番外編 前編 華麗なるクルシナの観察日記……についての相談
今日、ユキとノブユキと言う異世界の人間に出会った。
始め理性が飛んでいた私だったが、なんやかんやでスパーク果汁の問題は解決した。
そんな事より今日も可愛いリリアは今日も可愛らしい。
尻尾をバタバタ、瞳はウルウル、今日もじっくりペロペロ舐め尽くしたいくらいの可愛さだった。
なのに、リリアは冒険に行くと言い出した。
これは決して許されない事だ!
その理由は、この銀狼族で唯一の子供となってしまったリリアが旅に出るという事は、アタシに死ねと言っていると同意義なのだから。
例えばリリアにペロペロできないとどうなるか?
そう、リリアの成長を体で感じることが出来ない訳だ。
これは子供の成長を肌で感じたい親の子育ての尊厳を奪う悪しき文化であり、テロ行為に等しい事だ。
そんな親の楽しみを奪うなんて許されない、そう思い反対したのだが、反抗期のせいか、リリアは旅に出てしまった。
だが私は決してあきらめない、リリアの傍を離れるなんて!
ここから私のリリアを取り戻す聖戦が始まるのだろう。
やっぱ死ねと言ってるのか、これは?
アタシに死ねと言っているのか、神?
とりあえず私は、今日のメインディッシュとしてリリアのタンスからシャツを取りだし、クンクン匂いを堪能した後、じっくりペロペロと嘗め回し、リリアのシャツの味のテイスティングを行った。
結論から言えば、実に芳醇な香りに味わい深い酸っぱい汗のにおいがした。
きっとこのシャツは、リリアの修行の時の汗が染みついているのだろう。
なので92点の満足度であった。
…………。
今日は麗しのリリアと一緒に戦闘に行った。
だが、リリアにバレてはいけないと思い、マスクをかぶったがそこはどうでもいい。
正直、マスクごしに感じるリリアの希望に満ちた眼差しに私は興奮した。
それだけではない、マスクをする事によって、銀狼族の嗅覚が抑えられ、匂いを想像すると言う新たな新境地へとたどり着くことが出来た。
『きっと今は、喜びによる甘い香りと、汗による酸っぱい香りが合わさり、味わい深い味が作られているのだろう』
笑顔のリリアを見ながらそう考えると、口の中の唾液が止まらなくなった。
あぁ、その笑顔をペロペロしたい……。
今日のメインディッシュは、布団に包まるリリア。
まず見た目が美しい。
可愛らしい寝顔を浮かべ、丸めた体に布団を纏わせる。
そしてそこからモフモフの尻尾を出し、たまにそれをフリフリ振っている。
だが残念ながら、人間のシャンプーで体を洗った影響か、リリア特有のリリア臭が無くなってしまい、香りを楽しむことが出来なかった。
またユキやセレスが一緒にいるので、残念ながらペロペロとテイスティングを行う事も出来なかった。
なので本日は54点、全く持って問題外だ!
…………。
今日はユキがさらわれたらしいが、そんな中でもリリアは麗しい。
心配そうな表情で悩むリリアも味わい深くて良いだろう。
そんな表情がアタシの妄想を加速させる。
きっとリリアはいずれ悩ましい表情でこう言うはずだ!
「お母さま、愛情が……欲しいです……。 もっと愛あるペロペロを……」
とアタシにお願いを……。
想像したら鼻血が止まらなくなった。
これで、今日はリリアニウムを取らなくても平気かも……やっぱり、リリアニウムは取り貯めしておきたい……。
そんな今日のメインディッシュは、怯えている様子で眠るリリア。
もしや怖い夢でも見たのだろうか?
