クルシナの叫びとおまけの二人

 「何だと!? 小さくて一生懸命な可愛い子をペロペロしたりベタベタ触ったりしたくて何が悪いのだ! 私のような守護神が日々監視しているからこそ、そのような子が誘拐や災害などの危険から守られ、日々健やかに成長できるのだろう! そんな部分を見ずに危険人物呼ばわりとは失礼だと思わないか!」

 「どう考えても完全無欠な危険人物です、クルシナ様!」

 「クルシナさん、それは危険ラインを全速力で超えているって……!」

 「何が危険人物なのだ! 何度でも言おう、小さくて一生懸命な可愛い子をペロペロしたりベタベタしたり……、おぉぉぉぉぉ、あの食器を運ぶ少年はたまらなくいいぞぉぉぉぉ……、ちょ、ちょっとペロペロしてくる……」

 「セレス止めろ! 目を血走らせたそこの変態界の魔王を犯罪者にジョブチェンジさせるんじゃない! 絶対だ!」

 「わ、分かりました!」


 そしてセレスは、変態淑女クルシナさんを力づくで止めようと頑張り、俺は野獣を暗闇が覆う街中に放たない様に壁で囲うのであった。


 …………。


 それは夏休みの初日の事。

 今日からクソ熱い外に出ないで良いんだなぁ、と思いつつスマホを手に取りアプリを起動し、いつもの様に俺はユキたちのサポートを開始した。

 最近はもっぱら、外でチームワークの練習という名の魔物ハンターをしているのだが……。


 「最近お兄ちゃんと呼んでもらっていない……」

 「最近リリアが、近くに寄らせてくれない……」

 「はぁ……」


 以前のやり取りが原因なのか、クルシナさんと俺は、リリアちゃんから距離を置かれてしまっている。

 以前は『お兄ちゃん』だったのが『ノブユキさん』になってしまった……。

 きっとスケベと思われてしまったのだろう……。

 クルシナさんは、近くによるだけであからさまに避けられてしまう様になった。

 きっと子供大好きな変態と思われ、拒否反応を起こされているのだろう……。

 その為、我々二人は最近元気が無い、ため息しか出ない、生きる気力が沸かない……。

 ホント、どうしてこうなってしまったのだろう……。


 「はぁ俺、お兄ちゃんって呼ばれるだけで良いんですよ。 可愛いリリアちゃんがそれを言う、それだけで不思議と元気が沸いたんですよ、何でこうなってしまったんですかね、神様っていないんですかね……」

 「分かるぞノブユキ、何で私は近くに寄らせてもらえないのだろう……。 更に最近では、私のみ、近くに寄れなくなる術をかけているらしい……。 おかげで最近、リリア二ウムやリリア臭、リリアエキス等を摂取する事が出来ないのだ、もう精神的におかしくなりそうだ……」

 「ヤバイですよね……ホント」

 「そうだな……深刻だな……」


 そうですね、深刻ですよね、クルシナさん。

 もう、目がヤバイ感じでハァハァ息を漏らしてるし。

 と言うか、リリア二ウムやらリリア臭やら言う時点でヤバさ全快だし……。

 できれば、同族と思ってほしくないのだが……。


 「「はぁ……」」


 そして公園のベンチに座るクルシナさんと共に俺も一緒にため息をこぼす。

 ホント、何でこうなったかなぁ……。


 「さっきから何を言ってんですか、ロリコンの双璧様達……」

 「「!?」」


 セレスの奴、いつの間に後ろに!

 と言うかロリコンじゃねぇよ!


 「つーかセレス、お前何やってるんだよこんな所で……」

 「……お二人がチームワークの練習後、最近どこかに消え去るので、ユキ様が心配なさっていたのですよ。 そこで私が事情を知ろうと付けてきた訳ですが、全く何を話しているのですか……。 と言うか、いい加減正体をバラしたらどうです、クルシナ様?」

 「な、何故分かったんだセレス! アタシの変装は完璧だったはず!」

 「……相当純粋でないと普通気づきますよ、クルシナ様……」

 「俺だってすぐ分かったんですからね……」


 クルシナさんってホント、残念なんだよなぁ……。

 見た目は知的でカッコいいお姉さんって感じなんだけどなぁ……。


 「む? ちょっと失礼する」

 「ん、どこに行くんですか、クルシナさん?」

 「いや、同胞が呼んでいるようなんだ、すまないが……」

 「はいはい……」


 そしてクルシナさんが去っていった、俺はセレスに最近のクルシナさんに対する思いを吐露する。


 「俺さ、最近クルシナさんが重度の変態にしか見えなくなって来てるんだけどさ……」

 「ノブユキ様、それはあなたもですよ」

 「俺はただ、お兄ちゃんと呼ばれたいだけだから、まだセーフだ! だがクルシナさんを見てみろ! 仲間だからあまりここまで言いたくはないが、アレは凄まじい変態だぞ!」

 「同類の変態が言うと、説得力がありますね」


 あ、コイツ喧嘩売ってるのか?


