巨人アラライザーとゴブリンの群れ

 「よく出てきたな、勇者ユキ。 だが、私を目の前に恐れで声も出ない……」

 「うるさい! 私悪くないもん! グロリアさんが悩んでいるのは私が原因じゃないもん!」

 「な、貴様! 普通相手の話は最後まで聞くという礼儀をだな……」

 「うるさいデカ人間! 嘘つきは泥棒の始まりって言うじゃない! 嘘つきはそれほど最低な事なのよ!」

 「そ、そんなつもりは……」

 「ホントの事を言われたからってすぐ言い訳!? それって最低じゃないの!? ねぇちょっと!」


 これは珍しい、ユキが言い合いで押しているとは……。

 そう感心してモニターの映像を見る俺だが、そんなユキの後ろでは。


 「流石ユキ様、偉大なる神の子であられる事はあります!」

 「ゆ、ユキさん頑張れ~!」

 「い、一生懸命応援するリリアもたまらんな……」


 とそれぞれ仲間達らしい発言。

 お願いだから、もう少し緊張感を持ってくれないかな……。

 ん? 何でこの巨人笑っているんだ?


 「ふふふ、俺様は大変ツイているな……、なにせ俺様は女子泣かせおなごなかせのアラライザーの通り名を持つのだから……」


 そりゃ泣かせるだろうね、だって不潔だもん。

 フケが目立つ頭、伸ばしっぱなしでボサボサの胸毛、中年の様なだらしない腹……。

 そんな男、女性が嫌がるに決まってるだろボケ。


 「な、何か臭いんですけど……」

 「ガハハ、俺様の匂いにメロメロになってるみたいだな、ほら嬢ちゃん、もっと嗅いで良いんだぞ?」

 「う……吐きそう……」


 おい、ふざけるなよ……。

 何で可愛いリリアちゃんに不快な思いさせてるんだよ、おいコラ……。


 「ならば、もっとメロメロにさせてやるわ! そら!」

 「う!? おえぇぇぇぇぇぇぇぇ……」


 そして巨人がそう言って全裸になった瞬間、匂いがきつくなったのだろう、リリアちゃんは素早く門の隅に吐いてしまう。

 と言うか、あ? リリアちゃんに何やってんの、このデカブツ?

 もう、流石に黙っている訳にはいかないな、一度ユキに言って、あの汚いゲス巨人にロケットランチャーを……。


 「待て、私に任せておけ」


 そんな怒りでいっぱいだった俺を止める様に、先生がそう俺に声をかける。

 うん、冷静さを欠いた俺より先生の方がまだいいな、ここは先生に甘えるとするか……。

 そして、先生は画面に意識を映したその時、巨人はガハハと気味の悪い笑みを浮かべながら。


 「ふふふ、そこの女達も、遠慮せず悲鳴を上げて良いんだぞ? この素敵な俺様の魅力に……」


 と実に不愉快な事を女性陣に向けて口にし、ゴブリンたちもそれに続いて下種な笑みを浮かべる。

 のだが。


 「「「で?」」」

 「え?」


 リリアちゃんを除く女性陣にはそれが全く通じないらしい。

 そんな予想外の反応に巨人は動揺を隠せないらしい。


 「な、何故お前たちは俺様の魅力を見て、何ともないんだ!?」


 と声を上げる。

 すると女性陣は冷静な顔つきで。


 「正直、ノブユキので見慣れてる」

 「まぁ汚いってだけですから、ホント。 好きな人の以外は……クスクス」

 「ショタなら魅力的だが、熟成された汚物に興味はない!」


 とそれぞれコメントを……ちょっと待てクルシナさん、それってブッチギリでヤバイ発言だよな!

 腕を組んで堂々と言える内容じゃないから!


 「こ、この世に俺様の魅力が通じない女子がいるとは、うぐぐ……。 何故だ、何故なのだ!?」


 お前は何をどうすれば、自分に魅力があると思えるんだ?

 そして、そんな巨人に対し、先生がトドメの一言をぶつける。


 「ふっ可愛い子ネズミ……」

 「言うなあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 どうも巨人の子ネズミはコンプレックスな部分だったらしい。

 見事に頭を押さえ、地面にガンガン押し付けているし、と言うか何でコンプレックスを隠さないんですかねぇ……。


 さて、そのスキに先生は、手慣れた手つきで細い竹を西門を囲う様にスッと生やす。

 だが、一体何の為だか分からない?

 壁にするならいつもの石の壁にした方がいいだろうし、それ以前に全く意図が分からない。

 一体何故……。


 「おーすごいな、竹が生えたぞ~。 しかし活用価値がなさそうなコマンドだな~」


 この人、ただ試しただけかよ!? と言うか状況を考えてくれよ!

