先生とユキと現れた敵
次の日の朝。
俺は疲れていたせいか、体がだるく、そのままボーっと天井を見ていた。
そして……。
「……38・5度、風邪だな」
「…………」
あぁ、どうやら風邪をひいてしまったらしい……。
あぁ、昨日汗も拭かず、そのまま寝てしまったからなぁ……。
あぁ、今日はおとなしくしておかなければ……。
「せ、先生! ノブユキは風邪じゃないもん! 風邪ひくような弱い男じゃないもん!」
精神的にも弱っている俺を励ますかの如く、ユキの声が俺のスマホから聞こえてくる。
「おい、38.5度。 誰がどういおうが、ノブユキは風邪なんだ、ユキ」
「でも、絶対違うもん、ノブユキそんな弱くないもん!」
「……じゃあ何だと言うんだ? この熱は?」
「分かんない、でも……でも……」
コイツめ……。
いつも俺を怒らせるくせに、こんな所がたまにある。
相手が困っていたら何も考えずに助けてしまう無鉄砲さと言うか、何と言うか……。
そしてやって来るのであれば、何であれ受け入れ、去るのであれば『また会いましょう!』と言って送り出す、正直利用されかねない性格だろう。
だけど、俺はコイツのそんな所が好き……。
「でも、ノブユキはバカなんだから、風邪ひくわけ無いじゃない!」
「ふざけんなよ、この大馬鹿野郎! 正直一瞬、感動して泣きそうになったわ、なのにバカは風邪を引かないだ!? 30点と言う赤点ラインを反復横跳びしているお前より俺の方が、何倍は頭がいいわ!」
「落ち着けノブユキ。 お前は疲れているんだ、ゆっくり休め……」
「で、ですけどね先生。 このバカにここまで言われたら……」
「平均点が40点のお前が、30点の匠であるユキの何倍も頭が良い訳ないだろう?」
「だ、だけどさ……」
「それに、1・33倍如きで『何倍も』と言う表現はオーバーだと思わないか? それが許されるなら『AAカップよりAカップの方が何倍も大きいです』と言う文法も許されるだろう?」
「…………」
何だかよく分からない例えだが、ユキのバカな発言で上半身を起こしていた俺は、その言葉で冷静さを取り戻し、大人しく布団に包まるのであった。
AカップはAAカップの何倍なのだろう……。
…………。
「しかし、この手でも赤面させられないか……、難しいなぁ……」
「ん? ユキ、何の話なんだ?」
「あぁ先生。 私はノブユキを赤面させようと頑張っているんだけど、なかなか上手くいかないの……」
「なら、お前の勝ちだ。 風邪で顔が真っ赤に染まっているだろう? ほら、ノブユキの方向へ向けてやる」
「あ、ホントだ、そうだ! やった~!」
わざわざ俺の姿をユキに見せるな、不良教師め!
あぁだが声を出すだけでもきつい、痛い、具合悪い……。
ええいクソ……。
「ところで、今日のサポートは無しですかね……」
「安心しろ、私がやる!」
「え? ノブユキの代わりに先生が?」
何言ってんのこの人!?
つーか何で乗り気な訳!?
「せ、先生……ゴホッ……、何でやる気満々何ですか……」
「そりゃ、女神様から報酬貰えるようになってるからな。 ……と、その前にちょっと道具を取ってくる」
そして不良教師は机にスマホを置くと、引き戸を開けて部屋を出ると、ドスドスと一階に降りる音を響かせてどこかへ行ったようだ。
何だか、すっごく嫌な予感がする……。
…………。
「戻ったぞ」
足で器用に引き戸を開けた先生の右手には小さなプロジェクターと黒い布が。
そして先生は小さなプロジェクターを机に置き、コンセントを挿し、部屋の窓を閉め、勝手に白いカーテンを外して黒のカーテンを付け、電気を消す。
すると。
「どうだ、これでノブユキも様子が分かるだろ?」
ユキの顔が映るスマホ画面が、プロジェクター越しに壁に移しだされている。
どうやら、顔を左に向ければ画面が見れるように、気を使ってくれたようだ。
俺、今日は感が全くダメだな、善意すら疑ってるし……。
まぁいい、今日は黙って見ておくか……。
「じゃあ早速始めるとして、ユキ、私はどうすれば良いんだ?」
「その、電気つけてください……。 だって、こっちから見てると、先生の顔がお化けみたいで怖いもん。 スマホの明かりが薄っすら当たってるから!」
「そうすれば、ノブユキが見ることが出来ないだろう? 我慢しろ」
「む~……」
ん? こっちからは特に怖く見えないが……、映像で見るのと、実際に見るのでは全然違うのだろうか……?
