危険な教団に俺はゲンナリする

 それはセレスティアと出会って、5日目になる土曜日の朝早くの事。


 「異端な者に地獄を!」

 「教団の使徒に幸福を!」

 「…………」

 「…………」

 「お帰りなさいませ、セレスティア様。 今日もとても清々しいお姿でいらっしゃいますね」

 「ふふ、使徒フレーゲイム……。 異端者共からしっかり街を守っているようですね、素晴らしい心がけです。 使徒フレーゲイムにセレナーデ様のご加護がありますように……」

 「はは~……。 ん? こちらの方……こ、こ、こ、これはユキ様でございますね、お初にお目にかかれて光栄でございます! ありがたや、ありがたや!」

 「さぁ、使徒フレーゲイム……、偉大なるユキ様をもっと崇めるのです……」


 さて、邪教徒との交流を持ちたくて、ユキ達を教団の街に行かせた訳では無い。

 と言うのも、このどこぞの邪教徒が普通の街に入る度『異端者、許すまじ』と大暴れをする為、ユキも気づけば協力者という形で指名手配の似顔絵が出回るハメになったからである。

 しかも、しっかり『邪神の子、ユキ、懸賞金1億ルゲール』と書かれているものだから、今じゃ小さな村にすら入ることすら出来ない。

 その為、この疫病神の邪教徒であるセレスの案内で教団の街の一つ、リンデンベーゲルにやってきた訳だ。

 この街は、一言で言うなら、鉄の街といった雰囲気だ。

 巨大な鉄の壁が街を被い、そして町中が鉄で出来ている、まさに鉄の街である。

 なんでも、この町の周辺には巨大な鉱山があり、彼らは森を切り開いては穴を掘り、そこから鉄や金、銀等の様々な鉱石を大量に採取し、教団の威光を知らしめるためにこの様に町を作ったらしい。

 なお。


 「ふっふーん、流石大賢者な上カリスマ溢れる私! やったね!」


 別にユキが崇められているのは、ユキに賢者のカリスマ性がある訳でない事を先に述べておこうと思う。


 …………。


 「異端な者に地獄を!」

 「教団の使徒に幸福を!」

 「異端な者に地獄を!」

 「教団の使徒に幸福を!」


 しかし、先ほどから街中を歩いていると、物騒な言葉が至る所から聞こえるな……。

 つーか何なんだ、コレは? のろいの呪文か?


 「おい、疫病神……。 この街の至る所から『異端な者に地獄を!』『教団の使徒に幸福を!』って物騒な言葉が行き交っているぞ、どうなっているんだ?」

 「ノブユキ様、流石お目が高い。 『異端な者に地獄を!』『教団の使徒に幸福を!』と言うのは我が教団の朝の挨拶です。 ちなみに昼になりますと『異端なカップルに別れを!』『教団のカップルにご加護を!』となり、夜は『異端な建物をぶっ壊せ!』『教団の建物に栄光を!』になります! この挨拶をする事によって邪教徒共を」

 「お前等がろくでもない連中だというのは分かったよ……」


 そんな風にロクでもないから、普通の町中にも『セレナーデ恋愛教団に注意、見かけたら連合警備兵団へ!』『危険な恋愛教団を見かけたら連絡を! 我々が狂信者から守ります!』なんてポスターを貼られるんだろうが……ん? 急にセレスの顔が不機嫌そうになったぞ?

 ん、何だ、いかにもナルシストな雰囲気を纏わせた痩せ男は?


 「異端な者に地獄を!」

 「教団の使徒に幸福を!」

 「おやおや、これは同士セレスティア殿、相変わらず素敵な体をしてらっしゃいますね、性格ブス……」

 「これはこれは同士ゴールグ様、相変わらずカッコいいお姿で惚れ惚れしますわ、クソナルシスト……」

 「はっはっは、こちらこそセレスティア殿の美しさに魅了されてしまいそうでスリにお金全部盗まれろクソビッチ……」

 「はっはっは、ゴールグ様、またまたご冗談を言って~、お優しいんだカラの頭を地面にぶつけろナルシー骨……」


 なるほど、この気持ち悪い痩せ男の事が嫌いなのか?

 だが、そこまで毛嫌いしなくて……。


 「おや、おやおやこちらは噂のユキ様では? で、薄ら映るコイツがその彼氏と言う名のヒモですかな?」

 「へ? そ、そうだけど……、ねぇセレスさん、あの人誰?」


 この野郎……。


 「はっはっは、お噂に聞いたとおりお美しい! どうですユキ様、私とお二人でお茶なんて? そんな見ているだけの口だけ男なんて捨てて……へ?」


 俺は、ユキにゆったり寄りつつあったゴールグの周りを、すばやく石の壁で覆い、そして俺は高らかに宣言する。


 「セレナーデ恋愛教団の信者諸君! ここに我等が神の子ユキ様が巨大なゴミ箱をお作りになられた、今度からはしごをこの壁にかけ、家庭のゴミをどんどん投げ入れるが良い! 腐った生ゴミだとなお良し!」


 と!

