第二章

俺たちの馴れ初めと大人な話

 「つまり、俺たちは今、ヤバい相手と闘わなければいけない状況になっている訳なんだが……」


 俺はアプリを再起動し、協会の寝室にいる3人と1マスクマンに対し、今ある状況を皆に説明したのだが……。


 「ユキ、セレス、お前等二人は緊張感がないのか!? それにユキ、お前このまま魔王を討伐出来なければ、ずっとそっちの世界にいることになるんだぞ! つーか、食うのを止めろよ」

 「だって、ねぇ……セレスさん、モグモグ……」

 「そう言われましてもねぇ、ユキ様……モグモグ……」


 コイツ等、サンドイッチ食べることに集中して、俺の話を聞く気がないな……。

 ええい、少なくともユキにはやる気を起こして貰わねば、コイツ帰って来ないぞ!


 「ユキ! お前、こっちに帰ってこれなくて良いのか!? なぁ!」

 「ノブユキ、私は悟ってしまったの、この世界の真実に……モグモグ……」

 「真実?」


 真実って一体何だよ?

 つーか真実って何だよ!?


 「この世界の真実……。 それは、この世界って勉強が凄く楽なの……」

 「は?」

 「だって剣士や弓使いは、足し算と引き算と話す事が出来れば、生きていける世界なの! そして私は大賢者! この世界で楽して大活躍出来るのよ!」

 「…………」


 コイツ、バカだろ……。

 足し算と引き算と話す事が出来れば、生きていける世界で大賢者って事は、こっちの世界には高校生って名の、賢者や大賢者がうようよいる事になるんだぞ……。


 「そう、そして私の爆殺魔法で魔王であるグロリアさん以外をぶっ倒して、崇められながら、適度にニート生活を送るの!」

 「お前、バカな事をいってんじゃねーよ!」

 「だってだって! 大賢者なのにバカって言われるのは嫌なの! 賢者なのにバカって言われたくないの! 賢者だから天才って言われたいの!」

 「30点と言う赤点ラインを、右往左往反復横跳びしているお前が天才って言われるか、バカ!」

 「あ、またバカって言った! もう怒った、絶対グロリアさん討伐しないもん! ストライクするもん!」

 「お前、それストライキだからな! ストライクなのはお前のバカさ加減だ!」

 「あーまたバカって言った! バカって言う方がバカなんだからね!」

 「ならお前もバカって言ったからバカだバーカ!」

 「な、ならノブユキのバーカ! バーカバーカ!」


 ええい、コイツ戻ってこれなかったら、どうなるか分かってないのか!

 全く手間がかかる……。


 「お前、こっちに帰ってこれなかったら、お前の大好きな近所のケーキ屋のイチゴケーキが食べれなくなるんだぞ!」

 「は……!?」


 ふふふ、お前はチゴケーキが食べれないと手足をバタつかせて駄々をこねるからな……、この説得なら嫌でもお前はこっちに戻りたくなるだろう……。

 ほーら、ユキの口からよだれが……。


 「ユキ様、イチゴケーキなら、教団のスイーツ部が作っているはずで、ぎゃあぁぁぁぁぁぁ、また目が! ノブユキ様、なぜレモンをかけるのですか!」

 「この大バカ邪教徒! せっかくユキを上手く言いくるめられそうだったのに、お前余計な事を言いやがって!」


 そら見ろ、このバカが余計な事を言うから、ユキの顔がやる気のない顔になってるじゃないか!

 ええい。


 「おいユキ! シュークリームはいいのか? ホットケーキはいいのか? チョコクッキーはいいのか?」

 「あ、それらも教団で作れ……、同じ手は食いませんよ!」

 「ぎゃあぁぁぁぁぁ、レモン汁が目に!?」


 畜生! コイツ、レモン汁攻撃を反射してきやがった!

 くそ……何かユキが嫌でも行動したがる……嫌でも?


