第8話 推理① 当時の状況と、意外な事実
中校舎も回ったが何も起きず、
歩きながら、明が、当時の状況を黎から詳しく聞いていた。
「俺が食い終って、南校舎二階の教室から
その手間があって、給食の時間がほかのクラスよりも遅れていたのだという。
「そうですか。なんで
「それは、俺が説明した方がいいだろうね」と、氷月が、罰に至ったしょうもない
「ほんとに碌なことしてませんね、あの人」
「でも、彼が騒いだおかげで、女子の間で無理なダイエットブームが来ていることが教師たちにも知れ渡ったんだよ」
「うーん」
いまいち好評価をしたくない風な明に、月菜が付け加える。
「ホントにやばかったんだぞっ。お昼も食べずに部活して、貧血でバタバタ倒れてたから」
「何でそこまでのことになったの?」
「電脳潜行だよ」
明の問いに答えたのは香美奈だった。
「ああ、
合点がいったらしい明に、苦笑して見せる香美奈。
「
「バカみたいだよなっ。動けば痩せるのに」
「「それはない」」
「え?」
インドア派な女子二人から同時に否定され、月菜が間の抜けた声を上げた。
「まぁ、全没入型VRの問題点でもあるね」
氷月が、少し眉根を寄せて語る。
「体調不良時に警告が鳴るといっても、無視しようと思えばできてしまう。事実、
「そういえば、
何かに思い当たった明が、首を傾げる。
「東雲くんは、
「知らない、だろうな」
その疑問には、黎が答えた。奥歯にものが挟まっているような物言いだった。
「先輩?」
「あいつは、色んな意味で変わってて―――」
その言葉が終わらないうちに、五人が辿り着いた校舎三階の教室から「~~ソワカ!」という例の意味不明な呪文が轟き、直後、女子のものと思わしき悲鳴が上がって、会話は中断された。
「確かに、変わってますね」
明の氷点下のような冷淡な口調に、流石の黎も「ははは」と、渇いた笑い声を出すのみであった。
※※
「え? みんな来ちゃったの!?」
香美奈の素っ頓狂な声が教室に響き、五人の女子生徒がバツの悪そうな顔で笑う。
どうやら、コッソリ忍び込み、晃陽と鉢合わせしたらしい。
「なんだかんだで、みんな気になってるんだね」
氷月が面白そうに言う。
「まぁ、黎と氷月先生が目的らしいがな」
「ちょ、東雲くん、それは言わないで」
「別に約束はしていないし、良いじゃないか。俺はその理由は好きだと言っただろう」
「恥ずかしいじゃない」
「心のままに生きて、恥ずかしがるようなことは何もない」
「そうだね東雲くん。今もそうやって小暮先輩に腕関節を決められながら床に這いつくばっているあなたよりは恥ずかしくはないよね」
「まったく、この馬鹿は行く先々で変なことばっかりしやがって」
明の冷静な罵倒と、黎の実力行使込みの
聞くと、彼女たちは当時の配膳当番だったらしい。
せっかくなので、当時の状況を改めて訊くことにする。
南校舎一階の配膳室から、まずは二階の校長室に向かったのだという。
「なんで東雲くんの一食分だけじゃなくて、わざわざ全部持って行ったの?」と、明が訊く。
「一年生の教室は北校舎の三階だから。南校舎を上って、渡り廊下を通って行っても手間は一緒なんだ」
校長室で晃陽用の給食を用意して、そのまま三階まで上がり、自分たちの教室に向かった。
「その間になくなった、と」
「そう考えるのが妥当だろうね」
氷月が、明の推理に同意する。
「おかずがないって、気付かなかったの?」
明の質問に五人がそれぞれ答える。
「なかったね」
「ね」
「階段を上ったら、あとは全部、台車に載せて運べるし」
「いつもより軽いなとは思った」
「そう? 気付かなかったなぁ」
明は、彼女らのCTを取り出してメモして、さらにもう一つ訊く。
「じゃあ、東雲くんの様子はどうだった?」
すると、五人が一様に首を傾げる。
「え? 東雲くん?」
「どうだったもなにも」
「いなかったよね」
「ね」
「うん」
明が、眠そうにしていた目を見開く。
「え? どういうこと」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます