城の部屋は現代的
クルシナさんの妹たちが寝静まった頃。
俺はトイレに行くフリをして、青い明かりのランタンがぶら下がる城の廊下を進んでいた。
それはセレスからスマホを取り返すためだ!
なお、決してあの時ちょっと漏らしたから、自由にトイレに行けるようになった訳ではない。
絶対漏らしてない!
スマホがあれば、セレスの妨害を行いつつ、脱出も可能かもしれないし、ユキの危険な目にあうリスクを下げることも出来るかもしれない。
それに、グロリアさんの妹達を助け出し、あわよくばグロリアさんの力を借りて、セレスを退治して元の世界に戻る事も出来るだろう。
そして何より、子供が寝静まる時間帯だし、俺も眠気を感じている。
つまりセレスが寝ている可能性があるという事だ。
そう考えたら、俺は黙っていられなかった。
だって、俺はユキの為に生きているのだから! 決して口にするつもりはないけど……。
……っとそんな想像をしていると、目の前から聞こえる足音が大きくなる。
俺はマズいと思い咄嗟に近くの部屋に隠れ、外の様子を僅かに開けたドアの間から覗く。
すると。
「…………」
暗い部屋の中に潜む俺の目の前を、邪教徒セレスの人形が通りすぎる。
しかし何か、リアルになってるんだけど、気のせいか?
正直、前まではもう少し魂が籠っていない、生き物らしくない人形らしさというか、そんな感じがあった気がするんだけど、気のせいか?
そして、足音が小さくなった事を確認すると、俺は部屋を出て行こ……ん?
俺に右足がゴソっと音を立てて何かに触れる。
「ん……何だ、コレは?」
俺はその音の原因の正体を探るべくドアを開け、暗い部屋に青いランタンの光を招き入れる、すると。
「し、下着が……」
どうやら俺の足に当たったのはパンツの入った段ボールの箱だったらしい。
それも様々な種類のパンツが段ボールに詰められ……。
ちょっと待て!
この部屋の中、ブラジャーが無いぞ!?
よくセレスさんが来ているYシャツの様な物もある。
レザーパンツもある!
パンツもある!
でもブラジャーが無いぞ!?
そういえば、あの人がブラジャーしている感じが無かったよな……。
……これ以上考えるのはよそう、鼻血が出てくるかもしれない……。
そして俺は、外の様子を伺い、誰もいない事を確認すると、ひっそりと廊下へ出て行った。
そういえば、冷静になってみれば性格極悪のセレスさんの部屋を知らないんだよなぁ……。
つい、アイツの為を想って行動した訳だが、ちょっと熱くなり過ぎていたかな? 俺もアイツの事をバカだの言えないな……。
とりあえず部屋を片っ端から開けていくか……。
…………。
「まずはこの部屋から……」
俺はとりあえず、近くにあった部屋の扉を開けることにした。
やはり中は暗くて何も見えない。
「何か明かりがないだろうか?」
そう思いながら、手探りで探してみるが、それらしいものはない……ん、待てよ、廊下の壁のランタンを外せないか?
そう思った俺は外の様子を警戒しながらランタンに手を伸ばす。
「……取れた!」
ランタンは思った以上にあっさり取れた。
そして俺は部屋の中に入り、扉を閉めると、ランタンの明かりを頼りに部屋の様子を伺う。
どうやら、この部屋は本棚の様だな、いろんな本が並んでいるし、ん? 何だこの本?
俺は目の前にあった一冊の本が目に入り、それを手に取る。
タイトルは『佐賀県へ行こう! 魅惑のグルメ王国!』……ってアイツ何でこんな本を持っているんだ、裏にもきっちり、定価1580円って書いてあるし!
と言うかちょくちょく、こっちの世界の本らしきものがいっぱいあるぞ!
えーと何々……。
『おいでよ! 美味しい物王国、佐賀へ』
『
『鍋島一族、佐賀の歴史を作った者達』
『THE BATTLE OF SAGA県、九州統一編』
『レンコン王国、佐賀』
『THE BATTLE OF SAGA県、全国統一編』
……って何だよこの佐賀コーナーは!
と言うより何だこの、THE BATTLE OF SAGA県シリーズは! ちょっと面白そうなんだけど!?
いや、今はそうしている暇は無いな。
……穏便に済みそうだったら貸してもらおう!
…………。
さて俺は、本棚を後にし、次の部屋へやって来たのだが……。
「ナニコレ……」
目の前に広がったのは、その、一言で言うなら、ただのトレーニングジムと言うか……。
それも何かこっち風の感じなんだけどさ……、テレビドラマとかでよくありそうな、片側の壁に鏡が張ってあるタイプのトレーニングジムなんだけど?
でも凄いな、もしかしたら、ここで魔物たちも体を鍛えているのか?
何か、無駄にすごい……と言うか、何か現実に戻されるな、こんな光景を見せられると……。
出よう……。
…………。
その後も俺は部屋と言う部屋を捜索した。
だが、あったのはカフェだったり、バーだったり、高級レストランだったりと、こちらの部屋にあったような世界の風景ばかり。
正直、思っていた世界をぶち壊された気分だ……。
そんな中で見つけた次の扉……。
ここだけ妙に豪華そうな龍の紋章が描かれているな。
いったい何がここに……?
そう思いながら扉を開けた時だった。
「ん? あ~えっと……いらっしゃい!」
壁にかけられたランタンの明かりが部屋を薄暗く照らす中、フカフカのベットの上でキョトンとした顔で座っているセレスさんの姿があった。
が、その姿は俺の目に悪い。
何せ、赤いパンツに前のボタンをとめていないYシャツという、大胆な姿なのだから。
流石に俺も両手で目を隠しながら。
「うわ! な、何て格好してるんだよ! は、早く服を着てくれ!」
と大きな声を上げてしまう。
そんな俺にセレスは。
「あはは〜、そう言えばそうだね~、ごめん。 分かった、ちょっと待ってて!」
と言った後、俺の耳にゴソゴソと言う音を俺の耳に届け始めた。
どうやら服を着ている様だ。
そして、その音が収まると。
「いいよ、着替え終えたよ」
という声が聞こえたので、俺は両手をゆっくり放す。
すると、そこにはいつもの様にちょっと大胆な姿のセレスが俺に微笑んでおり、大胆ながらいつもの格好に戻って安心する俺に。
「ねぇ、良ければ私とお話していかない?」
微笑むような笑顔でペットをポンポンと優しく叩き、さわやかな声で俺を誘ったのであった。
…………。
不思議な気持ちだ。
それはセレスへの恋ではないが、何故だか不思議と心を包まれるような居心地のいい気持になってい……。
「ふふ、癒されている様で、カワイイ!」
「い、癒されていないぞ! ただ話を聞くだけだからな!」
「素直じゃないのは良くないなぁ! まぁいいか……」
お、俺はホントに決して癒されたわけじゃない!
癒された訳じゃないが、何だろう……。
言葉に表現できない感覚と言うか……。
それは決して悪い気もせず、少なくとも良い気持ちで……、あぁうまく表現できない!
そう思っている俺に、セレスはいつもらしからぬ優しい雰囲気で。
「私、転生者なんだよ。 君と同じ世界から転生した……」
「へぇ、そうなの……ってえぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
何でいきなりそんなカミングアウトをしたんだ、セレスさん!