 「なぁユキ、話は変わるが、お前以前俺のしたたかな趣味についてバラしてくれたのを覚えているか?」

 「ん? エロ本拾いに行ってる話? それがどうしたの?」

 「いや、ちょっとお前に中学の時、誕生日プレゼントで貰ったノートを倉庫から引っ張り出して、ラップを少し……」

 「……ねぇ何する気? すっごく嫌な予感がしてきたんだけど!? ねぇちょっと、画面が空いている窓の方へ移動していってるのだけど、どうしたの!?」

 「…………」


 そして俺は静かに、ユキ達の前から窓の前に画面を移動させると。


 「それでは今から、女神の娘、ユキが作ったラップの発表会をします! え~それでは……『YO、YO、私賢者のユキだYO、YO、オ、チェケラ~! 私邪眼持ち、知力高し、精神強し、イエーイ!」

 「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ! それだけは止めて! 恥ずかしすぎて死んじゃうから! 止めて、止めてってば!」


 そして、そんなユキの叫びなど気にせず、俺はユキの中二病ラップを町中に向けて大声て歌ってやったのであった。


 …………。


 「うぅ……、もうこの世界にいられない……」

 「だ、大丈夫ですよユキ様、その……『寒風、暖風、無敵でFOOOO!』まではセーフですから!」

 「じゃあその後はアウトって事じゃん! 私意地でも元の世界に帰る!」 

 「あ、その……大丈夫です! 全部セーフですから!」


 さて、俺の数十分における熱いラップのおかげで、どうやらユキは元の世界に帰ってきてくれることになったようだ、セレスの説得も聞き入れないレベルに……。

 だが、決して忘れないでほしい事がある。

 本当に恥ずかしかったのは、そんな恥ずかしいラップを全力でやった俺だという事を……。


 「あの、お兄ちゃん……」

 「ん? リリアどうした?」

 「そんなことをしていたら、ユキさんに嫌われますよ?」


 そんな中、リリアちゃんは俺とユキの仲を心配してくれている様だ。

 いや、ホント心配かけて申し訳なく思う、けれども。


 「大丈夫、それはないから」

 「へ?」


 その点に関して全く俺は問題に思っていない。

 と言うのも。


 「だってこのくらいまだ優しい方だからさ。 俺は以前、山に冒険に言った時、ユキに川に蹴り落されたので、ドロップキックで湖に叩き落してやったことがあるが、その時もワーワー喧嘩して、それでおしまいだったしなぁ。 他にも、アイツが俺のラーメンに一味唐辛子を瓶ごと入れたときには、アイツのラーメンに塩コショウを大量にぶち込んだやった事もあるしさ……。 だから、コレくらいで何かなる程の関係じゃないんだよ、だから安心してね」

 「で、ですが……」

 「うーむ、ちょっと待ってね」


 俺はそう言うと。


 「おい、ユキ!」

 「へ? 何?」


 そう言ってユキを呼ぶ。

 それは俺たちの仲を証明する為に。


 「お前、今回俺がやった嫌がらせを原因にして分かれようと思うか?」

 「へ? 思わないけど? だっていつもの事だし」


 ごく当然の質問だったのだろう。

 ユキはキョトンとした顔でそう答え。


 「と言うか、何でそんな当たり前の事聞くの?」


 との疑問の声。

 まぁ突然そういわれたら、そう思うわな。


 「それはリリアちゃんが、心配しててな……。 そういう事!」

 「あ~なるほど……」


 そして俺がそのように説明すると、ユキはリリアちゃんの前で中ヒザになり、自身の思いを語りだす。


 「リリアちゃん、大丈夫よ! だって、コレくらいまだ優しいほうだし。 だって池への突き落とし合いも日常茶飯事だったし、相手の世間体に言ってほしくない事で脅しあうなんてよくある事だし」

 「えぇ……。 何ですかその関係……」


 頬を指で撫でながら少し恥ずかしそうな笑みを浮べてそう説明するユキ。

 だが、リリアちゃんにはまだ早い世界だったようで、少々戸惑った表情を浮かべて、ユキを見ている。


 「ねぇノブユキ~。 私、間違った事言った? やっぱり、これって難しい話なのかな?」

 「ん~普通だよな、ユキ?」

 「そうよね、ノブユキ……」


 俺もユキもどう伝えれば良いか分からず、互いに腕を組んで考え込む。

 ホント、どういえば伝わるのやら……。


 「あ! 分かった!」

 「ユキ、何が分かったんだ?」

 「ふふふ、賢者である私は気づいたの! ネガティブな事を言って仲が良いって言ってるからリリアちゃんは戸惑っているんだと!」

 「なるほど! 赤点ギリギリで賢者なのか?という疑問は置いておいて、確かにその通りだな、ナイス、ユキ!」


 ホント、ナイスユキ! 今日ほどお前が賢く見えた日は無いぞ!

