魔王の陰と、さらわれたユキ
「魔王と言う立場は、特殊な力を与えるのです。 ですが、どのような特殊な力なのかはその魔王次第です。 何をやられるか分からないから注意して下さい!」
俺はその後、そのような話を邪神から聞いたので、3人が食事に行った隙に、教会の宿泊部屋で考えこむ。
まず、はっきりしたのが、敵の大将である魔王に俺の存在がバレている事。
そうじゃなきゃ、俺の世界にピンポイントに頭のおかしな連中を沸かせる事なんて出来ないはずだ!
だが、それ以上に問題なのが、身近にスパイがいたのではないか?と言う事だ。
もし、それが無意識にスパイに仕立て上げていたら……。
それ以前に、一体誰がスパイなのだろう……。
「と言うことで、マスク・ド・フェチフェチさん、助言を貰いたいのですが……」
「ふむ、同じ思考を持つ者である君に、力を貸そう!」
そして、こんな時の頼れる仲間、マスク・ド・フェチフェチことクルシナさんと二人きりで、犯人は誰か考え始めるのであった。
…………。
少し前に分かった事だが、このアプリは起動時は自動的にユキの前に出るのだが、それ以降は画面自由移動という項目を使えば、ユキを中心とした広範囲を独立して行動できる事が分かった。
その為、俺は仲間の中では、マトモで、知的で、頼れる感じのあるクルシナさんに、相談相手をお願いしたのだが……。
「まず、念の為パーティメンバーの中に怪しいと思う者はいますかね?」
「安心しろ、それは無い! まず魔王を倒すリーダーであるユキは除外、当然リリアは可愛いから除外だろう! そうなると残るはセレスだが、セレスは『ユキ様正義』と『神様大正義』と言うフェチを持つ、勿論アタシは『リリア・ペロペロ』スキルのレベル100を保持しているので、怪しい者から除外だ!」
どうやら、リリアちゃんを覗いた仲間のなかに、まともな人物はいなかったようだ。
クルシナさん、少なくとも危ない人の中にランクインすると思うんですけどね、それ……。
「では、今まで出会った人物の中に怪しい人っていましたっけ?」
「アタシ達がパーティ入りした後だな……うーん……」
「…………」
「……なぁ、考えた末に思ったんだが、教団の連中全員、怪しくないか?」
「ですよね……」
やっぱりそういう結論にたどり着くよなぁ……。
だって、おかしいもんアイツ等! 特に挨拶が!
ってこのままじゃ、犯人が絞れ……。
「お二人とも、何やってるんですか?」
「うぉ! り、リリ……娘、帰ってきたのか!? いきなり声をかけるから驚いたぞ!?」
「そ、そうだよリリアちゃん、いきなり驚かしちゃダメじゃ無いか!」
「あ? それはすいません……」
あ、ヤバい、リリアちゃんが泣きそうな顔になってる……。
「だ、大丈夫だから! じっくり治していけば良いから! ね! だよね、マスク・ド。フェチフェチ!」
「う、うむそうだなノブユキ! ゆっくり治せばいいのだ!」
「そ、そうですよね……、そうですよね! ゆっくりと一歩ずつ治せば良いですよね! まだまだ未熟者ですが、頑張ります!」
うんうん、元気になって良かった、尻尾を振って嬉しそうだ。
「あぁ、可愛いなぁリリア……、もうペロペロしたいなぁ……」
クルシナさん、アナタは尻尾を振らなくて良い……。
…………。
「なるほど、怪しい人物捜しですか……、何でリリアにも相談してくれなかったのですか!?」
「いや~、子供だしさ、疑心暗鬼な話は、あまりリリアちゃんに良く無いかなって思ってね……」
「大丈夫です! リリアは体は子供でも、心は大人です! えっへん!」
うん、両手を腰に当てて胸を張る姿は可愛らしく思うよ。
でも、その台詞を言われると、名探偵の印象が脳内に流れ込んで来ちゃうなぁ……。
まぁ、リリアちゃんは賢者だし、まぁ良いかな……。
「なら、リリアちゃんにも協力して貰おうかな? まぁ、話としてはそういう事なんだけど、リリアちゃんは何か思い当たること、あるかな?」
「うーん、情報が少なすぎてなんとも……あ!」
「ん、何か思い当たることがあったの?」
