やっぱり彼女はとてもおかしい
チュンチュンと鳥の鳴き声が聞こえる。
ああ、やっとあのうるさい電話の音も消え去り、新たな一週間の朝が始まるのだ。
そして、俺は部屋の窓を開き、さわやかな笑顔を外に出し……。
「あれ? えらく明るくね? なんか、じめっとした暑さがあるくね?」
うん、何だろういつもより明るいと言うか、熱いと言うか……。
とりあえず、机にしまっているスマホを見るか……え~スマホは、スマホは~っと、あった! ってアイコンに292ってついてるって事は、アイツそんなに連絡したのかよ……。
今時間は……時間は……、午前11時……、午前11時! 遅刻だ!
そして俺は急いで着替えると、何も食べずに走って学校まで向かうのであった。
くそ、まさか《俺に危機が迫っていた》とは思いもよらなかったよ!
…………。
時刻は12時過ぎ、丁度弁当の時間だ。
そんな時間だから教室ではみなが弁当をモグモグしていて当然だろう。
が、この1年2組の担任で《無反応な長髪美人》《教師型ゲーマー》と称される黒田ネオンは例外で、この人の場合、棒つきキャンデーを咥え、レコードレモラというロボゲーをしに来ているのではないかと思っている。
だって、今PCゲームに夢中で仲良くにらめっこだよ、家にいればそのジャージ姿から引きこもりと間違えられても仕方ないレベルだよ、この人。
まぁしかし、それでも担任の教師、しっかり報告しておかないといけないだろう。
そして俺は、教壇の前でPCゲームする先生の横に立ち、説明を開始する。
「すんませーん! 寝坊しました!」
「ん」
「飽きませんか?」
「ん」
「…………」
「…………」
「先生はエロいですか?」
「ん」
「先生はショタコンですか?」
「ん」
この野郎、全く聞く気が無いな……。
ならば聞くまで徹底的に言ってやるからな。
「先生は男好きですか?」
「ん」
「先生は、今すぐ結婚したい生徒はいますか?」
「ん、んん?」
「先生は……いった!」
「うるさい、とっつきに集中出来ないだろ! 黙ってろ、カス!」
俺はそうブチ切れられると共に、ドンと強烈に蹴飛ばされる。
この野郎、教育委員会に言いつけるぞ!
ピリリリ、ピリリリ、ピリリリ!
「ん? ユキからか……っとココではマズいな……」
俺はスマホをポケットにしまうと、教室を後にし、腹の痛みに耐えながら、屋上へと小走りで向かった。
…………。
さて、屋上に到着し、あぐらをかいて座った俺はアプリを起動させる、すると。
「ねぇノブユキ、私今始めの街ターティって街にいるんだけど、パーティってどこで組めば良いの?」
「知らねーよ。 お前、自称賢者だろうが! それくらい考えてどうにか出来るだろう!」
「ふふん! 賢者だけど、そういうのはサポーターであるノブユキの役目でしょ?」
「お前は人に聞くという事が出来んのか?」
「あ……」
早速、いかにもゲームに登場しそうな感じの中世ファンタジー風の城下町にいるユキから、早速答えようがない質問が飛んできたのでそう答えたが、コイツがその結論に達しなかったことに呆れてしまった。
と言うか、異世界の事なんて、全く分からないのだから、俺に聞いたってしょうがない事、考えたらわかるだろうに……。
俺がそう思った時の事。
「た、助けて下さい~!」
どこからともなく声が聞こえ、やがてトコトコと鈍そうに走る声の主が姿を表す。
白い布を纏い、白い長髪、白い瞳はどこか清純の美少女といった雰囲気を感じさせ、その右手に持った杖を見るに魔法使い系の職業だとすぐに分かる。
そして俺は察した、コレがホントの賢者だと……。
そんな、賢者の乙女の後ろを。
「待ちやがれ、このアマ!」
「野郎、ぶっ殺してやる!」
と二人の男が追いかけている。
ボロボロの汚い服に、顔つきはいかにもごろつき、何か悪い事をやってそうな顔である。
「これはチャンスじゃないか?」
「え?」
そんな状況を見て、俺はふと呟く。
と言うか、何となく想像がつくだろうが、ユキの奴、ええい手短に説明するか!
