俺の思った賢者と違う!

 「もしもし、そっちの白い服の人、聞こえるか?」

 「こ、これは天の声……!? ……つまり私の崇める教団の……」

 「え? 教団の何? 声が小さくて聞き取れない!」

 「……つまり……、ええ、やっと信仰心が信仰心が……フヒヒヒヒヒ……計画通り……」

 「ん? え!?」


 うん、冷静さを失ってるだけだよね、別に俺の本能が《やべぇ奴かもしれない……》って胸をバクバク言わせているのは、偶然だよね!

 顔が狂気じみているのも幻覚だよね、そうだよね。

 …………。

 絶対仲間にしてはいけないな、この人。


 「すいませ……」


 そして俺が喋ろうとした時。


 キーンコーンカーンコーン……。


 昼の授業開始5分前の鐘が鳴る。

 ええい仕方ない、任せるのは不安だが、ユキに後の事は任せるしかないか!


 「ユキ、そのヤバイ奴を仲間にするなよ! 俺は授業だから、またあとで!」


 そして俺はアプリを切ると、急いで教室へと戻っていった。

 絶対仲間になっていないでくれ……。

 そんな強い願いをユキに送りつつ……。


 …………。


 そして下校下校時間になり……。


 「ノブユキ、新しい仲間を紹介しまーす。 私の弟子になりました、セレスちゃんです!」

 「先ほどは取り乱して申し訳ありません、ノブユキ様。 この度、ユキ様の弟子になりました、セレスティア・リブドーネと申します、気軽にセレスとお呼び下さい。 それと、どうぞよろしくお願いします」

 「…………」


 うん、フラグになるかもって思ってましたよ、ええ。

 ま、まぁこの様子だし、きっと良い子だよね、うん。

 何か、後ろに爆心地が生まれていて、何か嫌な予感するけど大丈夫だよね。

 お兄さん、そう信じていいよね!

 セレスティアさん、俺は信じていいよね!

 …………。


 「セレスティアさん、何でコイツの弟子になったんですか?」

 「はい、ワタクシ、ユキさんの生い立ちや破壊能力・・・・・・・・・に魅了されてしまいまして……、初めてでした、素晴らしい破壊力で気絶してしまったのは……。 それに、ユキさんは私を救ってくれた恩人でもありますし……」


 何で神聖なる神の使徒が、目を輝かせてそんな事を言うの……。

 いや、神の使徒だよね、悪魔崇拝とかしているわけじゃないよね、何かおかしくない?


 「どうよノブユキ! これが賢者のパワードカリスマよ」

 「要するに、凄いカリスマ性って言いたいのは分かる。 そんな言葉で賢者を名乗るのがよく分からない」

 「まぁ、でもバーサーカー賢者であるセレスティアさんが、私の弟子になりたがるのは分かるわ! 私のカリスマによる魅力はMAXだもの!」

 「ま、まぁカリスマはともかく、ユキの魅力は否定はしないが……ちょっと待て、さっきなんて言った?」

 「パワードカリスマ?」

 「違う、その後」

 「バーサーカー賢者?」

 「俺の聞き間違いでなかったのか……」


 え、何、バーサーカー賢者って? 意味がわからないのだけど!?

 ……そう言えば破壊に魅了されてと言ってたな、セレスさん。

 破壊と言えば、警備兵らしい奴等が言ってた破壊神と言う言葉がふと……。

 もしや……。

 そして俺はとある疑問をセレスさんに訪ねる。


 「セレスさん、ふと思ったのですが、ユキがどう救ってくれたのですか?」

 「それは、各国で古いモノを破壊して回っていたワタクシが、ごろつきに変装した警備兵に追いかけられていたところを、破壊を持って救ってくれた事に……」

 「よーしユキ、パーティを解散して冒険の旅にでるんだ、今すぐ!」

 「何故ですノブユキ様! 神の使徒であるワタクシを見捨てるのですか!?」

 「ふざけるな、邪神の使途の間違いだろ! 第一、アンタとユキが一緒にいたら、警備兵にずっと追われて、冒険しづらくなるだろう! ユキ、お前も何か言ってやれ!」

 「ノブユキが助けろって言ったのに、それはないんじゃないの?」

 「…………」


 ……あ~今何も聞こえなかった!

 聞こえたかったから、決して聞こえてない!

