番外編 優しい魔王は苦労が多い 前編

 「ぐ、グロリアさま申し訳ありません! ゆ、勇者を倒すことが出来ませんでしたあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 「あの、アラライザーさん……。 土下座するのは結構なのですが……その、服を着ませんか? あと、出来れば立たないで欲し……」

 「へ? それではグロリア様、つまり許していただけると! ならば、持てる俺様の魅惑のポーズであるお辞儀を……」

 「きゃ、きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 「む? ぬわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 私はつい、右手を振り上げ、アラライザーさんを天高く吹き飛ばし、魔王城の天井に穴をあけてしまった……。

 その、私は一様女性なので、その、生々しい裸を異性に見せる風習はどうにかしてほしいと私は願っているのですが、アラライザーさんの様な巨人族の方や、一部の鬼人族の方々から『伝統的な裸の文化を無くすのか!?』『全裸になって何が悪い!』とのご苦情がある為、未だに廃止できずにいます。


 えっと、その、別に文化を守るお気持ちはよく分かります、分かりますよ。

 ですけど、その、全裸と言うのはいかがなものかな?と思いまして……。

 その、できればパンツだけは履いてほしいなとですね……。

 その、お願いします……。


 私がそう思いつつ、悲し気に天井の穴を眺めていると。


 「やっほ~リーちゃん~、自称リーちゃんの右腕のアラライザーが空高く飛んでいったけど、また殴った?」

 「あ、ミーティアさん……」


 私の秘書をしてくださっている、ラグザエル・ミーティアさんが右手をヒラヒラと振りながら、いつの間にか私の目の前に立っていた。

 ミーティアさんは、私と同い年の秘書さん。

 おっとりと活発さを混ぜたような顔立ちをしていて特に光の無い不思議な瞳をしていらっしゃいます。

 身長は私より少し小さい位、そしてヒラヒラのついた白い上着に綿の長ズボンという秘書には見えない恰好をしていて、秘書なのにあまり秘書らしい仕事なんてしてくれません……。

 ですが、裏表の無い素直な性格と言いますか、その明るい性格が好きで、時折話し相手になって貰っています。

 そんな彼女に私は両指を合わせながら目線を反らして。


 「えっと、はい……。 全裸だったもので……」


 と正直に答えました。

 正直、胸のドキドキを言葉にして吐き出したかったと言いますか、自分を落ち着けたかったと言いますか……。

 ともかく、私はミーティアさんと話してスッキリしようと思ったのですが。


 「へ? アイツの(自主規制A)見たの(自主規制A)を? はっはっは、それ位いいじゃん別にさ~! だって好きな人と(自主規制B)する時、どうせ(自主規制A)なんて見るでしょ~? ホント、リーちゃん純情なんだからさ~。 たかが(自主規制A)くらいで~」


 その、裏表がなさすぎると思います、ミーティアさん……。

 

 「あ、あの、ミーティアさん、もう少し女性なのですから……その、発言する言葉は……」

 「へ? リーちゃん(自主規制A)って言いたくないの? だって(自主規制A)なんて3文字の言葉で、男の股から生えてるモノって長々しく言わなくても通じるんだよ! (自主規制A)って言うだけでそれが! ほら(自主規制A)って言ってみなってリーちゃん、ほら(自主規制A)、(自主規制A)~」

 「…………」


 私は余りに自主規制が多いため、赤面させた顔を両手で隠した。

 だって、私は魔王ですけど、その前に女子なんですよ!

 そんな事恥ずかしくて……。


 「ほーらリーちゃん、よろ(自主規制A)とか、こんに(自主規制A)とか言えると、とっても男ウケ良いよ~! 合コンのエロテロリストの異名を持つ私が保証するから! さぁご一緒に、よろ(自主規制A)こんに(自主規制A)」

 「ご、ごめんなさーい!」


 私はつい、ミーティアさんを両手で突き飛ばしてしまい、彼女を壁にめり込ませてしまった……。

 その、条件反射なんです……白目向かせる気は無かったんですミーティアさん……。


 …………。


 「全く……リーちゃん! 女の子が(自主規制A)って言われた位で相手を突き飛ばしちゃダメでしょ! 世の中には、当然のように全裸で歩いて(自主規制A)を見せてくる不審者がいるんだから!」

 「はい……」


 あの……なんで私は正座させられているのでしょうか……?

 あれ……? あれ~~~?