「ユキ、いいか、これはチャンスだ! とりあえず、助けるんだ! いいな!」
「分かった!」
そしてユキは、ごろつき達の方へダッシュ、そして。
「あの、おじさん達、服がボロボロだから、野宿は大変だよ! とりあえずどこかで服を買ったほうが良いよ!」
「違う、そいつ等を倒すの! そいつ等悪人面してるだろ!」
「でも、人を顔で判断していけないって学校で先生も言ってたよ! それとも先生が嘘ついてるって言うの!?」
「そうだけど、今はそうじゃなくて……」
そんな時だった。
「ん、ユキ! 危ない!」
俺の方を向いていたユキには、後ろにいる男の振り上げたこぶしが見えていない、そして。
「ええい、どけ!」
「ぎゃん!」
男の拳がユキの頭に命中し、ユキは地面に倒れこむ。
くそ、こんな時コイツのそばにいれれば……。
俺がそう思った時であった。
「痛いじゃない! もう怒った、絶対許さないんだから!」
「待て、落ち着け!」
ごろつきがそう言った時にはもう遅かった。
「ユキーーーーーーー!」
ユキは零距離でロケットランチャーを発射、周りは爆風に包まれ、俺は心配のあまり叫んでしまった。
…………。
爆風によって飛び散った塵が徐々に収まり、円を描くような爆発後が露わになる。
「…………」
そして塵が消え去った後の光景を見て、俺は呆れて声も出なかった、それは。
「この、この! 人を背後からぶったらいけないんだよ! この、このったら!」
爆風で吹き飛んだ人々をよそに、爆風の中心ではボロボロの制服を纏うユキが、髪の毛アフロ、肌は真っ黒こげになって気を失っている様子のごろつきを、何度もビンタしている光景だった。
「お前はサイボーグか何かか!」
俺は流石にユキの非常識な生命力に呆れて、そう口にしてしまう。
だってコイツ、スリ傷の一つも無いからさ……。
そんな言葉に流石に傷ついたらしいユキは、頬を膨らませて、俺に文句を言い始める。
「私乙女だもん! 正真正銘、乙女だもん!」
「一般常識で考えて、乙女は零距離ロケットランチャーの爆風には耐えないからな!」
「そ、それなら賢者だから……」
「ユキ、後ろを見てみるんだ……。 白髪の賢者っぽい人、爆風のせいで、目をクルクル回して気を失ってるだろう? あれが普通の人間なんだ」
「そ、それは気合いが足らないから……」
「バカ、気合でロケットランチャーの爆風はどうにもならないんだよ! お前は絶対おかしい! 普通の人間なら死んでるぞ!」
「何言ってんの! 見てよ、ロケットランチャーで誰も死んでないから! ほら、ほら!」
「む! た、確かに皆、目を回して気絶しているだけだけどな……」
「ほら! 非常識なのはノブユキの方よ! ほら、ほら!」
あれ、おかしいな……、普通ロケットランチャーなんて受けたら生きている訳がないのに……。
俺っておかしい事いってるか、あれ?
「いたぞ、破壊神だ!」
「ついにこの街を破壊しに来やがって!」
「急ぎ破壊神の女を捕まえるんだ!」
まずい、警備兵らしき奴らが来たぞ!
と言うかアイツらユキを破壊神扱いしているようだな、急いで逃げる様にユキに言わないと……。
「やっほー、大賢者たる英雄はここよ~!」
「バカ、手を振ってんじゃない! いいから逃げろ!」
「へ、何でよ? きっと偉大なる私のカリスマによって……」
「お願い、土下座でもなんでもするから逃げて! そうしないとお金が……」
「へ? お金……?」
「後で話すから! お願いだから逃げて!」
「偉大なる大賢者、ユキ様って言ってくれる?」
「言うから、お願いマジで!」
「しっかたないなぁ……」
そして、やっとユキは警備兵らしき集団から逃げてくれた。
途中ロケットランチャーで家を壊したり、壁を壊して足止めしながら……。
「
ん? 今何か聞こえたような……、いや今はそれどころではない!
…………。
「お前のあだ名を、二重の意味を込めて、ランボーにしようと思う」
「何言ってんの? 私のどこがランボーなのよ?」
「ロケットランチャー片手に大暴れしたランボー者だから」
「私、そんなあだ名ヤダ!」
さて、無事に草原まで脱出した我らが破壊神様であるランボーは、始めの草原まで逃げてきたのだが、俺としてはその逃げる過程を見ていてコイツは邪神の娘なのだろうと確信した。
普通、逃げる時にロケットランチャーをバンバン撃って破壊して、道を作ったり、壁を崩して道を無くしたり、まさに破壊神そのものだ!
さて、そんな話は置いておいて、俺は彼女に一言注意しなければいけないことがあった、それは。
「それよりお前、服がボロボロだからな、少しは恥じらってくれ……」
「へ? う、うん」
全く、コイツはボロボロになった制服を着ていて恥ずかしくないのか……。
ただ、この格好だと町中を歩くのは恥ずかしいと思う、俺もそんな姿で歩いてほしくない。
っと、そう考えている間に何か無いか探すか……。
そして俺はメニューを開いて、何か無いか探し始めるのであった。
…………。
「普通にユキ専用制服ってあるのか……」
探し始めて10秒足らずで見つけたその文字に、俺は呆れるとともに、安堵の息を漏らす。
と言うか無駄に服はいっぱいあるんだな、ジーンズにシャツに、パーカーに帽子、チャイナ服まであるのか、無駄にすごいな……。
し、下着はちょっと……見るのは恥ずかしいな……。
と、ともかく俺は、制服とコートを出し、ユキの前へ出現させ、ついでに壁を作って着替えるスペースを作ると、スマホを地面に伏せる。
あぁ、何だろう、俺ギャルゲーでもやってる気分になってきた……。
不思議と男としていけない事をしているような……。
そして俺は、そんな気恥ずかしさから頭を抱え込んでしまった。
そんな時だった。
「み、見つけましたよ!」
「ん?」
あれ? 何かどこかで聞いたような声が聞こえる、この声は確か、さっきの賢者の子の声だ!
「へ? 誰だって?」
「さ、先ほど顔を合わせたではありませんか!」
「うーん……」
「うーんではありません! ほら、先ほど!」
……これはもう、間違って俺が代わりに会話したほうが良いような気がする。
と言うか、交渉次第で仲間になってくれるのではないだろうか?
もしなってくれれば、賢者の子が回復や魔法で支援、そして賢者(笑)がロケットランチャーで戦う、こうすれば遠距離から戦えるパーティになるのではないだろうか?
だが、アイツは着替えているかもしれないからなぁ……。
だが……、ええい、仕方ない、間違っても覚悟の上だ!
そして俺は置いていたスマホを取ると、そのスマホに声をかけた。
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