第25話 晃陽&黎VS“影”

れい……」

「よう、家出少年。迎えに来たぞ」

「丁度いいところに来た。ちょっと手伝ってくれ」

「友達が家にゲームやりに来たテンションで言うんじゃねぇ。こちとら一週間ぶりの再会だっつーの」

「一週間!?」

「そうだぞ―――」

「……思ったより経ってないな」

「そっちかよ」

「よし、作戦を説明する」

「嘘だろ。話が先に進んでやがる」


 黎が、いつも通りの晃陽こうようワールドに渋々といった表情で付き合いつつ、彼の傍らにいる半透明の人物を見る。


「その、ある意味存在感があってないような子が―――」

「そうだ。そう言えば黎、暁井あけいあかりは?」

「あのそびえ立つダークタワーを見て、ガックガクに腰を抜かしちゃって。……本当に、腰って抜けるんだな」

「そ、そうか。お大事にな」


 晃陽がガックガクになっているらしい少女をいたわる。黎は黎で、それなりにマイペースである。


「で、何を手伝えばいい」

「うむ。来い、デイブレイカー!」


 珍妙な名称を叫んだかと思うと、その手に西洋風の剣が握られた。晃陽が「よし!」と満足げな声を上げる。


「……なにそれ」

「見たか、黎。手放しても、必ず俺の手元に戻ってくるんだ。能力的にはそれだけで地味なんだが―――」

「いやそうではなく」

「ん? やはり『夜明けをもたらす者デイブレイカー』という名は安直だったか」

「お前の語彙の無さには今さら期待してねぇ。どんな手品を使ったんだって話だ」

「フッ……。これだから凡夫は―――って、やめろ、黎、的確に、ももを、ローキックで、狙うなっ」


 いつものじゃれ合いやりとりが終わる。


「“影”を二人で滅する」


 と、晃陽は、また唐突に本題に入る。社殿のかんぬきを開け、外にたむろする二対の犬のような“影”を見せる。


「この剣があれば、あの“影”を滅せる。何とか出合い頭の不意打ちで一体は倒せたが、ダメージも負ってしまってな」


 晃陽が、先ほどまで黎に蹴られていた太ももの下、自分のふくらはぎを見せる。


「晃陽、透けて―――?」

「奴らに攻撃されると、こうなってしまうらしい。多分、もそうだろう」


 晃陽が、半透明な少女を指差す。思わぬ闖入者ちんにゅうしゃに、最初は戸惑っていたようだが、今では落ち着いていた。


「大丈夫なのか」

「ああ、気色は悪いが、歩いたり走ったりに問題はない。それに、よく見ろ、黎。この子の左手」

「左手―――あ」


 少女の肩から先が“実体化”していた。

 だから、晃陽は先ほど、少女と手を繋ぐことができた。


「“影”を倒したら戻った。俺の足も、多分同じ仕組みで戻るはずだ。だが、問題があってな」

「なに?」

「身体を食った“影”は、強くなるらしい。一対一なら、何とか倒せるが、二対一じゃとても勝てない」


 だから、ダメもとで少女を同行させて、連携を取ろうとしたが、晃陽は、ネトゲですらソロプレイが基本な、協調性ゼロの男だ。指示出しの才能は、皆無だった。


「だから、協力してくれ、黎。考えがあるんだ。二人ならやれる」


 晃陽が、にこりと笑う。黎が、深いため息を吐いた後、言った。


「失敗したら、罰としてお前の書いた小説に明が言ってたことを一字一句漏らさず教えてやる」

「罰になるレベルなのか」


※※


 境内をうろつく“影”は、恨みがましく社殿に向かって唸る。捕食者の本能がそこに獲物がいることを探知している。だが、身体が進まない。何らかの“力”が、行く手を阻んでいる。


 その両開きの扉が、開いた。中から、二つの人影が飛び出してくる。


「黎。右に行け。俺は左だ」


 二体の影は、晃陽の足を食ったことで、ある程度、別行動が取れるようになっていた。 


 晃陽は、それを逆に利用した。


 黎と二人で“影”を分断する。


 これで、一対一。


「頼むぞ、黎」


 境内を全速力で逃げ回る晃陽の手に、剣は握られていなかった。逃げる、逃げる。


 数十秒後。


「倒した! 倒したぞ! 晃陽!!」


「よし。来い! デイブレイカー!!」


 剣は、あらかじめ黎の手に握られていた。


 分断した“影”を、まずは黎が倒し、その後で、晃陽が手元に剣を出現させる。


 こうなれば、一対一。こちらのものだ。


「ふんっ」


 振り向きざまに剣を一閃。


 突進してきた“影”は、真っ二つに薙ぎ払われ、消滅した。


「……ふぅ」

「晃陽、大丈夫か―――って、随分楽しそうだな」


 黎の不安そうな顔も、晃陽の太陽のような笑顔に霧消した。


「やったな、黎」

「まさかこの歳でチャンバラごっこが役立つとは思わなかった」

「こちら、“調停員”東雲晃陽。現地民間人と共に“影”を計三体撃破した。世界アルケアカンドよ、応答せよ」

「この非常時にもその設定続いてるのかよ」


 神経が消防ホースより太そうな晃陽に、黎が笑う。晃陽も笑う。笑い合い、ハイタッチを交わし合った。

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