俺のやることは彼女のサポート!?

 「大賢者ユキちゃんのサポートをお願いしたいのです!」


 俺はその言葉を聞いて固まった訳だが、俺の気持ちも知らず、おばさんは女神の様に微笑んだ顔を浮かべると、こちらの心を知ったように語り出す。


 「ふふふ、私の言葉に驚きのようですね」

 「ええ、アイツを大賢者と言った事に驚きましたよ」

 「…………」


 うん、そりゃちょっと引きつった顔になりますよね、遠慮無くそう言ったのだから。

 でも、俺は悪くない、だって事実だもん!

 そんな俺の対応を確認しようとしているのだろう。

 おばさんは笑顔を浮かべ。


 「もう一回言ったら殺す……! 私の言葉に驚きのようですね?」


 おいちょっと待て、今おばさん殺すって言ったよね『もう一回聞きます』って優しく女神らしい言葉で無く『もう一回言ったら殺す!』ってドスのきいた声で物騒な言葉を使ったよね? 女神スマイルで……。

 はは、きっと聞き間違いに決まっている、聞き間違いに。


 「はっはっは、驚きますよ、アイツが大賢者……」


 あ、聞き間違いでないですね、両手からビリビリと放ってらっしゃいますから、さっきと同じ事を言ったら死ぬなコレ。


 「大賢者になっていたと言う事に……」

 「ふふ、そうですよね、驚いてしまいますよね」


 うん驚くよね、さっきまで殺す気しかない殺気を放っていたからね。


 「ですがこれは、ダーリンとのイチャイチャ世界旅行……大規模な異世界の平和の為に必要な行為なのです」

 「今、イチャイチャ世界旅行っていいましたよね?」

 「言ってないですよ? 女神がそんな事言う訳ないじゃないですか」

 「じゃあ、こっち見て下さいよ。 なんで右上を見ているんですか?」

 「ナ、ナンノコトデスカー?」


 ……血筋なのかね、コレは。

 ユキと同じく右上を向いて誤魔化してやがる……。


 「と、ともかく説明しますね。 まずは、スマホを取り出して、私に差し出しましょう」

 「ともかく話を戻して、イチャイチャ世界旅行って言いましたよね? どうして答えてくれないのですか?」

 「成功報酬、来年の天界予算の半分!」


 はっはっは、いきなり何を言い出すかと思えば、お金で釣る?

 そんな事で乗せられる訳が……。


 「分かりました、超美人で素敵なお姉様であるクリスティア様! クリスティア様の使徒である、このマサユキになんなりとご命令を……」

 「うふふ、物わかりの良い子羊に、邪神のご加護を……」


 まぁ仕方ない、ここまでお願いされて、断るのは最低だろう!

 それも相手は女神、1年間のここで断るなど神の使いたる人間として恥ずかしくはないだろうか?

 俺は、恥ずかしいと思う!

 だから女神様に俺は全力で力を貸すことに決め、頭を地面にこすりつけたのだ、あぁ俺は何て立派なんだ……。

 さて、そうと決まれば、女神様のご要望にお応えして、たんまりお金を……オホン、ご期待に応えるために、素早く行動せねば。


 「ところで、一体俺は何をすれば良いんですか?」

 「簡単に言うと、スマホとパソコンからあの子ユキの魔王討伐を手伝って欲しいのです」

 「手伝うというと?」

 「そのスマホ、そしてノブユキ君のノートパソコンには今、私の女神パワーによって、あの子に支援を支援するアプリ〈ユキちゃん支援しちゃーう〉がダウンロードされています。 それを駆使してユキちゃんを助けて欲しいのです……」


 確かに何か見慣れないアイコンがあるな、だけどアイコンの画像が〈クリスちゃんは美人!〉ってなってて腹が立つな、なんか……。


 「まぁ分かりましたよ……」

 「そうですか、なら説明に入りますね! まず、このアプリで出来る事は、建物や壁等を建築したり消したり、食材を出したり、後は天候を変えたり、その他色々出来るようになっています」

 「は?」


 ちょっと待って欲しい、魔王を討伐するんだよね?

 だよね、絶対聞き間違いだよね、建築だのお堀だのって言葉。

 だって防衛する設備で魔王城を攻めろっておかしくない?

 ん、待てよ?

 つまり街を作って、兵隊を作って魔王の城を攻めろって事じゃないか、つまり?

 そうだよな、それ以外にありえないし!


 「それはつまり、街を作って、兵隊を作って、魔王城を攻めろって事ですか?」

 「残念ながら、違います」

 「はい?」


 え、どういうことよ?


