魔王派遣本部の襲来
「あ、セレス卑怯よ! せっかくノブユキを記憶喪失にする計画が台無しじゃないの!」
「ふ、不意打ち気味にロケットランチャーをぶっ放したお前が言うか!? 第一、何で俺を記憶喪失にしようとしているんだ!」
「だって浮気するの最低じゃん! だから、大賢者の私の知恵を絞った結果、ビックバンをぶっ放して記憶喪失にするしかないって思ったの!」
「お前は賢者自称する癖に、なんでそんな結論しか出せないんだ! お前やっぱりバカだろ、絶対バカだろお前!」
「あ、バカって言った! でも、そんな悪いところも記憶喪失するユニバース大作戦で万事解決! ふふ、ノブユキをいろんな意味で救ってあげるわ!」
「救うどころか、死ぬぞ俺が! と言うかお前の考え、訳が分からなさ過ぎてユニバース級だ!」
コイツ、いきなり何をしてくるんだ!
いや、まぁ一見浮気に見えるのは仕方ないかもしれないが、これは決して浮気ではない、単純にセレスに対する同情なだけだ。
……だがその、それと同時にユキらしいなと思った自分もいる訳で、ついそんな目の前のユキとの会話でつい微笑んでしまう。
「もう、ノブユキの癖に生意気よ! と言うかセレス、アンタノブユキから離れなさいよ!」
「ふーんだ! ノブユキ君は言ったんだから、今の間だけは私のモノになってくれるって! だから今だけは私の彼氏なんだよ!」
セレスお前、他人と接するのが苦手って言いながら、相手を煽る事は得意だよな。
「ふふーん、今の間だけ彼氏でしょ~? 私、知っているんだからね、ノブユキは巨乳なお姉さんが大好きで……くたばれぇぇぇぇぇぇぇぇぇセレスとノブユキ~!」
コイツは何自爆してんだよ、と言うか、透明な壁があるのを忘れるなよ!
ほら全部透明な壁に止められているし!
「いいじゃない、一度ぐらい私が甘えても! もうノブユキ君に思いっきり甘えちゃうもん私!」
「く、首が閉まる……」
あ、ヤバイ……息が……。
胸の当たる感覚と、手加減抜きに首に巻き付く腕の天国と地獄……。
「な、何よそれ位! 私はノブユキの体に生えている毛の場所を全部知っているんだから!」
「あのさ、それ……ある意味痴女アピール……」
「くたばれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
ユキ、お前……、もっと言う事……考えろ……よ……、セレスに呆れられて……どうするんだよ……。
そして、俺は目の前の爆風を最後に気を失った。
…………。
「ノブユキの浮気者! 私とセレス、どっちが良いの!?」
「ユ、キ、さ、ま、よりも、巨乳のお姉さんである私に決まってるわ?」
「ユキのブス!」
「セレスのバカ!」
「ユキの変態!」
「セレスの露出魔!」
「…………」
「…………」
「「くたばれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」
そして、俺の目の前で、セレスとユキの拳がぶつかろうとしていた。
「ラーラーラララー……」
…………。
「ラーラララララー……」
優しい歌声が耳に入った事で意識を感じた俺は、静かに目を開くと、そこには天井とグロリアさんの顔が俺を見つめていた。
「あ、目が覚めましたか?」
「覚めましたよ、あと何でグロリアさん、膝枕しているのです?」
「その、何となく歌っていたのですけど、歌っているとノブユキさんが心地よさそうな表情をしてまして、それで……」
「……ありがとうございます、グロリアさん」
そう言えば、何か悪夢を見ていた記憶があるな、俺……。
何の夢だったか……思い出せないが、ろくでもない夢だった様な……。
あ、そういえばあの二人はどうしたのだろう?