 そして、俺たちはいかに仲が良いか、ポジティブな部分をオープンにする事でリリアちゃんの不安を解消する事にした。


 「ならまずは私から! 私とノブユキはテレビゲームが好きで、例えばRPGゲームをする時は、ノブユキは戦士職、私は当然賢者になって……」

 「テレビゲーム……? RPGゲーム……?」

 「バカだなユキ、テレビゲームって言ってもリリアちゃんには分からないだろ? では次に俺が……。 俺とユキは、外で遊ぶのが好きだ! 例えば、鬼ごっこをしたり、ちゃんばらごっこをしたり……」

 「鬼ごっこ……? ちゃんばらごっこ……?」

 「バカね、ノブユキ。 私達の世界の遊びが通じるとは限らないじゃないの! では、私からとっておきの話を……。 私は泊まりに行った時、必ずノブユキと一緒にお風呂に入るほど仲が良くて、いつもなんだかんだ言いながらも、頭をゴシゴシ洗ってくれるの! それで風呂に一緒に入って仲良く世間話したりしてさ~」

 「あのな、ユキ。 お前は頭の洗い方が悪いから、洗っているんだぞ? 少しはトリートメントとかしろよ、外見は可愛らしいんだから。 あと、いくら家の風呂が広いからって、大声で歌うのは辞めろよ、近所迷惑だからな……ってアレ、何でリリアちゃん引いてるの?」


 あれ、俺おかしな事言ったかな……。

 別に一緒に風呂なんて、一様付き合っているわけだし、別に変じゃないよな……。

 あれ……?

 そしてリリアちゃんは恐る恐る俺たちに。


 「あわわわわわ……。 も、もしかして……、お二人って大人の関係に……」


 と聞いて……ちょっと待って!

 違うから、そんな関係ではないから!


 「ち、違うよリリアちゃん! そ、そ、そ、そんな関係じゃないから! なぁユキ!」

 「そ、そうだよリリアちゃん! ノブユキと一緒にお風呂に入るだけでそ、そ、そ、そんな関係って何かおかしいよ!」

 「な、な、何を言っているんですかお二人とも! ど、ど、ど、どう考えても年頃の男女で一緒にお風呂って、そう、そう、そう思っても仕方ないですから!」


 俺はユキをチラチラ見ながらそう言って弁明し、ユキも俺を見ながら草弁明するが、リリアちゃんはそんな関係にしか思えなくなったらしい。

 両腕をバタバタ、顔を真っ赤に染めて大興奮の様子。


 「何を初心な事を言っているのです、リリア様。 男っていうのはみんな獣なんですよ。 美女が色気を見せれば、すぐ襲い掛かってくるのですから。 でも何で、何で私だけ結婚できないのでしょう、何で襲われないのでしょう! おお偉大なるクリスティア様、私だってそろそろカッコいい人と結婚したいです!」

 「そうだぞ娘よ。 恋はハンティングと一緒、アタシもちっちゃくて可愛い男性だったあの人の気を引く為に色気やら薬やら……ふふ……。 まぁそれよりも今は、魅力的な獲物が間近にいるわけなのだが……」


 そんな中、会話に入らないでいいのに、結婚願望を口にする邪教徒と娘大好きマスクウーマンの二人の余計なコメントのせいでリリアちゃんは「へ? へ?」と戸惑いを口にしながら目をグルグル回し、そして遂に、脳の処理能力が限界を超えたのか、リリアちゃんは「キューーー……」と床に倒れこんだ。

 そんなリリアちゃんの様子を見ながら、俺は二人に向けてとある事を尋ねた。


 「あ、待てマスフェチ! ハァハァしながらリリアちゃんに触ろうとするんじゃない!」

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