不良教師の蹴りがめり込んだのだった。


 …………。


 とりあえずグロリアさんを客室で寝かせ、メフェスさんにグロリアさんの妹さん達の世話をお願いした後、俺たちは先生に一通りの話をした。

 すると、先生は。


 「なるほど、そういう状況なのか……」


 そう口にして黙り込む、だが……。


 「おい不良教師、ゲームするか聞くかのどっちかにしろよ……」


 この不良教師はテレビゲームをしながら話を聞いているので、真剣なのか、真剣でないのか分からない!

 ってどうしたんだ、セレスさん? 不良教師に近づいて……。


 「面白い?」

 「当然面白い、レコードレモラの最新作だからな」

 「……ちょっとやりたいのだけど?」

 「そこのコントローラーの真ん中のスイッチを押した後、スタート押して入ってくればいい。 やり方は死んで覚えろ」


 何やってるのセレスさん! つーか不良教師も巻き込むなよ!

 でも、文句言ったら何か言われるんだろな……。


 「とりあえず、台所で話そうか?」


 俺はみんなにそう告げ、とりあえず階段を下りて、台所で話し合う事にした。

 すっごい夢中だったなセレスさん……。


 …………。


 そして俺たち4人は台所のイスに座ると、とりあえず今後の方針を話し合う事にしたのだが。


 「クルシナさんの為に、セクハラ魔族を倒すべきだと思います!」

 「私、リリアちゃんに賛成するわ!」

 「俺もユキと同じくリリアちゃんに賛成!」

 「リリアが望むなら私はそれに従うまでだ!」


 開始数秒の出来事だった。

 もう迷う事が無い結論と言うか、当然の結果と言うか……。

 だがここからが本題である。


 「じゃあ、方針は決まったとして、どうやって倒すよ? 相手すっごく固いみたいなんだけど……」

 「「「うーん……」」」


 結局ここが問題である。

 正直相手はとても固いと聞く。

 もしかしたらクルシナさんの拳やユキのロケットランチャーが通るかもしれないが、あくまで可能性の域を出ない訳で不安だ……。

 だからこそ、俺たちは対策が浮かばないのだ。


 「やっぱりあの二人の知恵を借りるしかなさそうだな……、ちょっと俺、あの二人の所に行ってくるよ」


 そう言って俺は、セレスさんと先生の元へ向かったのであった。


 …………。


 「両際3・3接近。 右攻。 セレス、K?」

 「ネオン、K」

 「右待伏待機完了、K?」

 「ネオン、K。 右奇襲開始」


 一体短期間で何があったのだろう?

 いつの間にか淡々とコミュニケーションを取りながら真剣にゲームをする二人の姿がそこにはあった。 

 と言うか、セレスさんすっごく適応しているな……。

 っとそれはそうと、こちらも相談に乗って貰わないと困る。

 だから俺は二人に相談しようと声をかけるが。


 「あのすいませんけど、相談に……」

 「うるさい黙れ!」

 「少年、口を閉じて!」


 ええ、この通りまったく聞く耳も持ってくれません。

 と言うか、セレスさんドはまりだなぁ……、あと先生も、なんだかんだ嬉しそうだな……。

 でも協力してくれないと魔界の連中がここを攻めてこないとも限らないし……待てよ! 魔界が攻めてきたら、ゲームを壊される可能性があるかもって説得したら上手くいくかもしれないな、よし!


 「あの、このままだと魔界からココに、攻めてきてゲームを壊される可能性が……」

 「遊戯時間妨害者、撲滅計画優先提案。 セレス、K?」

 「ネオン、K。 遊戯時間妨害者、最優先撲滅」


 そして二人はゲームを一時中断すると。


 「じゃあ、作戦を言うぞ」


 と言う先生の言葉を頂いた。

 これでやっと、あのセクハラの代名詞を倒す手段が……。


 「水、以上!」

 「は?」


 俺はその言葉に唖然とした。

 だって作戦じゃないもの、ただ水って言っただけだもの!

 いや、セレスさんも『そうそう』じゃないからさ!


 「ちょっと、真面目に助言を……」


 俺が流石に真面目な意見を求めてそう言ったのもつかの間、俺は二人に腕を掴まれると、そのまま部屋のドアまで連れていかれ、ポイっと投げ捨てられ、そして扉は閉められた。

 と言うか水って何だよ、ホントどうするんだよ……。

 そう呆れていた時だった。


 「あはは……。 その、ゴメンねノブユキ君……」

 「!?」


 俺は言葉が出なかった。

 だっていつの間に俺の隣にセレスさんがいるから!

 でも、さっきのセレスさんとは違い、話し方もフランクな感じで、おっとりした感じがするけど……あれ?


