反撃の狼煙
俺たちはグロリアさんの妹たちが閉じ込められていた人質部屋の前まで移動すると、セレスの『城よ、非常態勢Aに切り替え!』と言う言葉と共に、入口の扉の前に壁がスッと現れる。
そして。
「とりあえず、中に入って今後の方針を考えましょ!」
「うん、セレスの言うとおりね、今後の方針を考えましょう!」
というセレス、そしてユキの意見で、人質部屋で話し合う事に決まったのだが……。
「お前たち……、そんな体制でよくケンカできるな……」
そうクルシナさんが言うように、クルシナさんに抱えられた二人は互いに腕を伸ばして相手の鼻に指を突っ込んで引っ張り合っている。
それも。
「いい加減にしなさいって、この変態魔王! 何で私の鼻を引っ張るの!?」
「うるさいわ~バカ賢者のユキ様は! アナタこそ、私の鼻を力いっぱい引っ張らないでほしいわ~!」
「うるさい変態魔王! 二度と淫乱な事が出来ないよう、鼻を不自然なまでに伸ばしてやるんだから!」
「バカ賢者様こそ、脳に酸素が言っていなくて脳が育ってないんじゃないんですか~? ほらほら、鼻の穴を広げて酸素を送り込んであげますからね~」
なんて言い合いながらやっているから、実に子供みたいと言うか……。
……そろそろ止めるか……。
「おーい二人とも、そろそろ喧嘩は止めないか? なんかヤバイ状況だろうし、ここは素直に作戦会議を……」
そう言ってクルシナさんの両腕にそれぞれ抱えられた二人の間に割って入るが。
「そうですよ~バカ賢者様~。 ホント胸が小さいと心も小さいって本当なんですね~! ね~少年~」
「うるさいわよ、この変態魔王! どうせ気品や知性が全部胸に行ってしまったから性格が腐っているんでしょ!」
「おやおや~、ならば口が悪いのに性格がいいと? 胸が無いのに知性があると? ユキ様は、胸も無く、知性も無く、品も無く、色気も無く……。 一体何があるのですかね~? イタタタタタ、は、鼻がぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「絶対倒す、この魔王絶対ぶったおす……痛い痛い痛い! 取れるから、鼻取れるから!」
二人はまったく喧嘩をやめる気配が無い。
と言うかセレスさん、邪教徒の時は俺に嫌がらせしていた癖に、魔王の姿になってから、俺に素直になってユキをイジメ出したイメージだなぁ……。
っと和んでいる余裕はないな!
とりあえずグロリアさんに手助けして貰え……。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん、二人とも、無事でよかったですよ~! 私心配したんですからね!」
「「うわぁぁぁぁぁぁん、お姉ちゃぁぁぁぁぁん!」」
すっごい頼みずらい……。
何だろう、感動の再会って雰囲気がバンバン伝わってきているし、あぁどうしよう……。
そう思った時だった。
「お二人とも、今は喧嘩している場合ではありません!」
リリアちゃんが仁王立ちで二人を叱った。
うん、何だろう……、自分より小さな子にド正論で叱られて『『だって……』』って息を合わせたように言う二人、すっごく情けなく見える……。
「だって、この変態魔王が人の鼻に指を突っ込むんだもん! だから私は悪くないもん!」
「いーえ、先に人の鼻に指を突っ込んだのはバカ賢者~レッドのユキ様が先ですからね~」
「あ、セレスが嘘ついた! 嘘つきは最低だって習わなかったの!?」
「魔王が嘘ついても良いでしょ~? それに、邪教徒としてのセレスも演技だった訳だし、嘘つきなんて今更よ! それより、賢者なのに嘘を付く方がどうかと思いますけどね~」
「別に賢者も嘘つきます~! 嘘の方言って事です~!」
さらに言えば、子供の前で子供の様な言い合いをする二人、余計情けなく感じる、それ以前にユキ、俺の見ている限り、セレスさんに口喧嘩は勝てないと思うぞ……、あと、嘘の方言じゃなくて、
そんな言い争いを再開したので、当然。
「お二人とも、いい加減にしてください! ユキさんセレスさんの片方が悪い訳ではないのです、二人とも悪いのです!」
と余計リリアちゃんを怒らせる結果になるが、どうやら二人は互いに大声で言っているせいか、聞こえないようだ。
そしてそれは……。
「お前たちいい加減にしろ! アタシの可愛い可愛いリリスがお前たちに注意しているのにお前たちときたら、喧嘩ばっかりして……食い殺すぞ……ガルルルルルルルル……」
ロリコン、ショタコンの代名詞と言っても差支えが無いクルシナさんの怒りを買う事になってしまったのである。
と言うか、クルシナさんの顔がヤバいぞ……。