「そう言えば、今日町中を歩いていると『ぐへへへ、お嬢ちゃん、おじちゃんと一緒に遊ばない?』とか『あ、てめぇ! この子は俺が狙っていたんだよ、てめぇぶっ飛ばすぞ!』とか、依然と違って何か物騒な雰囲気に包まれていました。 あ、あと、挨拶が『好きな人は洗脳』『自分以外のカップルは地獄へ』という者に変わっていまして……。 もしかしたら、魔王の魔力に魅せられた人達が現れているのかもしれませんね……」
「…………」
つまり、あの邪神の教えがもう広まっているって事か。
ホント、あそこの信者はおかしな奴ばかりのような気がする……。
「ま、まぁともかく、今のところはこれ以上考えてもわからないって結論でいいと思うな」
「なるほど、分かりましたお兄ちゃん!」
あぁ、何だろう。
最近リリアちゃんに『お兄ちゃん』って呼ばれると、不思議と幸せな気分になるんだよなぁ……。
あぁホント……。
「ホントお前、警察の世話になるなよ?」
「!? 何で不良教師のアンタがココにいるんだよ……!」
「何でいるかって? わざわざプリントを届けに来てやったんだぞ? それもロリコンって病気で早退したお前にわざわざだ!」
「その前に、不法侵入って事で警察の世話になるよう言ってやってもいいんスけどね……」
そう答える俺に、先生は足で器用にプリントを掴んで、ヒラヒラと揺らす。
と言うか、いつの間にニート教師が部屋の中に入ったんだよ、それに何で当然の様にベットに上向きで寝ながら……、ん? 珍しくゲームしてないんだな……。
「ところで、モヒカン頭になった頭の痛そうなお前のお友達が探していたぞ。 なんでも、異端者ノブユキがどうのこうの言ってたな」
「俺帰って良かったな……」
「その上『ノブユキの家を教えろ!』と自習の時間をぶち壊すマネをしてくれてな。 あぁ、そのバカ共が私の楽しみを奪ったからな、仕方なく頭の痛い連中を全員『処刑』しなければならないハメになった」
「アンタ、体罰とかで訴えられてもしらないぞ……」
多分だが、頭のおかしくなった連中は、自習という名目でゲームしていた不良教師のゲーム機をぶっ壊して、首を背後からゴキっとひねる、通称『処刑』で粛正されたのだろう。
と言うか、この人もよくやるな……。
「あ、あの? 以前もチラッとお会いした、そちらの方は? 先生って仰ってますので、勉学を教えられる方ですか?」
「ん? あぁこっちは世紀末になりつつあるこちらの世界で、頭のおかしいモヒカンを処刑なされた、通称、世紀末モヒカン絶対殺す先生だよ」
「お~~~!」
リリアちゃんが目を輝かせて、不良教師を見ているだと!?
……うーん、リリアちゃんに悪影響ではないかな、だが教えるのは上手いとは思うけどなぁ、うーん……。
「と言うことで、世紀末モヒカン絶対殺す先生だ、よろしく」
「いや、生徒の悪意あるボケをそのまま受け入れないで下さいよ」
「別にその程度、対した事はないだろ? 好きに呼べ」
「…………」
俺は、少し考え、以前先生が言った言葉を思い出す。
『……と呼べ』と言ったあの言葉を。
そして俺は、そう呼ぶのは今だと思い、その言葉を先生に向けて吐く。
「じゃあ、ネオンちゃんで……っていででででで! 何故抓るんだよ!」
俺はネオンちゃんに頬を強烈に抓られ、痛みのあまり、右手に持っていたスマホを落とす。
いや、俺悪くないよね、以前自分で呼べって言った癖に!
「だって、お前の友達じゃないんだぞ?」
「アンタ以前自分で言っただろ! 『不良教師』って俺が言ったら『ネオンちゃんって呼べ』って!」
「言ってない」
「言っただろアンタ! この前うちに家庭教師で来た時に」
「言ってない」
「絶対言ったからな! 俺は間違って……」
「言ってない」
「いだだだだだ、分かりましたウソです、だからツメを思いっきりめり込ませないで下さい、お願いします!」
「…………」
そして俺は処刑間近から解放されると、ゼイゼイ吐息を鳴らしながら地面に四つん這いになる、この不良教師め、無表情で淡々と抓りやがった……。
「ところで、リリアと言ったか?」
「え、はい」
この野郎、勝手に人のスマホを拾うな!
つーか、俺にも見せろ! 勝手にリリアちゃんと話すな!