あと、頬を膨らませても何にもならないぞユキ。
「あれ? 世紀末モヒカン絶対殺す先生じゃないですか? 今日はノブユキお兄ちゃんはどうしたのですか?」
「ん、リリアか? ノブユキは今日、ユキに悩殺されて赤面させてしまってな、代わりに今日は私が操作するつもりだ」
「そ、そうだったんですか……、ふふ、ノブユキお兄ちゃんって意外と初心なんですね。 世紀末モヒカン絶対殺す先生、よろしくお願いします!」
「ん」
この悪徳教師! 俺があのバカに悩殺されるわけ無いだろうが!
純粋で可愛いリリアちゃんに余計な事を吹き込むな!
ええい、ここで否定しなければ……くそ、風邪のせいか、喉が痛くて咳がでてまともに話せそうにない……。
「ところで、私は何をすればいいんだ?」
「えっと、いつもノブユキお兄ちゃんは、主にこの先どうするかを提案したり、壁を作ったりしてサポートしています」
「それで、目的は? 何なんだ?」
「それは、グロリアさんと言う魔王を世界の平穏の為に倒さなきゃいけないのですが……。 ですが私は、グロリアさんが良い人にしか思えなくて、倒したくないのです……」
あぁ、そうなんだよなぁ……、グロリアさんを倒さなければいけないんだよなぁ……。
だけど、あの人を倒すのって俺の気が引けるって言うか、リリアちゃんもユキも嫌がるだろうなぁ……。
はぁどうすれば……。
そんな気持ちの俺をチラッとみた不良教師は、頭をポリポリかくと。
「……一つ聞くが、魔王がいなくなれば良いのか?」
「え、ええ……。 その通りです、世紀末モヒカン絶対殺す先生」
いやだから、そう言っているじゃないか!
この不良教師は一体何を言っているんだ。
そう思った時である。
「なら、そのグロリアが魔王を辞めさせればいいだろう?」
「へ?」
この不良教師はとんでもない事を言い放つ。
と言うか、それは不可能に近いだろ!
グロリアさんの話を聞いている限り、妹や弟を支えるためにお金が必要なハズだしさ。
それは無理な話だろう。
「で、ですがグロリアさんには妹さん達がいらっしゃいます! 魔王を辞められたらその間の収入が……。 それに魔王と言う職業柄、そんな事が簡単にできるのでしょうか!?」
うんうん、流石にリリアちゃんも気づいたよね? その重要な点を。
「ならば、その妹と弟を誘拐なりして、こちらの世界なりに連れてくれば問題ない!」
おい、教師が誘拐とか言うんじゃない!
それも淡々と言うから、手慣れた感じで怖いだろう!
「へ? ゆうかい? 幽界? つまりあの世送りにするの!?」
ユキ、お前が頭が良いのかアホなのか分からなくなってきたよ……。
あと、お前は何で驚いた顔でファイティングポーズをとるんだ?
「まぁともかく、皆が集まったら、グロリアの元に行く事にする。 ユキ、全員集まったら、声をかけてくれ。 それと少し席を外すぞ」
「は、はい先生!」
先生はそう言ってスマホを置き、電気をつけると、扉を開けてどこかへ去っていった。
…………。
「……おい!」
「ぐわっ!?」
ウトウトして眠っていた俺は、先生の顔面踏みつけによって目が覚めた。
そして。
「ほら、梅干し入りと水菜入りのお粥だ。 鶏ガラで味付けはしておいた、ゆっくり食べろ」
そう言って俺の右側にお粥とレンゲの入ったどんぶりを置く。
でも多いって量が……、気持ちはありがたいけどさ、どんぶり持った時に火傷しないようタオルを巻いてさ。
まぁ、食べるかとりあえず……。
俺は体を起こし、どんぶりを手に取ると、それを膝に乗せ、レンゲを使ってお粥を口に運ばせた。
うまい。
単純に美味い!
食べやすいよう、米はフニャフニャになるまでしっかり茹で、梅干しは細かく切られ、鶏がらの味を支えるように、優しい酸っぱさが広がる。
ハフハフと食べるのがやめられない、止まらない。
それほど美味しいお粥なのだ、コレは!