 そして、更に悪い事に、先生のリアクションは丸聞こえだったらしい……。


 「がっはっはっは。 俺様の魅力が分からない程のバカだった訳か! ガハハ、ならば俺様の強さを嫌と言う程知るが良い! 決して子ネズミで無いと理解させるために!」


 あ、マズい! 巨人が突っ込んできた!? つーか、まだ気にしてるのかよ、巨人の癖に、小さい奴……。

 その時だった。


 「ぐ、ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 突如巨人の足元から柱が生え、それが股間に直撃する、あぁすっごい痛そうだな……。

 だってモロにあそこを押さえて地面をゴロゴロ転がってるし、あ~なんか俺、寒気がするな……。


 「バカだろデカブツ、こんなバレバレの手に引っかかるなんて……。 さてユキ、次はお前のロケットランチャーでアイツのネズミをこんがり焼いてやれ!」

 「ラジャ、先生!」


 いや、俺も分かんなかったよ、そんな恐ろしい手を使うだなんて……。 と言うかその追い打ちは止めろ! 見ていて痛々しいぞ!

 ほら止めて差し上げてよ、あの巨人、首をものすごくブンブン振ってるから!


 だが、そんな願いは叶わなかった。

 ユキは容赦なく巨人に向けてロケットランチャーを放ち、俺は今日ほどユキが恐ろしいと思ったことは無かったと感じつつ、その様子をただ眺めるだけだった。


 …………。


 「ぎ、ぎいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 その巨人の断末魔が俺の脳裏から離れない。

 それは、断末魔の音声を何度もリピートして聞いているかの様……。

 泡を吹いて倒れている巨人のハツカネズミは、真っ黒に染まり、まるで真っ黒い衣装を着ているかの様……。

 その様子にゴブリン達は。

 

 『ど、どうする……』

 『アラライザー様がやられたんだ、どうもこうも逃げるしかないだろ!』

 『そ、そうだ! あんなヤバイ連中、相手にしていたら命がいくらあっても足りねぇ!』


 とやや慌ただしい雰囲気に包まれて行っている。

 そうだね、股間に容赦なくロケットランチャーぶち込むような連中ってやばいよね、おまけにその仲間が邪教徒の幹部に、子供大好きの変態がいると来たもんだからな……。

 と言うか何かゲームで敵の大将を倒した後のモブ兵と同じ様な事を言うんだな、ホント……。


 『モイヤ! お前は逃げろ! そして、この場を生き延びてくれ!』

 『な、何を言うガブ! 私だってゴブリン乙女騎士の一人、お前を死なせはしない!』

 『何を言うんだ!? お前をどれだけ思っているって言うんだ!?』

 『ならば、お前にも言おう! ガブ、私がどれだけ思っていると言うのだ!』


 ん、何だろうあのゴブリン達?

 すっごい主人公とヒロイン感があると言うか……ゴブリンだけど。

 ホント、他の連中と違って互いに剣をこちらに向けてカッコいい雰囲気だよなぁ……ゴブリンだけど。

 顔も整ってるし、絶対人間だったら美男美女だろうなぁ……ゴブリンだけど。

 ん? セレスの顔が怖いんだけど……、と言うか何で目が血走ってるの!?


 「これは……、こ、これは……おぉこれは……。 いけません、これはいけませんよ、親愛なる教団の皆さん! ここに異端者のカップルがいます! それも主人公感にヒロイン感、これはとんでもない大罪です! ヌッ殺事案です、皆さん!」

 『『『何……!?』』』


 あぁそういう事ですか、そうですか……。

 ってそう和んでいる暇はない!


 「おい、早くゲッホゲッホゲッホ……」


 ダメだ、大声で警告しようと声を出しても、咳が邪魔で言葉を伝えられない。

 だが何としてでも……。


 『おーおーこいつ等が異端者かいな……』

 『ぐへへ……いけねぇ、いけねぇなぁゴブリンさん達よ……異端な恋愛は絶対いけねぇよ……ぐへへへへ……』

 『異端者に死を……異端者に死を……』

 『サーチアンドデストロイ……サーチアンドデストロイ……』


 どう考えても、こっちが悪党です、本当にありがとうございました。

 セレスの声によって門から現れた軍団は、角刈り極悪な顔つきにスーツだったり、モヒカンに釘バットだったり、黒いローブを頭から被り、巨大なカマを持っていたり、ホッケーマスクに鉈だったりと物騒な軍団の見本市の様な連中で、全く素晴らしい殺気を放っていらっしゃる。

 あぁ、風邪が悪化しているのか、寒気がするな……。


 「それで……うんうん、なるほど! それは平和を愛する大賢者である私向きの仕事ね! その時は頑張るわ!」

 「ふふ、これはユキ様にしかできない偉大なお仕事。 ご期待していますわ!」


 さて、そんな殺気が門を覆うように発せられる中、その教団の幹部と邪神の娘は何やら和やかな雰囲気で何か話をしていたようだ……ユキ、お前は平和と賢者と言う言葉からほど遠いと断言できるからな!

