勇者ロボの戦利品

 完備品の車両型リュイン2台、大破したリュイン6台、人間大の古式バルレー25体、大破した大型バルレー5体、魔動筺6個、魔動核32個、魔動式武装四十数点、小~中型魔獣の魔石と素材多数、そして、魔人の所持品とフォートスパイダー。

他にも細々した収穫はあったが、森と廃墟を探索した成果がこれだった。


「余程の下手を打たない限り、ユニオン二つくらいを一流に押し上げられる装備ですね……」


 というのは、最初に倉庫に積み上がった成果を見上げたアデルの台詞である。


 結局、俺しか読めなかった魔人の手記によれば、彼は数百年前に魔人達がダンジョンの向こうに撤退したとき、取り残された魔人達の残党だったらしく、新しく侵攻が始まりつつあるわけではなかったようだ。


 彼は魔人種の再侵攻に備え、百年前の[真・バルレー]とでも呼ぶべき人類側の兵器に対抗するため、魔獣の兵器化を研究していたらしい。

操作法が一緒なら、素体の強さで[真・バルレー]を圧倒できると考えたのだろう。


 あの森の中には、彼のように取り残された魔人が他にもいることは判っているが、出会ったことがないというようなことが手記に綴られていた。


 手記に基づいてフォートスパイダーを調べてみると、魔獣というのは実に魔法的な存在で、身体機能の何割かを魔力によって補っており、生物的な部位をある程度失うことになっても魔力が供給される限り生命を維持できるのだそうだ。


 そこで、頭脳や運動機能の一部を魔石や魔動装置に置き換え、体内に空いたスペースに魔動兵器を内臓すれば魔獣兵器フォートスパイダーの完成というわけだ。

魔人が被っていた仮面は、思念操作式のコントローラーだったが、流石に仮面のままでは使い辛いので、腕輪かサークレットの形にできないかと考えている。


 このフォートスパイダーには、リュインやバルレーに使われている技術が多く使われており、あの魔人はそれらの技術をフォートスパイダーに使うため、詳細に調べていて、俺が車両やバルレーを調べる手間を大分省いてくれた。


 ただ、俺自身がフォートスパイダーを駆って戦うことには、ガイ達全員から反対されたので、良い操手が見つかるまでは、研究材料の域を出ることはなさそうだ。


「ヨータの兄貴ぃ、こんな事までしてもらっちまって、ホントに良いんですかい?」


 すっかり恐縮しながら、ガレージに鎮座する新造リュイン、もとい新造ヴィークルを見上げているのは、[強獣]改め[ブルート]のリーダー、ジルドと操手担当のアーダの二人だ。


「勘違いするな、このヴィークルは試作機だ。性能はもちろんだが、扱ってみての不都合や危険性を確かめるため、危ない仕事を頼むんだ。大事に乗らなくて良い。むしろガシガシ酷使してこいつの性格を暴き出してくれ」


 リュインという言葉は、遺跡から出土した魔動具全般を指し、中でも車両型が多く人目に触れることから、車両型遺産をリュインと呼んでいるに過ぎない。

ならば出土品ではない新しい車両には新しい名前が必要だろうと、ヴィークルと名付けてみた。

このヴィークルという言葉は、地球人にとっては乗り物という英語だが、この世界の人々にとっては翻訳されないヴィークルという未知の単語に聞こえるし、新しい単語としては丁度良いと思っている。


 今、俺とジルド達が見上げているヴィークルは、大破したリュインのフレームなどを流用して建造した、サナダマル産戦闘車両の試作一号機なのだ。


 前述の通り、回収したリュインやフォートスパイダーなどは実用品としての価値もさることながら、技術情報としての価値が高かった。

回収した車体を解体し、魔動筺や魔動核を解析し、魔獣の死体を解剖することで、遺跡文明時代や人間種最盛期に使われていてリュインやバルレーの仕組みを解明し、素材と用途の制限はあるものの、魔動具を新作することすら可能になった。


 それらの技術の実用実験機として造り上げたのが、この試作第一号ヴィークル[ゴライアス]だ。

六人乗りの八輪式装甲車で、改良した魔動筺回路と魔力供給システムにより、巡航速度30km/h、最高速度60km/hを実現し、旋回式砲塔に主砲の[火球投射]魔動砲、副砲に[衝撃]の小型魔動砲、白兵装備として車体側面に[シャークファングソー](鮫の牙で作ったチェーンソー)を備え、鋼の装甲の上にブラストシャークの鱗を加工した装甲を増設している。


 既にジルド達は何度もこの新型を試乗して機能を体験しており、今回は正式に[ブルート]に配備となったので、尚更恐縮していた。


 ついでに[ガロテ]運搬用の追加装備として、八輪式のキャリアユニットを連結できるようにしておいたんだが、その[ガロテ]も魔動術を研究した結果、魔動核が本来備えていた機能を見つけ出したことで動作を飛躍的に改善できた。


 というのも、俺自身が魔動術を修得できたことで、魔動核に直接アクセスできるようになり、様々なことを試せたのが大きい。

そして[ゴライアス]同様、鮫鱗製のスケイルアーマーと、携行式の[衝撃]小型魔動砲を装備したことで戦闘力も向上しているはずだ。


 従来のバルレーが射撃や複雑な動作ができないのは、その行動をかなり細かく魔動士が指示してやらなくてはならなかったからだ。

そして、視野を共有していない魔動士とバルレーでは照準を付けられないので、射撃どころか投擲すらできなかった。


 しかし魔動核には本来、対象の認識や簡単な判断、細かい動作パターンの記録などを保存する機能が備わっていた。

つまり、予め動作や情報を魔動核に記録しておくことで、魔動士の命令に従って複雑な行動をすることができるはずなのだ。


 その機能試験を兼ねて、ボーナに[ガロテ]の動作設定を細かくさせ、戦闘訓練を繰り返しやってもらった結果、[ガロテ]は走りながら携行した小型魔動砲で10m離れた的を撃ち抜ける程、精密な動作が可能になった。