 「そもそも、(自主規制A)が無ければ、私たちは生まれてこなかった訳だし、(自主規制A)があるからこそ、(自主規制B)が出来る訳なの! 分かるでしょ?」

 「は、はぁ……」


 あの、それは合意の上の話と言いますか、今回はそれと違ってアラライザーさんの一方的なセクハラなのですが……。


 「という事で解散! 私は合コンが夕方からあるのでこれで!」

 「は、はい……って、え!? あの、ちょっと!?」


 そしてミーティアさんはウキウキしながら魔王の間から去っていきました。

 その、何と言うか合コンばっかりしてないで秘書の仕事を……あ! その前にご飯を作らないと!


 …………。


 「今日は何を作りましょうか……」


 割烹着を纏った私は、テレポート魔法でリンデンゲーベルにやって来た私ですが、なかなか晩御飯の献立がなかなか決まらないでいます。

 そう言えば、安売りで買った牛乳が冷却倉庫にありましたし、うーん、シチューもいいですよね……。

 あ、それならサラダにパンに……、そうですね、チーズなどもあれば、城の皆さんも喜びそうですね!

 しかし、そうなるとシチューに旬の野菜を入れたいですね、何が良いでしょうか……。


 「お、グロリアちゃん! どうしたんだ、そんな困った顔をして?」

 「あ、スラグさん。 いえ、晩御飯に何を作ろうか考えていまして……」


 そう私が相談すると、スラグさんはガハハと笑いながら、一粒だけでも私の頭位はある、大きなニンニクを私に差し出してお勧めしてきました。

 とても大きくて『ほわわわわわわ……!』と口にするほど、私ちょっと驚いています!


 「ならば、クトゥルーニンニクなんてどうだい? 今年は豊作でね、いつもより20ルゲール安くて大きくて美味しい! その上ニンニクの様に口に匂いが残らず、健康にも良いから、実に素晴らしい食材なんだ! 今やこの町でちょっとしたブームを巻き起こす程に売れているぞ~!」

 「ほわわわわわ……。 そんな食材があったのですか! 知らなかったです……」


 こ、これは外回りで疲れた魔王城のみんなにピッタリの食材です!

 それに、女性魔族は食べ物の匂いが口につくことを嫌がりますから、これはとてもいい品です!


 「ただ一つ問題として、食べるとしばらく頭がおかしくなるな。 だから、去年まで発売してはいけなかったんだ」

 「ダメじゃないですか、そんなモノ発売しては!」

 「グロリアちゃん……。 人間ってのはね、コレやってないと死んじまうんだよ……。 あぁたまんねぇ、たまんねぇよ、この禁断の香り……」

 「完全に危ない植物じゃないですか! ダメですよ、そんなもの販売しては!」


 こ、これは世界の破滅に導く何者かの悪意が広まっていっているのではないでしょうか……?

 普通に考えれば、魔王の仕業と思われるでしょうが、魔王私ですし、そんな混乱をもたらす事は私は求めてないので……。

 そう考えていた時でした。


 「む? お前は確か……グロリアとか言う魔王ではないか?」

 「へ?」


 私の背後から私の名を呼ぶ声が……。

 その声に反応して振り返ると、綺麗な銀狼族の女性が立っていた。

 ですけど、見覚えが無いと言いますか、何と言いますか……、私って有名人なのかな?

 っとその前に、どなたなのか確認しないと……。


 「あの、失礼ですが、どなたでしょうか……?」

 「む、そういえば直に会うのは初めてだったな、アタシはクルシナ! リリアの母親だ! 以前リリアを見守っていた時に顔を覚えてな、よろしく頼む」

 「へ? リリアさんのお母さまなのですか!? あ、どうも以前リリアちゃんとお話させていただきました! その、リリアさんって、とっても素直で素敵な子ですね!」

 「ふふ、なかなか話が分かる人物みたいだな……」


 ふふ、話してみると、リリアさんのお母さまって感じがしますね。

 どことなく、顔立ちとか真面目そうな感じとか……。

 しかし、こんな所に何の様なのでしょうか?

 買い物という様子には見えないのですが……。


 「ところで、今日はどうされたのですか? この様な場所に来て?」

 「うむ、今日は新鮮なロリもしくはショタを探しに来たのだが、なかなか売ってなくてな」

 「はい?」


 えっと、流石にこの町でも奴隷の売買の様な事は行ってないと思います。

 と言うかですよ!?


 「あ、あの、いったい何故、子供を購入する為に探しているのですか……?」


 普通考えたら、そういう結論に達してしまうのではないでしょうか?