 「と言うのも、家の様な人が住まう建築物は作れませんからね。 その為、アプリのみで街を作るのは残念ながら不可能です。 もし出来たとしても、陣営の様な物を作るか、街を城壁で被うか位でしょうか?」

 「じゃあどういう風に使用しろと言うのですか?」

 「そこは、気合いで何とかすると良いのではないでしょうか?」

 「気合いじゃどうにもなる訳ないでしょ! この邪神女神! あ、ごめんなさい、ウソです、冗談です、なので電気をバチバチ言わせないで下さい……」


 そして俺は、逃げるように邪神の住処から逃げていった。

 俺はとんでもないお願いを受けたのではないだろうか、今最高に後悔している……。


 …………。


 「さてどうするべきか……」


 俺は自分の部屋で、じっくり考えるが、冷静になってみれば、機能を完全に把握している訳ではない。

 とりあえず、一度機能の確認の意味で起動してみるか……。

 そして俺は〈ユキちゃん支援しちゃーう〉の腹立たしいアイコンをタッチし、起動、すると。


 「このアプリは女神の心が宿った大変ありがたいモノです、そのありがたみを噛みしめる為に、毎日『クリスティア様は美人で素敵で最高な女神様です』と10回唱えましょう!」


 とふざけた内容が映し出される。

 当然、信仰深い俺は、スマホを一度床に置き。


 「クリスティア様は、奇跡的にシンゴおじさんと結婚出来た癖に、娘を異世界に身代わりとして送り出す、最低最悪な邪神です」


 と手を合わせ、10回唱えると、再びスマホを取ってタッチした。


 「……ん? あれ、ノブユキだ! どしたの?」


 不愉快な読み込み画面が終わると、そこには草原に寝転がるユキの姿が映し出される。

 そしてユキはこちらが見えているのか、寝転がった状態でこちらに手を振っている。

 だが、先ほどより目に見えて元気がなく、顔色も悪い。

 ……ええい、クソ!


 「お前、どうしたんだよ? いつもより元気がないぞ!」

 「へ? え、げ、元気元気! 私元気だから!」

 「絶対ウソだな、お前どうし……?」


 グルルルルキュウゥゥゥゥ……。

 

 「「…………」」


 こいつ、もしや……。 


 「お前、また落ちていた木の実か何かを食べただろ?」

 「ナ、ナンノコトデスカー?」


 このバカ、前も見た目が美味しそうなミカンを見つけ、拾い食いして腹を壊しているのに、何で同じこと繰り返すかな!

 第一賢者を自称するんだったらそれ位考えろと、全く……。


 「おいユキ! いつも言ってるだろ、美味しそうな見た目だけで、木の実なんかを食べるなって!」 

 「ち、違うもん! これは、その……、ノブユキとの子供だもん!」

 「お、お前とんでもないウソをつくな! そ、そんな事していないだろ!」

 「あ、ああぁぁぁぁ、う、生まれる! 新たな命が生まれる! ヒーヒーフー、ヒーヒーフー!」 

 「よ~し、待て! 落ち着け! そしてヒーヒーフーを止めるんだ! そして落ち着いてトイレに行くんだ!」

 「トイレ無いもん! さっき小さな民家があってトイレを貸して貰おうと思ったら壺なんだもん! あれはトイレじゃないもん!」

 「お前、異世界なんだからそれ位覚悟しておけよ! 全く、お前は世話が焼けるのだから、全く……」


 あぁどうする、どうする!? と、とにかく何かないだろうか?

 そんな思いいっぱいの中、画面右上のアイコンを見つけ、どうなるのか分からないまま慌ててタッチする。

 すると、閉じられていた項目がズラッと現れ、そこには建築や、食事等の文字が並んでいた。

 そして俺は、その中の項目をタッチし、その中から何か使えるモノがないか、一生懸命探す。

 するとその中に、ひらがなでも漢字でもない文字でトイレと書かれた項目が。


 「ん? トイレ!? トイレってアレだよな、こっちの世界にもあるアレなんだよな!? ええい、悩んでも仕方ない!」


 猪突猛進さが俺を支配していた。

 俺はトイレを連打し、目線を左右に小さく動かしながら画面を注目する、すると画面が変わり、ユキを中心に上からのぞき込むような画面へと変わる。

 そして、右上に『置きたい場所にタッチしよう』と表示されていたので、とにかく画面を連打、すると。


 「トイレだ……」


 画面の原っぱの中に、洋式トイレがスッスッとドンドン現れる、だが。


 「壁、壁が無いの! ノブユキどうにかしてよ! あぁぁぁぁぁ、生まれる、生まれる!」


 大変苦しそうなユキが贅沢を言う。

 ええいトイレが出来るだけ満足に思えばいいのに、壁? そういえば、確か壁は!