 俺は今、別に親しくもない信者の為に、実に立派な事をしたと思う。

 もし、ゴミがたまれば燃やせば良いし、燃やした後に残る灰は、地面にまいて肥料にするも良いだろう。

 実際、その信者である、セレスも。


 「素晴らしいです! 生ゴミ捨て場を作ってしまうなんて! おお、流石ノブユキ様……」


 と大喜びしているし!

 それなのにだ。

 この素晴らしい行いに対し、ゴールグとか言う骸骨男の文句が聞こえてくる。


 「き、貴様! この私を誰だと思っているんだ!?」

 「頭の腐った生ゴミだろ?」

 「ふざけるな! 貴様のような恥知らずな男がユキ様と……うわ! どんどんゴミが!」

 「はーい、信者の皆さ~ん、この中に生ゴミをどんどん入れましょうね~、あ、中のぞいてはいけませんよ~、まだ浄化されてない生ゴミの亡霊の声に呪いをかけられてしまいますから~」


 そして、そんなセレスの声に従うように、信者達は『ユキ様、セレス様、ありがたや~』などといいながらはしごを上ると、手さげの籠に入った生ゴミを放り込む。

 いいぞ、もっとやれ!


 『くたばれ、亡霊!』

 『俺の女を取りやがって!』

 『人のお尻を気安く触るな!』

 『胸をじろじろ見るな、気持ち悪い!』


 そのような気合の入った声を出しながら。

 そんな時だった。


 「がうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」


 そんな獣のような叫び声と共に、着地の衝撃で民衆を吹き飛ばしながら、スポーツブラにスパッツを纏った美女が、亡霊を囲う壁の上に着地した。

 ボサボサに見える癖毛が印象的な長い銀髪、細く鋭い目、そして口の両側からはみ出る八重歯。

 また、やや筋肉質な彼女の体はスタイル抜群で、出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる。

 そして、そんな彼女の頭生える獣耳とお尻から飛び出るフカフカの尻尾を見るに、人間ではないのだろう。

 ……だが正直、見事なまでに彼女の外見は俺のタイプだ、もしユキとつき合ってなかったら、告白したかもしれない、それ位魅力的でカッコいい雰囲気の女性なのだ!

 そんな素敵な美女は。


 「がうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! スパーク果実うぅぅぅぅぅ!」


 と大声で叫ぶと、鋭い目つきで周りを散策する。

 あ、よく見たら無いなコレは……。

 だってヤバい感じ全快だもの、あの人……。

 目が血走って、口から唾液を垂らして、ケダモノみたいだし……。


 「スパーク果実うぅぅぅぅぅ! がうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」


 さて、そうこう考えているうちに、ケダモノ美女は獲物を求める遠吠えを上げると、美女は屋根の上を伝うようにジャンプして、どこかへ去っていった。

 どうやら、散策能力は低かったらしい。


 「…………」

 「ねぇ……」

 「…………」

 「ねぇ、ノブユキってば!」

 「ん、あ? な、何だユキ……」

 「正直、さっきの人にドキドキしていたでしょ?」

 「ななななななな何を言うんだお前は!? そ、そんな訳ない……だろ……うが……」

 「じ~~~……」

 「スマン、正直見た目かなりタイプだった……。 だ、だが仕方ないだろう、外見はすっごいドストライクなんだぜ、つい意識してしまうのは仕方ないだろ、だって男だもん!」

 「む~~~、まぁいいわよ。 さっき、何とかさんから守ってくれたから許す!」


 ユキは頬を膨らませながらも、そう言って俺を許してくれたようだ。

 しかしながら、何者だったのだろう?

 あの動き、只者でないだろうけど……。


 「しかし、一体何者かな……。 セレスさんも知らない?」

 「ユキ様、申し訳ありません。 残念ですが……」


 どうやら、セレスも知らないらしいな。


 …………。


 「ふは~、疲れた~!」

 「ええユキ様、ワタクシも疲れました……」


 二人は町の中央にある、教会にやって来た。

 ただ、教会と言うより、警備兵が常駐する、レストラン軒宿泊所という感じの建物だが……。

 さて、そんな

 ゲストルームはとても広く、豪華な机とイスに、大きな本棚、そして大きなベットが4つ置かれている、どうやら特別ゲスト用の部屋のようだ。

 そしてユキ達は、ここの所、(セレスのせいで)追い回されて、疲れていたのだろう。

 二人はベットに入ると、そのままスヤスヤと眠ってしまった。

 まったく、わざわざ睡眠時間を削ってまで協力する、人の苦労も知らず、こいつ等ときたら……。

 まぁいい、一番大変だったのはこいつ等だもんな、俺は結局安全な場所でサポートしているに過ぎないし。

 今日ぐらい、ゆっくり休ませておくか……。


 そして、最近機能の中にある『食事』という項目を活用していた俺は、二人の疲れが取れるよう、薄切りレモンと砂糖とレモン果汁が混じった飲み物を、机の上に出現させると、アプリを切り、自分の部屋のベットの上に寝転がって二度寝に入るのであった。