だが、「怖いです……怖いです……」と言う可愛らしい寝言と寝汗のコンビネーションは実にリリアの可愛さを増す結果となる。
そして、その時アタシとリリア以外居なかったので、我慢できずにアタシは久々の生テイスティングをしてしまった。
すっごく良いお味でした……。
久々に広がるリリアの味……、それは濃厚で酸味があり、そしてアタシの神経を高ぶらせる美味しさ……。
このバレるか分からない刺激に数日熟成された旨さを考慮し、98点の点数をつける事にする……。
デリシャス……。
…………。
泊まっている教会の寝室の机の上に乗っていた母の日記には、この様な事が書かれており、それを読んだことで私は寒気に襲われた。
今まで私は、母がここまでの変態だと思っていなかった……。
その、もう少しマトモだと思っていたんですよ……。
「だけど、私どうすれば良いか分からなくて!? グロリアさん、私、どうすればいいのでしょう!?」
「なるほど、え、えーっとですね……ちょっと待ってくださいね……」
そして私は、カフェの机をバンと両手で叩き、今の思いをグロリアさんにぶつけ、グロリアさんは口に手を当てて考え込む。
その、大変難しい質問だとは自分でも理解しているのですが、こういう時は、やっぱり頼れる大人の意見で納得して落ち着きたいので……。
「え、え~っと、あの……これってどうするべきなんですか、私……、な、何が答えなんですかね、私……。 何か、選択間違ったら殺されかねない気がするのですが……」
あの、グロリアさん、私のために一生懸命考えているのは分かりますが、声にもらさないでもらえたら……ですね……。
ちょっと声に出されたら、申し訳なさがですね……。
しかし、何で急に顔が青ざめているのです?
それと、何に殺されるのです?
…………。
少しの沈黙の時間が過ぎた頃、グロリアさんは大きく息を吸い、両手を机の上に置くと。
「えーっととりあえず落ち着いたので、お話を始めますね」
と真剣な顔つきでの発言から、私への回答が始まった。
「あのリリアさん。 そのクルシナさんに関して言えば……ひ!?」
「あれ? グロリアさん、突然怯えてどうしたんですか?」
「あの……クルシナさんが後ろ……いえ、何でも無いです……」
「へ?」
どうしたのでしょう、グロリアさん? 急に表情が青ざめてらっしゃるのですが……。
「と、とりあえず……け、結論を言いますね……、その、その……。 きっとクルシナさんなりの愛なのです! 正しい行為です! きっとそうですから、睨まないで!」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ! ぐ、グロリアさん正気ですか!?」
「いや、その……ホントは違うのですけど……いえ、違いません真実です!」
「ど、どうしたのですかグロリアさん!? 今日顔色悪いですよ、病気ですか!? きっとそうです、グロリアさん風邪ですよ!」
「だだだだだだだだだだだ大丈夫です!? だから殺さないでください!」
ホント、いったいどうしたのだろう、グロリアさん?
うーん……。
もしや、術者に何か呪いを飛ばされているとかかもしれませんね、これは優しいグロリアさんを助けるチャンスです!
私はそう思うと、一定範囲内にいる中で、現在魔法を使用している人物を探知できる魔法、マジックサーチをこっそりと自分に使用し、回りを素早く見渡した!
「……あれ?」
だけど、不振な姿も無い、マジックサーチにも反応は無し……。
とすると? ただ体調が悪いだけかも?