でも、そんな驚きと同時に何か納得している俺もいる。
この城の部屋の様子。
スマートフォンを簡単に扱っている点。
そんな事を思い起こしてみれば、まぁ当然だったのかもしれないが……。
でも……。
「でも、どうして転生したの?」
俺はそこを疑問に思い、セレスに尋ねる。
「……死んだの、私……」
「え!?」
だただた悲しそうだった。
そして、そんな氷の様に冷たく悲しい表情から、淡々とセレスの過去が語られる。
「私は昔、体が弱くてね……。 でも家族は私を大切に育ててくれた。 だけど私、中学3年生の時、病気で死んじゃったの」
「…………」
「その後、私は天界に魂が送られたのだけど、その途中、魔界の攻撃で私の魂は奈落の底へと落ちて行ったの。 そして、その奈落の大地で、私の魂は長い期間を経て、形を成し、遂に蘇って……。 でも蘇った姿は元の姿じゃない、この魔王としての姿……。 でも私は戻ろうと必死だったよ! 魔界で約200年もの間、元の世界に戻る為に必死だった、元の世界に戻って親孝行しようと必死だった!」
セレスは声を荒らげ、俺に思いをぶつける。
だが、その言葉に俺は。
「ん? 100年? それはどういう?」
そんな疑問をぶつける。
流石にスマートフォンが生まれて間違いなく100年も経っていないし、第一携帯電話すらないハズだから、そんな疑問が生まれて当然だろう。
そして、セレスさんは熱のこもった真剣な顔からキョトンと顔に一瞬浮かべた後、また真剣な顔を浮かべつつ頬を書きながら、口を動かし始める。
ただ、その真剣な顔は、先ほどと違いやや冷たさを含んだようなものだった。
「あ~、質問に答えるとね、ノブユキや私がいた人間界の1年って魔界の100年に相当するものなの、だからあちらの世界的に、私は死んで2年しか経ってないの。 さて話を戻すけど、そして私は知ったの、正社員の魔王になれば、魔王特権で異世界旅行という形で好きな世界に行けることをね! だから私は家族に会う為に頑張ったのだけどね、でも現実は酷かったわ……」
「現実?」
「私を追って、二人とも死んじゃったのよ……」
「…………」
話し終え、潤んだ瞳は悲しそうなものだった。
そしてセレスは顔を俺の胸に埋め。
「ねぇ、今だけで良いから、私のモノになってくれない……。 前世はずっと病院のベットの上だし、転生しても、
涙声で俺を両手で抱き寄せながら、俺に思いを吐き出した。
正直に言えば情だろう。
コイツは長い間、家族の元に帰る為に、すべてをささげて一生懸命頑張ってきたのだろう。
だけど、戻ってきたらその家族はいなかった。
多分悲しかったのだろうな……。
俺は『分かった』と口にすると、静かにセレスの頭にポンと手を置いて優しく撫で始めた。
「撫でるなら……してよ……」
「ん? 何だセレスさん?」
「撫でるなら……、大好きって……言ってよ……」
「はぁ……」
撫でられた嬉しさからなのか、セレスさんは甘えた声でそうおねだりしている。
何かコイツ、子供みたいだなぁ……。
今まで大人だと思ってきたけど、何だろう、きっと甘えれなかった分の反動でもきたのだろうか?
全く、大きな妹でも持った気分だよ……。
「ほらほら、大好きだぞセレスさん……」
「……あ、あのさ……、一つお願いしていい?」
「ん?」
どうしたんだろ、見上げる様に俺を見て?
「あ、あのさ……ノブユキ君って呼んでいいかな……?」
「まぁそれ位なら……」
「あ、ありがとうノブユキ君、初めて君にお願い出来たね……。 それと今までゴメンね……、そのなんて言うか、よく言うじゃない、好きな人はイジメたくなるって……その、それだと思うから。 だから、今までの事は水に流してほしいって言うか……」
「分かったわかった……、もういいからセレスさん……」
何だろう、邪教徒なセレス、嫌がらせが大好きなセレスを見てきたせいか、今の素直なセレスが凄く可愛く感じる……、いかんな、何かドキドキが止まらなくなってきた。
そう思い始めた時だった。
「ノブユキの浮気者~! 浮気者の記憶も消し飛べ、ビックバン!」
部屋の扉がドンと開くと共にユキ、リリアちゃん、クルシナさん、グロリアさん達が現れ、そしてユキは俺たちに向けてロケットランチャーが放たれた、だが。
「ま、魔王防衛システム始動! 城よ、私達を守りなさい!」
涙声が残る声で、セレスさんはそう叫ぶ。
そして爆風は、見えない壁に阻まれて、俺たちの目の前から真横に広がっていくのであった。
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