 とにかくだ! このままコイツセレスが仲間になれば、異世界中に指名手配されるかもしれない。

 そうなれば、ユキが街などに寄ってアイテムの購入や情報収集などができなくなるのでは?と俺は危惧する。

 なので俺は……。


 「銭ゲバ」


 なので俺……。


 「金に汚い」


 なの……。


 「守銭奴」


 …………。


 「ケチ」

 「ユキ、お前うるさいぞ! 生活を考えて金を大切にすることの何が悪い!」

 「……私、ノブユキの事好きだけどさ、いつもデートの時、ペットボトルに弁当持参で来るのは無いと思うわ……。 他にも、シャーペンの芯を綺麗に使うため、微妙に残った部分を指先で掴んで使用したり、山にお姉さん系のエロ本を探しに行ったり……」

 「よーし、そこまでだ! 俺が悪かった、話は終わりだ!」

 「あ~このパーティで行動したいな~! セレスティアさんと一緒に冒険したいな〜! でないと私、ノブユキがベットの下に、自分のコレクションをジャンル別に並べて大切に保存していることも、参考書のカバーをはめて、偽装していることも全部……」

 「うわぁぁぁぁぁぁぁ! 分かった、分かったから、今のパーティでいいから! だから、もうセレスさんのバラすのを止めて! お願いだから!」

 「やっほ~! ノブユキ大好き~!」


 こうして、俺の思う構想をぶち壊して、セレスは仲間になった。

 ユキのバカ、帰ってきたら覚えていろよ……。


 …………。


 「ところで、お二人はお付き合いされているのですよね?」

 「「そうだけど?」」

 「いえ、お二人のなれそめを聞きたいなと……、ちょっと面白そうな匂いもするので……」


 下校しながらスマホを見る俺と草原をスキップして歩くユキに、セレスはそのような質問をしてくるのだが。


 「単純に気の許せる友達だったのが、知らない間につき合ってた」

 「そうそう、二人でさ『ユキユキ夫婦でーす』って感じで、同級生の前とかでやってたら、何かノブユキとそんな関係になってた」

 「えぇ……」


 困惑した表情を浮かべるセレスの顔を見るに、どうも理解出来ない話らしいのだが、そんなセレスを気にせず、俺たち二人はつい昔話に花を咲かせてしまう。


 「そういえば、昔っから色々やったよな~。 小学校の頃、うちのじいちゃんの家にあった将棋の駒を使ってメンコみたいな事をやって、駒を壊したり、囲碁の石を『警察ごっこ』とか言って、思いっきり投げ合って壊したり……」

 「そうそう、あの後ノブユキのお母さんのおじいさん、すっごい涙目だったよね~。 あと、うちのお父さんのゴルフクラブでスイカ割りやろうとして、ゴルフクラブを壊したりした事あったよね~」

 「今考えたら、申し訳ない事したよな~ユキ~」

 「だよね~ノブユキ~」

 「「あははははは~」」


 そんな事あったなぁ~、いやーホント懐かしい思い出だなぁ……。

 大きくなったら、流石にそんな事しなかったけど、大きくなってもユキと一緒にゲームしたり、自転車でサイクリングに行ったりしたなぁ……ってアレ、何でセレスは手を合わせて崇めているの?


 「おお、コレが破壊者同士の美しき恋愛……。 私はまた新たな世界を学んでしまいました……。 いずれ私も同じ邪神を崇める異性との熱い恋愛をしたいなと……」

 「違うセレス! それはあくまで子供の時の事であって……」

 「分かります、分かりますよ……。 こうして新たな破壊の遺伝子を残すべく、破壊者の子を作るのですね……」

 「違うから! セレス、話を聞けって!」


 やっぱコイツ、信仰心がおかしいよ……。

 しかし、邪神を崇めるって言ったし、おかしくて当然か……。

 うん、邪神? 何か、何か引っかかるような……。

 うーん、やっぱり分からないな、意外とユキなら分かるかも……。


 「ねぇ、セレスちゃんは恋をした事は無いの?」


 そんな事を訪ねるタイミングを消すように、ユキの奴はセレスにそんな質問をする。

 コイツめ……しかしまぁ良いか、慌てる事でもないからな、落ち着いてからユキに話しても。


 「わ、私は異性とのお付き合いは、その、一度も……」

 「え~可愛いのに~。 セレスちゃん意外!」


 へぇ、以外とセレスは内気なのか?

 恥ずかしそうに顔を赤く染めてるし!