それなら、水がいるかもしれませんね、これは……。
「すみません、水をいただけますか、二人分!」
「分かりました、お客様!」
私は丁度通りかかった店員さんにそうお願いすると、店員さんは笑顔を浮かべて、手に持っていた銀の水差しを使い、ガラスのコップに水を注いでくれた。
「あの……大丈夫ですか、グロリアさん?」
水が注ぎ終わると同時に、私はどこか息の速度が定まらないグロリアさんにそう声をかける。
だってグロリアさん、ちょっと胸が痛むのか、手で押さえてますし、流石に心配になりますし……。
そんな私の様子に、グロリアさんは青ざめた顔色で。
「だ、大丈夫ですよ~、ちょっと精神的な負担が大きくて、胸が痛むだけですから~。 大丈夫! 何でもないですよ~!」
と明らかに無理を思わせる様子、一体どうしたのだろう。
私はそう思いながらも、無意識に水の入ったコップを手に取り、口に運ぼうとした時。
「お、お母さま……」
鬼の様な形相で、壁から顔を出してこちらをのぞき込むお母さまの姿が、水の入ったコップに反射して映る……。
つまり、グロリアさんは先ほどから、お母さまに脅されていたという事……。
ですが、こちらが覗いたところで、一瞬で隠れてしまうのは目に見えています。
ならば、お母さまの性質を使ったこの手を使わざるを得ません。
「グロリアさん、体調悪そうなので、おまじないをさせて下さい……」
私はそう言ってグロリアさんの横に移動すると、グロリアさんの頬に優しくキスをする。
優しく、長く、そして愛情込めて……。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! アタシですら、頬キッスはまだだと言うのに、魔王貴様あぁぁぁぁぁぁぁぁ! アタシの欲しかったリリアの初めてをぉぉぉぉぉぉ! 羨ましくて殺意しかわかないぞぉぉぉぉぉぉぉ!」
そして、あからさまな罠にかかったお母さまが、釣られてやって来たので。
「光よ! 荒々しき身体を拘束せよ、バインド!」
私は拘束魔法のバインドでお母さまを捕らえることに成功したのであった。
…………。
「あの、本当に助かりました、リリアさん……。 なにせ恐ろしい表情でこちらを睨んでましたので……」
「ホント、お母さまが迷惑をかけて申し訳ありません!」
縛られたまま正座するお母さまを前にして、私はグロリアさんに何度も頭を下げて謝った。
なのに、お母さまときたら……。
「あぁ、たまらない……、リリアに拘束されてたまらないぞ……。 ふへへへへ、高速したアタシをリリアがきっとペロペロするに違いない! さぁリリア、遠慮なくアタシをペロペロするんだ! 激しく、一目など気にせず!」
とても興奮しているのか、よだれを垂らし、目を見開き、激しく尻尾を振っている。
「お母さま! 何を考えているのですか!? もう少し私の気持ちも考えてください! グロリアさんにも申し訳ないですし、私もそんなお母さまが恥ずかしく感じます!」
流石にそう叫ばざるを得なかった。
そんな私も感情的になっていたのか、気づけば私の頬から涙が零れていた。
正直情けない、私の母親がこんなダメだなんて……。
「リリア……すまない……」
「え……」
お母さまが、悲しそうな顔をしている……。
「リリア……グスッ、すまない……。 アタシは、アタシはお前が大切で仕方ないんだ……。 お前が一人娘であるから……グスッ……」
お、お母さまが泣いている……。
も、もしやお母さまホントに私の事を大切に……。
そう思った時、私は自然とお母さまの前に顔を差し出していた。
涙が頬を伝って落ちる。
それは、お母さまの不器用な思いを知った嬉しさと、それに気づかなかった自身の愚かさを感じて……。
「お母さま……」
「リリア……」
あぁお母さま、今までお母さまの愛に気づかなかった私を許してください……。
そう思った時だった。
ペロリ……。
私の頬に走る舐められた感覚、そして頬の横にはお母さまの顔……。
おかげで私の悲しみは一瞬で消え、代わりに怒りが湧きだしてきた。
「お母さま……! いったい何のつもりです……」
私はお母さまの顔を至近距離で見つめながら、そう問い詰める。
すると、お母さまは私の視線から目を反らしながら。
「い、いや……アタシもそんなつもりじゃなかったんだが、その、条件反射と言うか……、何と言うか……。 その、とりあえず、100点のお味だった、ありがとう……」
そんな言い訳を私に言った。
……もう……もう……。
「もう、お母さまなんて、大っ嫌い!」
「ぎゃ!」
私はお母さまにビンタをして走り去った。
神様、もしいらっしゃるのでしたらお願いです。
もっとお母さまをまともにしてください……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます