番外編 中編 とある魔王の長い一日
それは魔王の間のイスに座り、魔王として次にユキをどう苦しめるか?そう考えていた時の事だった。
「セレス、お前に頼みがある」
「……何であなたがいるのかしら、クルシナ?」
当然の様に魔王の間に一人で突如入ってきたクルシナは私に真剣な顔でそう言い放った。
と言うか頼み? 今立場的には私、アナタの敵なんだけど……。
そんな疑問を浮かべる私に、クルシナはガクリと膝をつくと。
「その……リリアに『もうお母さまは私の周囲2メートル以内に近寄るの禁止です』と言って、私だけ周囲2メートルに近寄れなくなる魔法を張ってしまってな。 おかげで、2メートルから近づこうとすると、透明な壁か何かに阻まれて、それ以上近づけないんだ……。 から何で涙を舐めてしまっただけで、そこまで言われなきゃいけないんだ! アタシはリリアをそれ程、愛しているのだぞ!」
と真上に向かってそう叫んだ。
……いやクルシナ、アナタ何を言っているの?
その、まぁともかく、目的があってここに来たのでしょうから、話を聞いてあげようかしら?
「それで、一体ここに何の用なの、アナタ……?」
「うむ、実はリリアの人形を作ってほしくてな。 もうリリアソックリでも良いから、ベタベタしたくてたまらない。 その代わり、お前の手下になってやろう! ちなみに、ちっちゃい美少年、美少女も付けば、なお良しだ!」
「クルシナ……。 アナタそれ、リリアだけじゃなくて、美少年、美少女の言ってるわよね……」
私がそう言った途端、クルシナは突如瞳に涙を浮かべると。
「だってだって! アタシ、リリアをペロペロしたいんだもの! リリア大好きなんだもの! でも、それ以外のちっちゃい美少年や美少女もペロペロしたいもん! ちっちゃい子可愛いもん!」
地面に背を付け、手足をバタつかせて、子供のように駄々をこねだした。
「はぁ……」
私はこの事態に頭をなやませる。
確かに、クルシナが私の配下になれば、ユキの絶望と苦悩交じりの表情を味わういい機会……。
それに、魔法主体の私は、圧倒的なスピードと力でガンガン攻めるクルシナとは相性が悪いので、戦わずに配下にできるならそれに越した事はない。
だけど、リリアは自分の母親が私の配下になったと思えば、悲しむのではないか?と思ったからだ。
私は相手が苦しんだり、もがいたりする姿を見るのが好きだ。
だけど例外として、まだ精神が育っていない子供の様な存在は苦しめないと言うプライドがある。
それは、精神が育っていない物をいたぶれば、自分で命を絶つこともあるから……。
その、単純に未来ある子供が死ぬのは良くないと思っていると言うか……。
ともかく、私はちょっと気が進まない!
とりあえず、大人しく待たせるために、客間に移動させて希望の分身を作っておきましょうか……。
…………。
「やや酸味が強い、やり直し!」
「…………」
「甘味が無い、やり直し!」
「…………」
「苦い、やり直し!」
「…………」
「おいセレス! アタシは瞳に光が無いのはかんべんしてやると言ったが、味は妥協するつもりはないぞ! もっと気合を入れて頑張るんだ!」
私は一体、客間で何をやっているのだろう?
まず、クルシナを待たせる事が当初の目的だったはず、なのに何でリリアを舐めた時の味まで再現しなければならないのだろうか?
そうなった理由は、単純でクルシナが。
「そんな中途半端な出来の物では満足できない! もし、満足させるリリアの人形を作る事が出来ないのであれば、この城で大暴れしてやる!」
と騒いだから。
当然相性が悪い上に、大暴れのどさくさに紛れて、捕まえた少年やグロリアの妹たちが逃げる可能性もある。
そう考えたら、自然とクルシナに従うしかなかった。
だが、人形の肌の味の調整と言うのは初めてなもので、当然上手くはいかない。
それも、料理等と違って、ほんの僅かな調整だ。
具体的に言うなら塩一粒、砂糖一粒というレベルのお話。
それを高い魔力をずっと集中してやるものだから、私は生まれて初めて精神の疲労を感じている。
それも、入社試験の時、魔力の量が素晴らしいと評価された私がだ!