 そして、そんな状況の二人や邪教徒達と違う雰囲気を持つ者たちがいた。

 腰を抜かして怯え切っているゴブリン達である。


 『おお、邪神様! 我々ゴブリンにご加護を、ご加護を!』

 『俺たち、今度から毎日崇めますから! 邪神様、お願いします!』

 『助けて、助けて邪神様! 俺たちまだ死にたくない……』

 『お、お願いです邪神様! あの神の使徒共に大いなる災いを!』


 お前らと同じ、邪神の使徒なんだなぁコレが……。

 だけど分かるよゴブリン達、おかしな連中が殺気を放つと怖いって事が嫌でもな……。

 そんな中。


 『お前たち、逃げろ! ここは我々が引き付ける!』

 『ふふ、伊達にゴブリン乙女騎士に所属はしていない……、来い我らゴブリンの敵よ!』

 『ふっ、死ぬ日も同じか……モイヤ……』

 『だが、それは今日とは限らないだろ? ガブ……』

 『ふ……』

 『ふふ……』


 腰を抜かしたゴブリン達を守るかの様に、例のゴブリンカップルは邪教徒たちの前に立ちはだかり、そして肩を並べて剣を向ける。

 やっぱり主人公だよ、この感じ……。

 だが、その感じは邪教徒達の怒りを買ったらしい。

 邪教徒達は顔を真っ赤に染めながら。


 『なーにが死ぬ日が同じか……だ、ボケ、カス、マヌケ! 石鹸だ洗剤だ制裁だ! 奴らを月に替わってお仕置きするまで、我々信仰深いセレナーデ恋愛教団の聖戦は終わらないのだ、奴らを、特にあの主人公臭とヒロイン臭をやっちまえぇぇぇぇぇぇ!』

 『そうだぁぁぁぁぁ、特にあのゴブリンのさらさらヘアーを禿げ頭に変えてやるぜ~! これから毎日、髪を焼こうぜぇぇぇぇぇぇ!』

 『この戦いは、愛に基づき飽くなき優しさと癒しをモットーに行われた聖戦……ではありません。 そこのところ、お間違いなく! したがって……動くなよ? 一方的に洗脳できないから……』


 と大声で嫉妬を露わにする。

 やっぱこいつ等ロクな奴らじゃないな……。


 そして邪教徒改め、嫉妬に狂う悪党共が武器を片手に襲い掛かろうとしたその時。


 「ビックバン! ビックバン! ビックバム……あ、間違った……。 ビックバン! 喧嘩両成敗のビックバーン!」


 宙を舞うゴブリン達、そして邪教徒達、大地に光るわ大爆破。

 光る元を辿るとロケットランチャー。

 それを握るは乱射魔と化した女子校生のユキ。


 あぁ、風邪が酷くなったのかな……、俺すっごく頭が痛くなってきたんだけど……。


 「ん~もうちょっとロマン武器度が欲しいな……。 例えばロケットランチャーの弾を相手に突き刺して爆発させるとか……」


 そして、この不良教師は一体何を言っているのだろう……。

 ゲームじゃないのだからゲームじゃ……。


 「さぁ、もっとですユキ様! もっと両成敗するのです! 異端者を成敗しつつ、偉大なる教団の使徒に愛のムチを与える実に素晴らしい行いなのですから

、あははははは!」

 「そうよね! セレナさんの言った通り、両成敗はみんなの為になるのよね! ふふ、平和を愛する大賢者として、私、頑張るわ!」


 そんな様子を見た俺は、体中のダルさに耐えながら体を起こし、無言で先生からスマホを奪い取ると、ゴブリン達の前に壁を作り、セレナのバカにレモンをかけ、静かに布団に入って眠りについた。

 あのバカ、ユキにこんな事を吹き込んでやがったのか……。

 まぁゴブリン達は皆無事に逃げたようだから、良しとするかな……。


 …………。


 「あー体が軽い!」


 次の日、風邪から解放された俺は窓を開け、素敵な朝を迎えた……はずだったのだが。


 「おい、お前の風邪がうつった、ゴホッゴホッ。 看病しろ!」

 「…………」


 俺は休む間もなく先生の看病を行う事になった。

 どうしてこうなるの……。

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