 まぁこんなでも、乙女なの……。


 「なので、私は教団の教え第1項の『イチャイチャする異端者(我が宗教以外の邪教徒及び、無宗教者の事)カップルがいる建物は、容赦なくぶち壊すべし!』及び第2項の『異端者の異性同士が、目の前でベタベタしていたら、容赦なく邪魔するべし!』と言う教えを忠実に守る生活をしています」


 そんな事をしているからモテないと何故理解しない?

 うん、少しでも乙女の部分があると思った俺がバカだった。


 「は! つまり破壊行為を行っていたから、ノブユキとつき合うことになったんだ! 賢者の才能ある私は、その事を無意識に悟っていたんだ……」


 それは絶対無い。

 ついでにお前は、絶対悟っていない。


 「その通りです! 流石、我がセレナーデ恋愛教団の神の子だけの事はあります!」


 え? 何言ってんのこの人?

 と言うか、セレナーデって誰だよ、そんな美しそうな素敵な名前の人物なんて知らないぞ。

 うん、きっとユキの奴、どえらい勘違いされてるんだろうな、そうに決まっている!

 と、なるとだ。

 この邪教徒にバレないように、立ち回るしかないだろう。

 その為に、クギをさしておかねば!


 「神の使徒セレス、今から最高機密の話をするから、ちょっと向こうに行っててくれないか?」

 「おぉ! 神の使徒としてお願いされるとは……、ええ良いでしょう! ですが私は、教団の3幹部の一人です。 故に神の子を異端者共から守る為に、近くにいることをお許し下さい!」

 「なるほど、了解! それじゃあセレスは向こうへ……」

 「わかりました、では……」


 ここで粘って変に怪しまれる訳にはいかない。

 何が重要かと言えば話を聞かれない事、それだけで良いんだ。

 っとセレスが離れたな、よし!

 そして俺はヒソヒソと、ぼけっと立っているユキに話し始める。


 「ユキ、よーく聞けよ……」

 「ん?」

 「お前は今、死の一歩手前に立っているんだ……。 と言うのも、セレスの奴は、どうもお前をセレナーデ教とかいう教団の神の子だと勘違いしているみたいなんだ……。 つまり、お前が神の子でないとバレた時、お前はあの邪教徒からコロされるかも知れないんだ!」

 「へ? 何言ってんの、ノブユキ?」

 「へ? じゃないぞ! お前、今の立場分かってんの? あの邪教徒にボッコボコにされるかもしれないのだぞ!」

 「全く、これだから非賢者は……。 みてなさい、賢者としてノブユキにも理解させてあげるから、おーいセレスちゃーん!」

 「あ、バカ!」


 何やってるのコイツ!?

 死にたいの? いやホントに!

 あ、やばいやばいやばい!邪教徒がスキップしながら来たぞ、これはヤバいぞ!


 「おや、ユキ様どうなさいました?」

 「あのねセレスちゃん、ノブユキがね……」

 「うわーーーーーーーーー、うわっうわっうわっ! ……ゲホッゲホ!」

 「……って事で、私が神の子で無いって言うんだよ」


 俺は必死にユキの言葉を消そうとするが、声が切れた瞬間に、最も消したかった言葉がはっきりと聞こえてしまう。

 あ、ヤバい、コレは終わった。

 下手すればあの邪神に電撃を喰らうかもしれな……、何でセレスはクスクス笑ってるの?


 「ふふ、ノブユキさん。 ユキ様は我らが教団の神、クリスティア・セレナーデ様の子に間違いありませんよ。 その証拠にこの破壊力、そして母の名を訪ねたときに、セレナーデ様のフルネームを堂々と仰られた、これは間違いありません!」

 「…………」


 クリスティア……クリスティア!?

 …………。

 つまり何だ?

 あの、はた迷惑な電撃を出す邪神はこの教団の神であると言うのか?

 ……ヤバい、すっごい納得している自分がいる。

 と言うか、とんでもない教団を作ってやがる、あの邪神は……。

 しかも、セレナーデって大層な名前を……ん? クリスティア・セレナーデ? クリスティア、セレナーデ……。

 クリス、セレナ、クリス、セレナ……。

 まさか……。


 「セレス、一つ聞きたいのだが? お前の名前って教団と関係あるのか?」

 「流石神の子の恋人、よくお気づきに! 私の両親も熱心なセレナーデ教の信者でして、セレナーデ様のフルネームからあやかり、セレスティアと名付けて貰ったのです!」

 「…………」


 天界は、あの邪神を早く討伐した方が良いのでは無いか?

 こんな、かわいそうな人を生まない為に。

 俺は呆れた目でセレスを見ながらそう思った。

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