あぁ何でこんな事を……。
そう思いながら、瞳に魔力を集中し、人形を作り出す。
結果は。
「おいセレス! 味が悪くなったぞ! もっとしっかり甘味を利かせるんだ! このリリアマイスターの称号を名乗る私の下を満足させて見せろ!」
「わ、分かったわよ……」
残念ながら悪くなった様子、と言うか何がリリアマイスターよ、ただの変態じゃない……。
はぁ、全くリリアちゃんもかわいそうよ、こんな変態が母親なら……。
ホント、リリアちゃんが敵にならなかったら、この変態を調教しなおして、まともにしてあげたいけど……見事なまでに欲望のケダモノよね、私じゃ手が負えないような気がするわ……。
そう思いながら人形を作った時の事だった。
「ん! おぉこれだよコレ! アタシが求めていた味付けはこれに近いんだ! だがもう少し何かが足りないんだよなぁ……。 あと一息だ!」
「そう? そうなの!?」
うん? 私、何故こんなに上手くいったんだろう?
正直、集中力も切れ、ほぼ軽い気持ちで作っていると言うのに、どうして?
……もしや気持ちをこめて作ると、影響が出るの?
そう考えた私は、とりあえず試しにリリアの考えそうな事を想いながら作ってみることにした。
(お母さまはホント変態で常識が無いのが情けないです……)
そして人形を作り終えると、そのままクルシナに渡す。
「おぉ、かなり近づいてきた! 良いぞセレス! それに瞳が生き生きし出したじゃないか!? ドンドン上手になっているのではないか!?」
む? 確かに今までの人形と違い、しっかり瞳に光があり、ホンモノと変わらなくなっているかもしれない……。
なるほど、相手の心に近ければ近い程、いい出来になるものだったのね……。
ふふ、魔王になって成長するとは思ってなかったわ、不本意だけどクルシナには感謝すべきかしら?
さて、もうひと頑張り……しかしどんな考えが足りないの……。
リリアはどんな態度をクルシナに取っている?
……そう言えば、毎日ではなくとも、定期的に舐めさせていたわね、正直アレは引いたし、リリアが可哀そうだったけど……。
でも、それって愛情がなければできない事よね、嫌いだったら嫌がればいいのであって……。
よし、少し試してみよう!
(お母さまはホント変態で常識が無いのが情けないです……。 ですけどリリアは願っています、いつかマトモになる事を……)
そう思いながら、私は人形を作りあげた。
不思議と今までで最もいい出来な様な気がした。
まだ動くように性格の設定もしていないけど、不思議とただ眠っているだけの様に感じる出来……。
今までにない達成感と言うか、考えたことの無い喜びと言うか、それは例えようのない高揚感だった。
そんな最高の作品の評価は……。
「文句なしだ! よくやってくれたなセレス!」
「ふん、当然でしょう!」
そんな評価に強がった私だったが、右手を握りしめる程嬉しかった。
そして魔法で、クルシナに甘える様に設定すると、クルシナは「ヒャッホォォォォォ!」と喜びながら、早速ペロペロ舐め始めた。
……うん、私は一体何をやっていたのだろう?
「ま、まぁ
そんな行動で現実に戻された私は、そう言って客間を去ると、当初の目的であるとある人物を魔王の間に連れてくることにした。
何なのだろうあの人は、ホントに……。
結果オーライとはいえ、見事に計画が狂ったわよ……。
…………。
「イヤだ、お前に絶対手を貸さないからな! 俺があの時、腹の痛みでどれだけ地獄を見たか……」
目には目を、歯には歯を、変態には変態を……。
そんな結論に達した人形を使い、牢屋から変態の双璧を椅子にグルグル巻きにして連れ出し、話を聞こうとした所、いきなりそのような事を叫ばれてしまった。
あぁ悲しい、悲しいわぁ……、こんな事言われるなんて……。
そんな態度を取られたら……。
『えー今から何故ノブユキが童貞なのかを考えてみようとおもうの!』
『『『わ~~~』』』
「わ~~~止めろ~~~!」
不本意だけど、全てユキが出演者の話し合いの劇をしなければいけなくなるわ……。
あぁ、少年が顔が真っ赤になっている、あぁたまらない少年の苦悩の表情が良いわぁ……。
『私が考えるに、ノブユキが童貞なのは、きっと大人のお姉さんにリードされて(自主規制B)をしたいからよ! だからお姉さん系のエロ本ばかり集めているし、お姉さんらしい雰囲気を持つクルシナさんやグロリアさんにはなぜか未だにさん付けしてるし……』
『流石私! 大賢者なだけはあるわ!』
『でも、ノブユキって童貞の癖に生意気よね?』
『機能不全のノブユキの癖に……』
「わぁぁぁぁぁぁぁぁ! 止めろぉぉぉぉぉぉぉ! 頼む! 手を貸す! 手を貸すから、もう止めてくれ!」
どうやら、お姉さん大好き少年は、素直に私に力を貸してくれることになった。
そして私は指を鳴らすと、先ほどまでいたユキの人形たちがスッと消えさり、やっとお話に入ることになった。
「……それで何をしろって言うんだよ?」
「セレスさんって呼んでもいいのよ?」
「正直、たまに言いそうになる自分がいる……」
「ふふ、お願いしても良いのよ?『セレスお姉さま、僕をナデナデしてください』って……」
「誰が言うか、誰が! お前一体何を……、あの、ごめんなさい、なめた態度をとって……なのでお願いです、またユキを使った劇の準備をしないでください……」
「チッ……」
私は舌打ちしながらも、人形を消し去ると、早速本題に移る事にした。
もうちょっと抵抗してくれたっていいじゃない……。
「簡単に言うわよ、今クルシナがここに来ていて、条件を満たせば私の部下になるって言ってきているの」
「は? いったいどうしてだよセレスさ……、セレス?」
「素直になっても良いのよ……?」
私は、色気ある声を出しながら、少年の足の太ももの上にまたがり、指先で円を何度も描くように頬を触る。
この時の少年の仕草が私は最も大好きだ。
理性を保とうと、モゾモゾ足を僅かに動かしているみたいだけど、息は荒く、そして顔は赤い
そして、頬を一周撫でまわす度に、目元の視線がフルフルと揺れる。
あぁ、少年の理性が壊れそうで、たまらなく面白いわ~。
ふふ、このままじっくり壊してしまって……。
「や、止めろよ……セレス……さん……」
「ふふ、嫌って言ったら?」
「ど、どうしようもないだろ……? 縛られているんだし……」
「じゃあ、お姉さんこのまま続けて……」
「おいセレス! 分身が消えて、ペロペロタイムが終わってしまったじゃないか! 早く分身を……!」
あ、そう言えば消し去る人形を指定し忘れてたわね……と言うか、何でクルシナは空気が読めないのかしら?
はぁ、とりあえずもう一度分身を作って……。
「く、クルシナさん! 俺を助けたら、リリアちゃんが大好きになってくれますよ、きっと!」
「何!? ホントかノブユキ!」
「ええ、きっとそうです! リリアちゃん、クルシナさんの事、大好きになってくれますよ!」
あぁなるほど、そんな手を……あぁぁぁぁぁぁもう!
なんて言うと思ったの? その手は想定済みなのよ!
そして私は、姿をリリアに変え、そしてクルシナに抱き着き。
「お母さま、リリアの為に、魔王の部下に落ちてくれますか……」
涙目でそう訴えた。
そして当然。
「あぁ当然だ、リリアの為だったら何だってやってやる!」
かっこいい顔つきで魔王の部下になると誓った。
あ……冷静に考えたらダメじゃない、これじゃ……。
あぁ、リリアちゃんに申し訳ないわ……。
…………。
「ちっくしょぉぉぉぉぉぉ! セレスさんが邪魔しなければ脱出できたかもしれないのに! 何であんな馬鹿な事をするのですか!?」
「それはアナタよ少年! アナタがあんな事を言わなければ、クルシナを配下にする事になるこの手は使わなかったわよ! この童貞!」
「セレスさん、人のせいにするなよ! ずるいぞ!」
「女性は尊重するべきものなんです~! だから許されるんです~! 童貞の癖に生意気じゃないですか~?」
その後、私と少年がしばらく、互いに責任を押し付け合うように言い争ったのは言うまでもない。
あれ、ところでクルシナの姿が見えないみたいなのだけど……。
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