「美味しいか?」
「ゲホッゲホッ、美味しいっスよ先生」
俺はモグモグ口に頬りながらそう答える、そして。
「ごちそうさまでした……」
俺は具合が悪く、食欲が無かったハズなのに、あっという間に食べ終わった。
しかし、改めて先生をみると魅力的だよな……。
ホント性格はちょっとアレなところがあるけど美人で、ホント性格的にアレなところもあるけど料理も上手で、ホント性格的にアレなところがあるけど思いやりがある性格でアイアンクロォォォォォォがいだだだだだだだ!
「お前が失礼な事を考えるからだ。 悪かったな、独身で……。 ちょっとゲームが好きで邪魔されると暴力を振るう性格で……」
「もががががががが!」(な、何で俺の考えていることを!?)
「そういえば、風邪を引いた時はケツにネギを突っ込めば良いらしいな? 実際にやってみるか……」
「いだ! へ? 嘘ゲホッだよね? 先生嘘だよねゲホッゲホッ!? 嘘だと言ってよ、先ゲホッ!」
アイアンクローから解放されたと思ったのもつかの間、先生の右手にはいつの間にかネギが握られ、今俺のズボン目掛けて左手が伸ばされたその時。
「せ、先生!? 大変、大変よ!」
助かった……、突如ユキの声がスマホから飛び出る。
そして、先生は『チッ……』と舌打ちをした後、部屋の電気を消して、スマホを手に取った。
そこまで怒る事か、独身なのは先生が悪……痛い! ネギで叩くなネギで! 寝ている病人だぞ、俺! と言うか砕けたネギの匂いが……。
「どうした、何があったんだ?」
この暴力教師め、何事も無かったかの様に淡々と……。
そう思いつつふとモニターの映像に目を移した時だった。
「な、何か街の西門側に魔物の軍団が現れて、私を出せって言ってるみたいなの! どうしよう、どうしよう先生!?」
「そうか、ならユキ。 今どこだ?」
「に、西門の前……。 つ、ついでに、ほかのみんなも一緒!」
「なら、お前は仲間たちと共に、指示があるまでそのまま待機! 私が次の指示を出すまで余計な行動は禁止だ」
そう言った先生は、建築画面を表示する、すると。
「なるほど、デカいのが一匹いるな、数はまぁまぁか?」
建築画面が上から表示されるのを逆手にとって、相手の確認を行った、なるほど、そんな使い方があるんだな、と言うか手慣れてるな、この人……。
だが上から見ても、黒いウジャウジャを見るに、そこそこの数だと分かる。
これは、ユキのロケットランチャーを駆使してもどうにもならないのでは、ないだろうか……?
そう思った時だった。
「出てこい、勇者ユキ! 俺様は、ゴブリンを率いる巨人、アラライザー様だ! 貴様を倒して、我らがアイドル魔王、グロリア様の憂いを絶ってやる!」
そんな叫び声が門の外から街の中へ響く。
どうやら、無駄に大きい巨人の男が言っている様だ。
そして、先生は画面を戻し、ユキの前に移動すると。
「どうするユキ? やっつけたいか?」
そう淡々と尋ねる。
すると、両手を力強く握りしめたユキは。
「もちろんぶっ倒したい! だってグロリアさんが悩んでいる事、全部私のせいにしてるっぽいもん! 腹がたつもん!」
とご立腹のご様子。
まぁユキの事だから、何か全部自分のせいにされた感じがあって腹がたっているのだろうな、俺もその気持ちは分かるぞ。
「そうか、なら行くか? 皆も問題は無いな?」
そして、先生のその問いに。
「勿論です、ユキ様が行くのでしたら私も……」
と天を崇めるセレス。
「勿論です、ユキさんのお気持ちもわかりますから、私も力の限り頑張ります!」
とリリアちゃん。
「リリアが行くなら私も行くぞ! そしてリリアの戦っている姿を目に焼き付けるんだ!」
と気合いの入り方が全く違うクルシナさん。
そして、そんな様子に先生は。
「ならば行こう」
と声をかけ、門番は静かに門を開け、街の人々と共に勇者たちを見送った。
そんな勇者たちの前に現れたのは、自分たちの倍以上はある半裸の巨人と、大勢のゴブリンの群れであった。
しかし、ユキは勇者だったっけ?
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