今までにない殺気と言うか、ホントに食い殺しかねない獣の顔つきと言うか……それは例えようのない程、恐ろしい顔だった。
「「…………」」
そして、そんな恐ろしい顔を見た二人は怯えた表情を浮かべ、ブルブルと体を震わせている。
と言うかセレスさんでも、この顔は無理か……。
はぁ、とりあえずこの二人のフォローするかな、俺もこの恐ろしい顔は見たくないけど……。
「クルシナさんちょっと待ってね~……ほうほう、なるほど……」
俺はそう言ってクルシナさんの前へ来ると、ユキの口の前に耳を当て、そしてセレスさんの前に耳を当てる。
何をしているのかと言うと、声も出せない程怯えている二人の通訳しているフリだ。
だってこの二人、クルシナさんに怯えて話すことも出来なそうだしさ、もうこうしないとどうなるか分からないしさ、流石にここで放っておいたら可哀そうと言うか……。
そして俺は。
「クルシナさん、二人はこう言っています。 『私たちは、リリアちゃんの可愛さに魅了されまいと抵抗したのです! されてしまったら、リリアちゃんをまともに見ることも出来なくなるかもしれないから……』だそうです」
とにかく、二人を守る為、一生懸命クルシナさんに嘘をついた。
正直、怖い……。
怖いけど、このままだとユキとセレスさんが食い殺されかねないから!
でも怖いよ、クルシナさんの顔が……ん?
「そうなのか……?」
お、これはやっぱり効果があったか?
クルシナさんの顔が穏やかになったぞ!
よし、ここはリリアちゃんをたたえる言葉でたたみかけるしかない!
「うんうん、そう思いますよ! それほどリリアちゃんが魅力的なんですよ! クルシナさんなら分かるでしょ!」
「なるほど、それは仕方ないな……。 お前たちもそうなのか?」
そんなクルシナさんの問いかけに、2人は必死に首を上下させる。
まぁ、うまくいったな!
これで問題は解決し……。
「だが、世界中の少年少女はともかく、リリアはアタシだけのものだ。 お前たちにも魅力は与えない! そう言えば、ノブユキはお兄ちゃんと呼ばれていたな……」
「……あれ、何かクルシナさん、笑顔なのに怖いんですけども」
「3人、まとめて、フルボッコ!」
「「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」
まずい、まずい、まずい、まずい、まずい!
え、マジで俺たちやられるんじゃない!? ゲームオーバーじゃない!?
そう思った時。
「皆さん、何をやっているんですか! 4人とも正座! 正座です皆さん!」
「「「「え?」」」」
リリアちゃんがそう声を荒らげる、あれ? 何で俺も入っているの?
「ちょ、ちょっと待ってってリリアちゃん! 俺は関係な……」
「バインド!」
「へ?」
あれ、何で俺魔法で拘束されてるの!?
あれ、あれ!?
「ノブユキお兄ちゃんは問題を解決しようと嘘をついてますからね! 第一こうなったのは、私の話を聞かなかったお二人にあります! なのに、嘘をついてその場を丸く収めようとするのは正しい事でしょうか!? そんな事をしても反省がないのですから、後々同じことを繰り返すでしょう、つまり今回の嘘は悪です!」
「あ……」
なんか、分かったような分からないような……。
あ、でも! ……でも俺言い返せないな、リリアちゃんに……。
「さて、そういう事を含めて4人ともお説教です!」
こうして俺たちはリリアちゃんのお叱りを受けることになった。
だが、俺はその中で一つの事に気が付いた。
『リリアちゃん、今まで言いたいこと押さえていたんだなぁ』と……。
だって、今関係ない事も言われたしさ。
あとクルシナさん、リリアちゃんの叱る姿に興奮して鼻血を出すのは止めるべきだと思う……。
…………。
それから、長い時間が経った頃。
「えっと、では今後の方針を考えようと思いますが……、皆さん大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です! 始めましょう、グロリアさん!」
「ふふ、リリアも元気ならアタシも元気だ! さぁ、早速考えようではないか!」
さて、そんな元気なリリアちゃんとクルシナさんと、疲れて寝てしまったグロリアさんの妹達を除いた我々3人はと言うと。
「「「足がしびれて……」」」
足がしびれて一歩も移動できない状況にあった。
と言うか何でクルシナさん平気なの、あの人やっぱりおかしいよ……。
「ほら、ユキさん達! お話に集中してください! 足が痛いのは鍛え方が足りないからですよ! ちゃんと動かして、年をとっても元気でいれるようにならないと!」
「そうだぞ、リリアの言う通りだ! お前たちは体の鍛え方が足りないからそうなるんだ!」
どう鍛えろって言うんだよ!