 …………。


 ピピピピ、ピピピピ……。

 「あぁ……」


 ようやく目が覚めた俺は、目覚ましのアラームを止めると、顔を洗い、そしてスマホを手に取る。

 そしてアプリを起動させると。


 「「あ、あ、あ、あ、あ……」」


 何かに怯えるユキとセレスの姿、そして何かが大暴れしたかのように、ボロボロになった部屋のが目に入る。


 「お前、ぶるぶる震えて一体どうしたんだ!?」


 俺はその惨状に慌ててそう訪ねた時だった。


 「む? どうやら話が出来そうな者が現れたようだな?」

 「あ、あんたはさっきの獣女!」


 アナタは、外見だけタイプな、あの時の美女!

 だが待て、一体俺たちに何の用事なんだ!?

 俺がそう思い警戒していると。


 「アタシは、銀狼族の長であるクルシナ・フェチルと言う者だ! よろしく頼む! 先ほどは冷静さを失っていたとはいえ、部屋で大暴れして申し訳ない」


 と粗暴ながらも、どこかご丁寧な挨拶、アレ? ホントにさっきの人と同一人物? よく見れば目も血走ってないし、うーむ……。

 それに対し俺も。


 「あ、ご丁寧にどうも! 俺はノブユキと言います、よろしくお願いします」


 とつい丁寧に返事を返す。

 しかし、一体ユキに何の用事なのだろう?

 俺がそう思った時、クルシナは落ち着いた顔つきで俺に話し始める。


 「さて、単刀直入に言う。 スパーク果実を何所で手に入れた?」

 「スパーク果実? スパーク果実って何だ?」

 「うむ、そこに転がっているフルーツの事だ! そちらではレモンと言うのだろうが、我々銀狼族はそう呼ぶのだ!」


 そしてそこに転がるのはレモンの皮、だがそれは誰かが果汁を吸い尽くしたのか、干物のようにカピカピだ。

 つまり、レモンがスパーク果実って事か……。

 だが。


 「答える前に一つ質問がある、一体何の為にスパーク果実が必要なんだ?」


 もし、これがこいつ等を暴走させたりするのであれば、渡すわけにもいかない。

 それは、ユキの安全を考えての事だ!

 そして、俺の警戒する様子に少し考え込んだ様子のクルシナだったが、首をコクリと上下させ、何かを決めた様子のクルシナは真剣な顔で話し始めた。


 「……うむ、ノブユキになら話していいだろうな、スパーク果実は我々が理性を保つのに必要な植物エキスだ……」

 「どういう事だよ?」

 「アタシたち銀狼族は、この付近でしか見ることが出来ない特殊な果物のスパーク果実を取る事によって精神を安定するんだ。 それで以前までは、スパーク果実を育てつつ、この近辺で平穏に過ごしてきたのだが……」

 「のだが?」

 「ある日を境に、この町の連中が私達の村にやってくるようになって『我々の教団に入らないと地獄に落ちます』やら『我々の教団に入らないと、絶望の未来がやってきます!』だの言ってきてな。 それを皆無視していたんだが、しばらくすると 『美男美女ばかりの銀狼族は滅びろ!』『教団の使徒にならない銀狼族などくたばれ!』などと言ってスパーク果実の畑を焼き払い、更に鉱山を無理矢理作った後から、スパーク果実が全て枯れて在庫も無くなってしまってな。 その為、銀狼族は今、冷静さを失った者ばかりで大変なんだ! なので早く入手したいのだ! 頼む、どうやって手に入れたか教えてくれ!」


 そう言ってクルシナさんは頭を地面に付けて土下座した。

 え、つまり何? あのバカ教団のせいでこうなったって事だよな。

 そう思った俺はゆっくりと、とある人物の方へ目線を向ける。


 「ふふ、ノブユキさん、欺されてはいけません。 そもそも我が教団に入らない銀狼族が悪いのです、ですから私達が痛い目に必要は無く、ってアレ? 何で私壁で囲われているんですか? って目があぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 そんな反省しない様子の邪教徒の賢者を壁で被うと、俺はレモン果汁をタッチして、セレスの真上からレモン果汁をガンガン降らせてお仕置きした。

 あの邪教徒達、ろくな事をしないな……。

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