俺はそのことについて、グロリアさんに尋ねることにした。
「あのグロリアさん」
「はい、どうしました?」
「ユキとセレスは今どこに……」
「えーっとですね、あの二人でしたら今、リリアさんにバインドで拘束されて、クルシナさんがそれを見張っていますね」
「なるほど……」
うん、リリアちゃんが見ているなら安心か……。
「あ、ノブユキさん、これを……」
「ん? あ、俺のスマホ!」
「えっと、こっそり回収しておきましたよ、まぁセレス先輩には色々言われましたが……」
「色々って何を……?」
「えっと、例えば『何でユキ達に付いてきたの! グロリアを止めるだけって言ったでしょ!?』等と、まぁ色々ですね。 でも『アナタがいてくれて助かったわ……』ともいわれましたし……。 まぁ、真実不明のセレス先輩ですから、どれがホントか分からないのですけどね」
「真実不明のセレスさん? グロリアさん、どういう事です?」
「えっと、セレス先輩は色々な知識を知る知的な方なのですけど、発言や行動が一定でないので、何がホントで何が嘘か分からないって言われてましてね。 一度、対象の魂を介して嘘を見破る魔法を使える魔王の方が調べたらしいのですが、嘘とホント、両方の反応が出ると言うおかしな事態が起きてましてね。 なのでその、一部では精神汚染でもされているのではないかと噂をですね……」
ん、待てよ? なら俺が好きって言うのは本当なのか? それとも嘘なのか?
それ以前に、ホントに異世界から来た人間なのか?
あの人がイマイチ分からなくなってきたぞ……。
「全く失礼ねぇ、誰が精神汚染されているの~! プンプン!」
「アンタだよ、セレスさん……」
いつの間にかグロリアさんの横にはセレスさんの姿が!
まぁ良いか、ちょうどその辺りの事を聞いてみるか?
「あの、セレスさん、一体何が本当なんです?」
「全部本当で全部嘘なのって言ったらどうするの、少年?」
「少なくとも、相当胡散臭い人って言うのは、ハッキリ分かりましたよ……」
「間違えないで欲しいわ少年、私は面白さが欲しいだけなのよ~。 そ、れ、と、少年は大好きよ~! だから、ユキと別れて私と付き合ってほしいわ~!」
やっぱり素直に言う訳ないよな~。
ただあの時、真剣に両親の死を放した顔を見たけど、どうも嘘に思えないんだよなぁ……。
あぁ、考えたって分からないな!
とりあえず、捕獲されているユキとセレスさんの所に……んん!?
「セレスさんがここにいるって事は、捕まっているの偽物!?」
俺がそう叫んだ時だった。
ドーンと言う音が城に響くと共に、城全体が激しく揺れ、天井から塵がポロポロ落ちる。
そしてそれに続くように、ドアをけ破り。
「だ、大丈夫ですか!?」
「おい、何か複数の足音が聞こえるぞ!」
リリアちゃんと、高速を解かれたユキとホンモノか偽物か分からないセレス?を抱えたクルシナさんが……ん?さっきまでベットに座っていたセレスがいないぞ!
どうなっているんだ!?
そんな時だった。
俺のスマホに電話がかかり、俺はスマホを見る。
だが、俺はそれを見て。
「何だ、コレは……」
とつぶやいてしまう。
それは数字でもない、見たことのない文字からの電話。
だからこそ怖い、自分の理解を超える光景なのだから……。
「あの、ノブユキおにいちゃん、大丈夫ですか? 何かそれを見始めてから顔色が悪いみたいですが……」
「ん? あぁ大丈夫、大丈夫だ!」
そんな光景はリリアちゃんにも伝わったらしい、どうやら俺の心は顔に出ていたのだろうか……。
俺も年下の子に心配をかける様じゃまだまだだな。
まぁとりあえず、このまま電話に出ずに切れるのを……。
そう思っていた時だった。
いつの間にか俺の横にいたセレスさんが、俺の手からスマホを奪い取ると、画面をスライドさせる動きを行い、画面をポンと触った後。
「私だけど?」
何食わぬ顔で俺のスマホを見つめながら、そう口にした。
そしてそんなセレスに俺のスマホは。
《ほう、仕事も行わずに実に偉そうな声だな……》
そう迫力ある低い声で話しかける。
それは部屋を重苦しくするような不気味な感じをまき散らす。
正直、俺は冷静さを失っていた。
声の相手が分からない
今の状況が分からない。