 「あ、流石に戸惑ってるよね~」


 そんな困惑する俺に、頬をポリポリかきながら照れ臭そうに言うセレスさん、やっぱ違う、何か声もいつもの色気ある声じゃなくて、さわやかなお姉さんって感じだし、ポニーテールだし……。


 「あの、セレスさんですよね? 何かイメチェンでもしました?」

 「その、もう一つの私って言うか……。 私はもう一人のセレスってところかな? えっと、ノブユキ君とじっくり話したのは、あの城のベットの時くらいなんだけど、分からないかな?」

 「あ!」


 確かに言われてみれば何かあの時の雰囲気にそっくりだな!

 あ、でも俺の頭に理解が追い付かない感じなんだけど……。

 そんな俺の戸惑いが顔に出ていたのだろうか?

 セレスさんは俺の疑問に答えるように。


 「えーっとね、私は日本から来た魂の方って言うか……、その私の心って二つあるんだよね……、その、多重人格って言うか、体に二つ心が詰まっていると言うか……。 奈落の大地に落ちた時、私の魂と魔界を漂っていた魂がくっついちゃってね……」


 そう俺に優しく言ってくれたおかげで理解できた。

 確かに、そう言われれば納得できるって言うか……そう言えばそんな事を言っていた気が……。

 あ、そうだ。


 「なるほど、言いたいことは分かったのですけど、前会った時、どう接すればいいか分からないって言っていた割に、何かあっさりしていると言うか……」


 今話してみて、その部分に俺は引っかかった。

 だって、どう接すればいいか分からないって言ってた割には結構フランクと言うか、何と言うか……。

 ともかく、そこが俺は気になったから、特に深く考えることもなく俺は尋ねたのだが、そんな俺に対するセレスさんの回答は、とても好感を持てるものだった。


 「あはは~、そのあの時はノブユキ君と仲良くなりたくて一生懸命でさ、ちょっとオーバーに演じていたかな? でも正直、あの時の事はホントだよ、君が好きだ。 更に言えば、私はあっちと違ってユキちゃんとも仲良くなりたいかな? あわよくば、ノブユキ君を取り合う恋のライバルって言うのも面白そうだけど?」

 「すいませんセレスさん、俺はアイツの物なんで……」

 「それは残念だなぁ、ふふ……。 でも君たちには感謝しているよ。 だって嬉しいんだ、元の世界の住民と会えてさ……。 だから、これからも私と友達でいてくれる?」

 「ええ、勿論ですよ! 良い方のセレスさん!」

 「い、良い方ってノブユキ君……、もっとましな言い方は無いのかな~? まぁ良い、とりあえず下に降りて、皆と合流しようか? 悪い方の私の考えを教えておかなくてはいけないからね」

 「はい、セレスさん!」


 そして俺たちは階段を下りて、3人と合流し、セレスさんについての説明と、セレスさん(悪)の作戦を伝えるのであった。


 …………。


 「何と言うか、精神的に追い詰められそうな作戦ですねセレスさん(悪)の作戦は……」

 「私もリリアと同意見だ。 まぁこんな精神的にいたぶる様な作戦を思いつくと呆れる限りだ……」

 「私も、こっちのセレスは好きになったけど、あっちのセレスは消滅すべきと思うわよ、コレは……」

 「あはは、ユキちゃんにそう言ってもらえると嬉しいかな? でも、これはなるべく平和的に脅すと言うか……、まぁこれが一番誰も殺さないだろうから良い手だと思うけどなぁ……」


 さて、俺はこの作戦を聞いて『よく考えたな』と思うと共に『これ、精神的にも社会的にも終わるんじゃないか?』と思わせる作戦だった。

 きっと、この作戦の後、セクハラの代名詞として、魔界中にその名が知られるようになるんだろうなぁ……。


 その為、俺はセクハラの代名詞に対し『グロリアさんを助ける為にやれる!』という高揚感より『可哀そうに……』という同情感の方を強く感じていた。

 そして、そんな気持ちと同時に。


 「不安だな……」


 俺はそんな気持ちを口からつい零す。

 これは俺のわがままだが、この計画でユキが魔界に行ってほしくないと言う思いから出た言葉だ。

 あくまで計画だから、上手く行くとも限らないし、ユキがケガしないとも言えないし……。

 そんな不安でいっぱいだった。

 だが。


 「ノブユキ、大丈夫だから! 私は大賢者だから、心配ご無用だって」


 自信たっぷりの顔を浮かべ、親指を立ててこっちを見るユキの姿を見たら、不思議とそんな不安は薄れていった。

 何と言うか、それは安心感からくるものでなく、ただ彼女の微笑ましさから来たものなのだろう。

 俺はそう感じていた。

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