と言うか、腕組んで偉そうに言わないで、クルシナさんにすっごく怒りを覚えちゃうからさ、もうスマホ使ってレモンかけたくなる勢いだからね!
「ねぇ、一つ提案があるのだけど?」
ん? 珍しいなユキが手をあげて意見するなんて。
いったい何を言うつもりなんだ?
もしや、初めて賢者らしい事を口に……。
「とりあえず、魔界を攻めましょう! それであの偉そうな奴をぶっ飛ばすの!」
言う訳ないよな……。
ちょっとでも期待した俺がバカだった。
ん? リリアちゃんが考え込んでいるけどどうしたんだろう?
「セレスさん、一つ聞きたいことが……」
「ん? 何かしらリリア?」
「その、セクハラしていた人物って、どんな人物なんです? 前にグロリアさんをセクハラしていたって方の人事がどうとか言っていた記憶があるのですが……」
「あぁアストロドンはセクハラの代名詞みたいな男ね。 そういえばグロリアもよくセクハラされていたわよね?」
「分かりました、これで正当な行いが出来そうですね! では早速魔界を攻める準備をしましょう! そしてセクハラの代名詞を倒しましょう!」
そんなリリアちゃんの言葉に俺も静かに頷く。
だってリリアちゃんが正しいから!
正直、前に聞いた時もグロリアさんの為に正義の鉄槌を下そうと思ったし。
それに、セクハラするような奴なんて、だいたい悪い大臣的なポジションで、いざ戦いとなったら
さて、俺もこうしていられないな、早く魔界を攻める準備をしな……。
「ちょ、ちょっと待ってくださいリリアさん、ユキさん! 魔界を攻めるって気軽に何を……」
ん? どうしたんだろうグロリアさん?
何か心配事でもあるのかな?
「どうしたんですか、グロリアさん? セクハラの代名詞なら、当然去勢しに行くつもりですけど何か問題でも?」
「ノブユキさん、そういう事ではないのですが……」
「大丈夫よ、この大賢者のユキちゃんもいるし、魔界を攻めるなんて余裕よ!」
「ユキさんも、何をおっしゃっているのですか!? ちょっと一度待って! 待ってくださ……ゲホッゲホ!」
きっと声を張りすぎたのだろう、グロリアさんは咽てしまった。
「ほらグロリア……、興奮しすぎよ……、水を飲みなさい!」
そしていつの間にかグロリアさんの背後にいたセレスさんが、そう言ってグロリアさんに水を差しだす。
「あ、ありがとうございます先輩! ゴクッゴクッゴク……」
だが、その水には何か仕込まれていたようで、次の瞬間、グロリアさんは床に倒れ込み、深い眠りについてしまったようだ。
「さて、それは良いけど、どうやって向こうに行く気?」
「あ……」
俺はセレスの発言についそう口にしてしまう。
俺はもともと、メフェスさんに……あ!
そうだ、メフェスさんにもらったオカリナがあったんだ!
「セレスさん! オカリナは!?」
「オカリナ? あぁあの……。 それなら、ここにあるわよ」
そう言ってセレスさんは上着の懐からオカリナを取り出す、と言うより、よくそんな所にしまえるよな……。
「それを貸して!」
「え、ええ……。 でも一体何に使うの、少年? 微妙に魔力のこもったオカリナをどうするの?」
「こうするんだよ」
俺は、セレスさんからオカリナを返してもらうと、とりあえず感覚で息を吹き込み、下手な音を響かせた。
すると、モヤッとした空間が目の前に現れると共に。
「おや、どうしましたノブユキ殿……」
そう言ってメフェスさんが現れる。
そして俺は。
「メフェスさん、俺たちを魔界に連れて行って欲しいんだ!」
「え? 一体どういうことなのですか!?」
そう驚くメフェスさんに今までの事情を伝えたのであった。
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