 俺は急いで建築の項目を探し、石の壁を選択、そしてユキとトイレを囲うようにそれをポチポチタッチすると、4~5メートルほどの石の壁が地面からスッスッと生えてきた。


 「ユキ、大丈夫だぞ!」

 「分かったから見ないで! 恥ずかしいから!」

 「分かってる! その、終わったら声をかけてくれ!」

 「タカユキ違う! 音を聞かれたくないの! 終わったらこっちからかけ直すから!」

 「あ、そ、そうか! 分かった!」


 そして俺は、ちょうど見つけたトイレットペーパーのボタンを押して、トイレの側に置くと、熱くなった顔を隠すようにアプリを切った。

 ……あぁ、冷静になれば俺らしくもない行動だったか?

 と言うか、トイレをしているのを聞かれたいなんて人間はいないだろうに、そういう考えに至らない程、慌てていたんだな……。

 しかし異世界か。

 アイツ、大丈夫かな……。


 …………。


 ピリリリ、ピリリリ、ピリリリ!


 ん、あぁもう30分も経ったのか……。

 俺はそう思いながら、スマホを手に取り電話を取る、すると自然に例のアプリが起動し、ユキの姿が映し出される。


 「終わったの……」

 「ノブユキ! 寒い、トイレから出れない、寒い、トイレから出れない! うわーん!」

 「わ、分かった! 泣くな、なんとかするから!」


 そうか、壁で囲んでいるから出られないのか!

 そ、そういえば確か建てたり壊したり出来るって言ってたな、なら右上の項目の中に……あった! 建築物破壊が!

 そして俺は壁をなぞるようにタッチし、先ほど作った壁、そしてトイレを排除し。


 「寒い、もっと寒くなった! 風がビュービュー当たる!」


 ええい、コイツめ……とりあえず、風よけに壁を建てるか。

 そして俺は、壁を螺旋状に配置し臨時の風よけを作った、城門か何かが欲しいな……。

 しかし、それでもユキは寒そうだ、何かないだろうか……、お、道具の項目に毛布があるな、よし!

 俺は毛布をポンポンとタッチし、ユキの目の前へと配備すると。


 「いやっほぉぉぉぉぉぉ!」


 飛びつくように毛布を手に取り体に纏わせて寝転がり、幸せそうな表情を浮かべるユキ。

 それはまるで、いも虫の様な姿、そんな姿が賢者らしい姿と言えるのだろうか、俺は流石に苦笑する。

 まぁともかく、ユキの問題点は解決しただろう。

 それに今日は日曜日、明日学校だし、そろそろ寝るとするかな……。


 「ユキ、とりあえずもう大丈夫だろう? 俺は明日学校だから、そろそろ寝るぞ」

 「待って! まだ大丈夫じゃない!」

 「何!?」

 「私、悟っているの、賢者だから……。 今迫りつつある危機を……」

 「ど、どんな危機が迫っているんだ?」


 一見、スマホの画面を見ても、壁ばかりで何も無いん……お、指を滑らせたら画面が動くのか、これで周りが見れるな!

 とりあえず建築画面を使って上から見ても、何か蠢くモノは目視できない。

 一体何が迫っていると言うんだか……。

 だけど、顔の表情は深刻そうではある、これはユキが本気で思っている顔だ。

 一体何が……。


 「私、昼寝してたから眠れないの! 眠るまで相手して!」

 「謹んでお断りします!」


 自業自得な発言に、俺はアプリを切った、が。


 ピリリリ、ピリリリ、ピリリリ、ピリリリ、ピリリリ!


 しつこく鳴り響くユキからの呼び出し音、ええいアイツは寝かせないつもりか!

 だが俺も対策が浮かんでいないわけではない。

 こういう時は電源を切れば……あれ、何でボタンを長押ししても、切れないの?

 すると、ピーっと言う音が鳴った後、画面に。


 『女神パワーにより電源を切ることが出来ません。 なお、バッテリーが切れることも壊れることも決してないので悪しからず』

 「ちくしょおぉぉぉぉぉぉ!」


 俺は机にスマホをしまい布団を被って抵抗したが、完全に音はなくならなかった為、俺はその日心地よく眠ることが出来なかった。

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