 「いや、だから俺は変態じゃないからなお前! 俺は癒されるためにお兄ちゃんと呼ばれたいだけで……」

 「だから、そんなところが変態だと言っているのですよ、ノブユキ様!」

 「あ!? なら見てみろよ、クルシナさんと俺がどう違うか?」

 「ほほう、良いでしょう。 そこでアナタも同類だと証明して見せましょう!」

 「上等! よし、気づかれない様につけるぞ!」

 「分かりました!」


 そして俺たちはひっそりとクルシナさんの後を付けるのであった。

 セレスの奴、絶対に俺がまだ普通だって理解させてやるからな!


 …………。


 「嫌だもん嫌だもん! アタシはリリアと一緒に冒険するんだもん! リリアのいない銀狼族にいたら死んじゃうもん!」

 「だ、駄々をこねないでくださいクルシナ様! お願いですから、子供みたいに寝転がって手足をバタつかせないでください!」

 「ヤダヤダヤダ~! 絶対ヤダ~! 何で大人ばっかりの銀狼族で頑張らないといけないのだ~! アタシはリリアや一生懸命な可愛い子供をペロペロするのだ~! リリアが戻るまで銀狼族になんて、戻らないんだ~!」


 おれの クルシナの ひょうか が マイナス80% に なった。

 ぎんろうぞくの ひとへの どうじょう が 90% に なった。


 「すいませんノブユキ様、いきなりですが、アレと同族に扱ってすいません……。 他人から見ている分には面白いでしょうけど、それが仲間だと流石に……」

 「俺も何か悪かった。 あんな、ヤバイ人とは思わなかったよ……。 正直、マスクして付いてきた時に察するべきだったと後悔している……」

 「正直、普段とあまりに様子が違いすぎるので、一瞬魔法人形マジックゴーレムかと思いましたよ私……。 まぁ結局、目は正常ですし……」

 「魔法人形?」

 「ええ、名前の通り、その人物そっくりの人形ゴーレムを作り出す魔法です。 ですが、滅多に使える人物もいないですし、それに目に光が籠っていないという欠点がありますし……」

 「なるほどなぁ……。 確かにあんな姿、想像できなかったものなぁ……」


 ホント、ここまで残念な美人だったなんて、思ってもみなかったよ俺……。

 と言うか、大の大人が道の真ん中であんな子供みたいに駄々をこねて恥ずかしくないのだろうか?

 ほら、今通った小さな子が『あのおねーちゃん何やってるの~』って言ったらそのお母さんが『見ちゃいけません!』って目を隠すし、すっごい仲間として行動したくない……。


 「わ、わかりました! 分かりましたから! 我々だけで頑張ります、なのでクルシナ様は、リリア様とゆっくりなさってください!」


 あ、もう銀狼族の男の人、どっかに走り去っていった、やっぱり恥ずかしかったんだろうな……、顔真っ赤にしていたし……。


 「いやっほぉぉぉぉぉ! これで堂々と子供との触れ合いが……、お、あの子は良いな、フヒヒ、ちょっとコミュニケーションを……」


 うん、すっごくヤバイね、アレは……。

 もう、セレス以上にヤバイ奴って認識になってるもの……。


 「おいセレス、そろそろ止めないか?」

 「な、何でですか? あの変態と仲間と思われたくありませんよ!」

 「お前、あのままだと、ユキの仲間のヤベェ奴って事で、うちのパーティの評価とユキの評判が駄々下がりするかもしれないんだぞ……」

 「そ、それもそうですね……、ちょっと行ってきます」

 「すまんな、マジで……」


 そして俺は、遠くからセレスの雄姿を眺めつつ、右手を眉の前に置いて敬礼した。

 邪教徒ではなく、(恥を受けることを覚悟した)勇敢な戦士に……。


 「ん? な、何だセレス! は、離せ! あ、少年がどこかに行ってしまうではないか! あ、待って、アタシの少年臭……!?」

 「ダメです! これ以上の行為はユキ様に迷惑がかかります、お願いですから大人しくしてください!」


 …………。


 「つまり何だ? 私が特におかしいと言うのか?」

 「ええ、そうですクルシナ様。 私たちはおかしいと判断しています」

 「それも、世界3周する勢いですよ、クルシナさん」

 「ふざけるな! 何が世界3周する勢いだ、私は正常だ、間違いない!」

 「いや、だからその正常がおかしいの! 世間体ではおかしいって言うの!」

 「ノブユキ様の言う通りです! おかしいですよ、その基準!」


 さて、我々はカフェの一画のテーブルを囲い、いかに自信がおかしいか、説得しているのだが、残念ながらこの頑固な変態は聞き入れてくれない。

 しかし、どうしたものか……。


 「ノブユキ様、一つ提案があります」

 「ん? 何だ?」

 「まず今一度、この変態の思考を細かく知る為、いくつか質問してみるのはどうでしょうか?」

 「分かった、その質問の役割、俺がやろう……。 さっきは冷たい視線が四方八方刺さる中、頑張ってくれたし……」

 「お願いします。 正直、人生で初めて、精神的なダメージで倒れそうなんです、私……」


 うん、きっとさっき大変だったんだろうと思う。

 だってセレスの顔が真っ青だし、右手で胃を押さえてるし……。

 胃薬か何かあれば……あった!