俺は不良教師の左横に顔を置く。
「勉強は好きか?」
「は、はい!」
「そうか……」
ん、意外と不良教師が真面目な雰囲気だな。
まぁ、仮にも教師ではあるし、以外と真面目な所もあるんだな……。
そしてネオン先生は右手をアゴに当て、まるでアゴを撫でるように優しく手を動かし終えると。
「……なら、こちらの世界の勉強をしてみるか?」
「は、はい!」
「なら、そのうちコイツ等の授業と一緒にするから、そういう事で」
「わ、分かりました先生! で、でもせっかくですし、何か教えてくれませんか!?」
「まぁいいか……、一つだけ教えてやるとするか」
お、珍しいな、不良教師が給与分以外の労働をするなんて!
も、もしやリリアちゃんの可愛さに魅了されてしま……。
「あ~、とりあえずこのバカと、そこのマスクマンはロリコンと言う頭の病気なんだ」
「「「え!?」」」
いきなり発せられたとんでもない発言に俺も、クルシナさんも、リリアちゃんも驚きの声を上げる。
つーかスマホを離せ! このままでは俺とクルシナさんのデマ情報をリリアちゃんに聞かせる訳にはいかない! ……クソ、何て握力だ、全く指が離れないぞ!
「お、お、お、お二人とも病気だったのですか!?」
「そうだぞ、特にそこのマスクマンは重傷だ」
「そ、そうなのですか!? い、一体どうすれば!?」
「残念だが手遅れだ。 だが、頭を殴って記憶をリセットすれば、治る可能性もある」
「おい不良教師! 何でそんな乱暴な発想に達したんだよ!」
「お前知らないのか? 初期のファミコンは殴れば簡単にリセットできたんだぞ?」
「そんな事知らないから! つーか、生物と機械を一緒の感覚で扱うな!」
ええい、これ以上話させるとリリアちゃんに悪影響だ!
とにかくスマホを取り上げねば!
「ぎゃ!」
ん? 今何か悲鳴がスマホから聞こえたような……。
ま、まさか!?
「あ、あの。 これでよろしいのでしょうか? ストーンハンマーの魔法で思いっきり頭を叩きましたが……」
そしてスマホの画面をのぞき込むとそこには地面に倒れ込むクルシナさんの姿があった、そして。
「り、リリアからのこの痛み……、たまらん……」
すっごく嬉しそうな声を上げるクルシナさん。
あ、ダメだなこれ、もう親として……。
俺が呆れてそれを眺めていた時だった。
「あ、あの! ノブユキ様!? ユキ様が、ユキ様が!」
扉がドンと開け、セレスが慌てて飛び込んでくる。
そのただならぬ様子に俺は。
「先生、ちょっとスマホを返して!」
と言うと、先生は無言でスマホを俺に渡してくれた。
そして俺は慌てた様子のセレスに何があったのかを聞き始める。
「どうしたセレス! ユキに何かあったのか!?」
「はい、ノブユキ様! ユキ様と食後、ノンビリ散歩していたのですが、突如魔物が空から襲来しまして、ユキ様を連れ去ってしまったのです!」
「それでユキは!? どこに!?」
「そ、それがどこに行ったのか分からないのです……」
「そ、そんな……いや待て! アプリを起動した時は常にユキの前だったな! ならば一度アプリを再起動すれば!」
「待て!」
そんな先生の制止の声と同時に俺はアプリを閉じた。
そして俺は急ぎアプリを起動し、今か今かと開くのを待つ。
全く、普段でも腹が立つのに、こんな時は特にこの『このアプリは女神の心が宿った大変ありがたいモノです、そのありがたみを噛みしめる為に、毎日『クリスティア様は美人で素敵で最高な女神様です』と10回唱えましょう!』という表記は腹が立つな……。
「お前、さっきの仲間達との連携が取れなくなる状況なのだぞ、一度作戦を練ってからアプリを再起動するべきだったろう」
「あ……、だ、だけどユキが……」
「迅速に行動するのはいい、だがそれは準備が出来た上での事だ、武器も作戦もなく闇雲につっこむだけでは、犬死にしに行っているのと変わらないぞ」
「そ、そりゃそうッスけと……」
そしてそう口ずさむと同時位に、アプリの読み込みが終わり。
「ユキ!」
俺は自然とそう叫んだ。
そこには、真っ暗な嵐の中、砦らしき場所の屋上で、イスにロープでぐるぐる巻きにされた姿で目をつぶるユキの姿があった、そして。
「アナタがノブユキさんですね?」
どこからともなく、俺に語りかける声がスマホから聞こえてきた。
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