どうすれば良いのか分からない。
そんな気持ちでいっぱいだった。
そして情けない俺は、ただただセレスさんを見る、それが精いっぱいの行動だった。
そんな俺に、セレスさんは電話を見ながら頭にポンと優しく手を置き。
「少年……。 今は男らしく強がりなさいよ……。 こんな窮地だからこそ強がって、好きな人を守る勇気に変えなさい……」
表情を変えずにそう静かに呟いた。
不思議だ。
この人は一体何なのだろう。
邪教徒の一員のセレスの様におかしい人だったり、人をからかうのが大好きな性格極悪の魔王だったり……。
かと思えば、弱弱しい妹の様な心だったり、今の様に冷静に、そして安心感を与えてくれる姉御気質を持っていたり……。
でも、少なくとも今は、頼れる年上に感じられる。
そう心から意識してしまう何かがあった。
《貴様が、本部に隠れて作戦の障害になる行動している事はすべて分かっている》
「一体何の事かしら? 冤罪をかけるのは最低じゃない?」
《しらばっくれても無駄だ。 貴様が娘の男を始末せず、放置しているのは分かっている!》
「だから何? 私は一言も殺しをやるとは言ってないわよ。 それに私にこんな態度をとっても良いのかしら、魔王派遣人事部、総責任者のアストロドン部長さん?」
《ふふ、問題ない! なにせ今、この魔界と他の世界との通話システムの責任者、ドルガノフと魔王転送部門のガドッグに『セレスを始末したい』と申し出たら、協力してくれてな》
「あら、セクハラ魔は、不倫の達人とサキュバス風俗通いと仲良くなられたのですか? おめでとうございます!」
《ふん、好きに言わせておいてやる。 どうせお前たちはまとめて死ぬのだから……》
その言葉を最後にプツッと声は切れた。
そして、セレスさんは、グロリアさんを見ると。
「グロリア、先に奥の牢獄へ行きなさい。 アナタの妹たちがそこにいるわよ」
「い、良いのですか先輩!?」
「もともと、アンタの動きを支配する為に拉致して来たんだけど、あの3バカは皆まとめて殺す気みたいだし……。 それにアンタも妹たちが心配でしょ? ほら、言われたらさっさと行く! そして顔を合わせてきなさい!」
「わ、わかりました先輩!」
ややキツい声でテキパキと指示を出し、そして俺にスマホを手渡すと。
「さて、面倒な連中が来たみたいだし、皆もさっさと奥の牢獄に逃げるわよ~!」
そう言って移動を始めようとする。
だが。
「ちょっと待ちなさいよ! 大賢者の私の意見も聞いてよ! こんな状況だし、たまには私も活躍したいもん!」
どうもユキは、目立ちたいみたいなのだが……。
「ユキ、あのさ……。 『たまには……』って言ってしまっているって事は、お前自分で活躍していないって薄々感じている事を認める事にならないか?」
「あ……」
コイツらしいと言うか……。
全くもう……。
「いいかユキ……。 別に今活躍しなくてもいいだろ? もしかしたら後で活躍できるかもしれないのだからな。 だから行くぞ、ほら」
俺はユキの肩に手を置いて、そう説得する。
それは、何者かがやってきている危険な状況だからと言うのもあるし、完全に出番をセレスさんが持って行ってしまったからというのもある。
そんな思いを乗せて言った言葉だったのだが……。
「おやおや、ユキ様は状況も判断できないのに賢者をなのって恥ずかしくないのですか~?」
余計な事をセレスさんが言ったものだから。
「は? 何言ってんの、この色欲魔の変態魔王!」
ユキも怒りに任せて容赦なく言い返す。
ええい、こうなったら仕方ない、力技だが……。
「クルシナさん、二人を背負って移動してくれない? リリアちゃんからも頼む!」
「え、あ、はい! お母さま、お願いします!」
「勿論だ、リリアの為ならうぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
こうしてリリアちゃんにクルシナさん、そしてそれぞれの腕に抱えられた二人と共に、俺たちは奥の牢獄へと逃げて行った。
「脳無しのす、て、き、な、賢者様〜!」
「浮気魔王!」
セレスさんとユキの喧嘩を聞きながら……。
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