 「おい、セレス!」

 「は、はい……ん?」

 「この瓶の中の薬を水と一緒に飲んでろ! 多少痛みを抑えられるはずだ!」

 「は、はい……ありがとうございます……。 ゴクッゴクッゴクッ……」

 「さてと……」


 さて、目の前に座る変態の中の変態と闘う前に、俺は机から、以前おばさんの家で貰った胃薬を取り出し、本棚のノートに遺言を書き、万全の体制を整える。

 それは、俺がこの戦いに全力を込めている証である、それも死を覚悟して……。

 そして俺は一呼吸置き、両手を組むと、画面越しに映るこの変態の中の変態との闘いの幕を上げるのであった。


 「クルシナさん、質問するよ。 少年少女とは?」

 「愚問だな、成長を感じる為、ペロペロしたりベタベタ触ったりするものだ……」

 「なぜペロペロ舐めるの?」

 「それは、少年少女の成長を体に取り込む為だ……」


 へんたいの つうこんのいちげき。

 おれの せいしんりょく は 20% に なった。

 おれは いぐすり を つかった。

 せいしんりょくが 70%まで かいふくした。

 

 おぉ、しょっぱなからとんでもない変態発言が飛んできたぞ……。

 ヤバイ、もう俺、白旗上げたい……。

 だけど、隣にいるセレスは、口から吐血し机に倒れ込んでいるのに、その眼はまだ死んでいない。

 コイツは目で俺に訴えているのだ『まだ戦えます……』と……。

 ふふ、そう訴えられては、俺もギブアップなど言えるわけがない……。

 それに答える為、俺はここで倒れる訳にはいかない、この聖戦に勝利し、初めて未来が勝ち取れるのだから……。

 よし……。


 「な、何故少年少女がそこまでお好きなのですか?」

 「それは、色々と興奮するからだ!」

 「それが度し難い変態犯罪者と自覚していますか?」

 「何だと!? 小さくて一生懸命な可愛い子をペロペロしたりベタベタ触ったりしたくて何が悪いのだ! 私のような守護神が日々監視しているからこそ、そのような子が誘拐や災害などの危険から守られ、日々健やかに成長できるのだろう! そんな部分を見ずに危険人物呼ばわりとは失礼だと思わないか!」


 へんたいの つうこんのいちげき!

 へんたいの つうこんのいちげき!

 おれは せいしんりょく 1%でこらえた。


 「どう考えても完全無欠な危険人物です、クルシナ様!」

 「クルシナさん、それは危険ラインを全速力で超えているって……!」

 「何が危険人物なのだ! 何度でも言おう、小さくて一生懸命な可愛い子をペロペロしたりベタベタしたり……、おぉぉぉぉぉ、あの食器を運ぶ少年はたまらなくいいぞぉぉぉぉ……、ちょ、ちょっとペロペロしてくる……」

 「セレス止めろ! 目を血走らせたそこの変態界の魔王を犯罪者にジョブチェンジさせるんじゃない! 絶対だ!」

 「わ、分かりました!」


 そしてセレスは、変態淑女クルシナさんを力づくで止めようと頑張り、俺は野獣を暗闇が覆う街中に放たない様に壁で囲うのであったが……。


 おれは へんたいてき せいしんおせん という 毒の ダメージをうけた。

 おれの せいしんりょくが マイナス20% に なった。

 おれは せいしんてきに しんでしまった。


 …………。


 「……ユキ……」

 「ねぇ……」

 「ねぇ、ノブユキったら!」


 俺を呼ぶ声がする、あぁそうか俺は精神的ダメージで気を失ったんだったな……。

 そして、脳内の意識がしっかりしてきたところで、俺は目を覚まし、直ぐにスマホの画面を見る。


 「全く、いつまで寝てるの? 心配したんだから、私!」

 「……悪かったよ、ところでセレスは? クルシナさんは?」

 「そこで寝てるわよ」


 そしてユキの指さしたほうに画面を向けると、真っ青な顔で白目を向いて、それぞれのベットに眠るセレスと、クルシナさんこと変態魔王の姿があった。


 「起きましたか、お兄ちゃん……」

 「へ?」


 そしてベットの横から、久々に『お兄ちゃん』と言ってくれたリリアちゃんの姿があった、そして。


 「全てセレスさんから聞きました! 全くお兄ちゃんにも母上にも困ったものです……。 ですけど、お母様に関しては身内の私の責任もありますし、そんなお母様をまともにしようと頑張ったお兄ちゃんの行動はありがたくもあります。 ですので、ワタシなりに考えた結果、以前と同じようにお兄ちゃんと呼びますから、もう落ち込む真似をしちゃダメですよ!」

 「分かった……」


 そして俺はセレスを見ながら。


 「今回は感謝するぞ、セレス……。 ホントにありがとう……」


 そう微笑みながら口にした。

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