 そのどう考えてもおかしいと言うか……。

 いえ、あの正義心をもつ、リリアさんのお母さまです、きっと子供の保護か何かを考えて……。


 「勿論、ペロペロ舐め回すためだ! 最近リリアが『お母さま、毎日舐めないでください!』と言って毎日舐めさせてくれなくてな。 仕方なく代わりの子供を舐めることで活力を回復しようと思っている訳だ!」

 「すいません、理解が追い付かないのですが……」

 「つまり、子供への愛あるスキンシップだ!」

 「…………」


 あれ、あのリリアさんのお母さまですよね。

 冗談だと思いたいですけど、真剣な表情を見ると……嘘ですよね……。

 は! もしや、クトゥルーニンニクと言う食材を食べて錯乱状態に!?


 なら、仕方ありません……。

 ここはリリアさんの名誉の為、心を鬼にして、毒素をこの拳で……。


 「む! 分かったぞ、魔王貴様! ロリやショタを隠したな! アタシのエナジーの元を奪い取るとは許せん、覚悟しろ!」

 「何でそんな発想に至るのですか!? 私にそんな趣味はありません!」

 「嘘を付くな! リリアに好印象の人間はロリやショタが大好きって決まっているんだ! だからお前も同類だ!」

 「し、失礼ですよ! 仕方ありません。 正気を失っているみたいですし、その、不本意ですが気絶してもらいます!」


 私のその言葉を聞いたクルシナさんは、素早く間合いを取り、私を中心にグルグル移動しつつ、様子を伺っているみたいです。

 流石、身体能力が高いと噂の銀狼族、それも並大抵の素早さではないでしょう。

 それは、普通の人ならば目で追うのがやっとな位に……ですが。


 「ごめんなさいクルシナさん。 あまりリリアさんに恥を晒させないよう、殺さない程度の一撃で倒してあげます……」


 そう呟いた私は、一瞬でクルシナさんの目の前まで間合いを詰めると、死なない程度に拳をクルシナさんの腹部にめり込ませ、そして街の外壁に叩きつけた。

 えっととりあえず、ノブユキさん達を探してみますか。

 確か、ユキさんが神の子って話でしたから『神の子はどこでしょう?』と聞けばすぐにわかりそうですけどね。


 そして私は、白目を向いて建物の鉄の壁にめり込むクルシナさんをおぶると、ノブユキさん達の居所を探し始めたのでした。


 …………。


 「グロリアさん、この人、元から変態なんだよ……」

 「へ? ノブユキさん、あの、その……」

 「あの、ありがとうございますグロリアさん! 母が町中に恥を広めるところでした……」

 「あ、ど、どういたしましてリリアさん……と言って良いのでしょうか……」


 クルシナさんをノブユキさん達がいる部屋に運び込んだ私は呆れた顔でそう言われました。

 えっとあの、正気でコレって嘘ですよね、その、流石に信じられないのですけど……。

 そう思っていた時でした。


 「ん? んん!? 気絶から目を覚ますと、そこには愛しのリリアの匂いが充満していた……、もう辛抱できない! うぉぉぉぉぉぉぉ……」

 「へ? うわぁぁぁぁぁぁぁ、お母さま落ち着いて! 落ち着かないと嫌いになりますよ!」

 「未来のペロペロより今のペロペロ! もうアタシの理性は現在に墜落している! さぁアタシとペロペロベタベタしよう!」


 突如起き上がったクルシナさんは、あっという間にリリアさんに覆いかぶさり、ペロペロと顔を舐め始めました。

 ……うん。


 「ノブユキさん、その魔王である私が言うのもなんですけど、クルシナさんは精神的に病んでいる様ですから、どこか精神的な医療を行える方の所へ連れて行った方が良いと思うのですが……」

 「グロリアさん、重度のロリコンって不治の病なんですよ……」

 「ノブユキ。 ロリコンであるお前が言うと、説得力があるな」

 「うっせぇ不良教師! これだから結婚不適合者は……あ、ごめんなさい、嘘です、ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 「…………」


 私は、やや冷ややかな目線を誰も映らない映像に向けてしまった。

 その、流石に結婚不適合者って女性に失礼ですからね、ノブユキさん。

 あと、年上にはちゃんと敬語を使うべきですよ……。

 そんな時でした。


 「リーちゃん見っけ!」

 「へ?み、ミーティアさん!?」


 突如激しく扉があいたと共にミーティアさんが、賢者の様な恰好の方と共に、部屋に入ってきました。

 そして。

 

 「あ、リーちゃん、一人これなくなっちゃってさ~、だから今から一緒に合コン行くよ! あ、こっち合コン仲間のセレスっち! それじゃあレッツゴー!」

 「へ、あれ、あれ~~~」


 ミーティアさんに右腕を掴まれると、私の意思など関係なく合コンと言う物に参加させられることになったようです。

 ……ってあの、一体どういう事なんですか~~~!?

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