バランサーが正常に働くようになったので、ナックルウォーク形態から直立歩行形態に矯正され、足のダンパーを駆使して跳ねるように走ることもできる。


「私の[ガロテ]がまるで別な子になったみたい!」


 魔動術を俺に教え、俺から魔動核の新しい可能性を学んだボーナは、興奮して[ガロテ]にあらゆる動作を教え込んだ。


 当然、[青玉の剣]にも研究成果は反映していて、[ボルトン]は魔動筺と駆動系の接続回路の改良で[ゴライアス]並の走行性能を手に入れているし、主砲の[衝撃]魔動砲も固定式から旋回砲塔に変更、同系統ではあるが、副砲に[衝撃]の小型魔動砲を二連装で増設し、装甲も、ブラストシャークの鱗製の増設装甲を装備した。


 両パーティー共、鮫鱗で補強した防具を身に着け、魔動式の武具を手にしている。

これらの装備と車両の運用試験で、彼らは五体のロックバブーンを相手に勇戦し、三体を狩るだけの成果を出して見せた。


 ちなみに、[衝撃]の小型魔動砲はインパクトウルフの頭部に備わっていた器官を加工して造ってる。


 これだけの成果を上げるのに、廃墟の探索から一ヶ月の時間が必要で、その間、俺自身はそこそこ悠々自適に研究生活を送っていたが、周囲は激動の中にあった。


 まずロビンスの冒険者ギルドだが、主力冒険者達は生還したものの、体調の問題や失われた武装の再調達が難しいことから戦力の低下が著しく、ギルド長は責任をとる形で副ギルド長の座に退いた。


 この件をきっかけに、冒険者ギルド内での現場主義派は大きく力を落とし、ロビンスの新しいギルド長も、王都から事務職派の幹部が子飼いのユニオンを引き連れて派遣されてくる。

これにはヴェリオの意向も大きく関わっており、今後は領主とギルドの連携も上手く機能してくれることが期待された。


 一方で、この交代劇の引き金となった俺に対し、旧ギルド長ディルクに可愛がられていたリカードら[鉄甲団]の主力メンバーは批判的な発言をするようになった。

魔人を倒したなんてのは嘘、廃墟に辿り着けたのは[鉄甲団]の作った道を通ったからで、その功績を掠め取ったのだと言い出したのだ。


 ガイアース達[勇者戦隊]の活躍を知る避難所で救出された冒険者達はリカードらの発言を非難し、恩知らずであると嘲笑ったので両者の溝は深くなり、仲裁すべきディルクは、責任を理由に口を閉ざし続けた。


 この煽りを受け、ロビンス冒険者ギルドの冒険者や職員達は派閥争いの緊張状態に陥り、これを嫌ったリーゼロッテ女史がギルドを辞めて数人の後輩を連れてサナダマルへの移住を希望してきた、ギルド支部設立の申請付きで。


「依頼の報酬についても曖昧なままだったのにこんな騒ぎを起こすなんて、同じギルドに所属する人間として恥ずかしい限りです。私達は、貴方が冒険者ギルドにしてくれたことを忘れません。今後は、こちらにギルドの支部を置かせてください」


 そう言って[ゴライアス]の荷車から降りてくるリーゼロッテ女史の表情には、俺に対する申し訳なさはあるが、ロビンス冒険者ギルドへの未練は感じられなかったので、この頃には拡充が完了していた公共区と居住区に庁舎と住居を提供した。


 とはいえ、一連の処置が効果を発揮するまで時間が必要だ。

ヴェリオはこの時間を稼ぐため、非公式ながら俺に協力を要請してきた。


 要請を受けた俺は、アデルと相談して三段階の対応を考えた。

第一段階は、ディフェンダーズに頼んでこっそりとロビンスを防衛する。

第二段階として、正式にサナダマル所属の冒険者になった[青玉の剣]と[ブルート]を派遣する。

ギルドに残っている冒険達の戦力は低下してはいるが、彼らと協力すれば一時的に街の防衛力や生産力を維持できるだけの戦力になるだろう。

第三段階は、そうして稼いだ時間を使い、[青玉の剣]や[ブルート]の装備で培った技術で領軍の装備を強化し、騎士達の戦力を増強することだ。


 俺が他の街や地域を知らないからつい誤解しがちだが、レイクス辺境伯領もロビンスの街も、王国内のどの領地と較べても危険な領地だ。

しかし、政治的、技術的な問題から危険度に見合った戦力を持てず、常に綱渡りの状況を強いられてきた。

今回、俺が用意した対応策はこの状況を緩和することで、領軍や冒険者ギルドが戦力的に伸張する機会を提供することができるのではないかと考えている。


 次に、我がサナダマルの状況だが、ビルダーズの奮闘により領土の全てを森の樹で作った防壁と幅、深さ共に20mの空堀で囲ったうえ、内部の建物を次々と増築しており、人がいれば小さな町として機能する程度に建物が充実してきた。

その他に、本丸周囲に技術研究用のガレージや、回収した資材を保管するための倉庫街、冒険者ギルド用の建物なども用意できており、移住してきたリーゼロッテ女史達により稼動準備が進められている。

倉庫に積み上げられた魔獣素材を見て、リーゼロッテ女史達は言葉を失っていた。


 最後は紅狐のマウラだが、一度サナダマルまで連れてきたらそのまま居着くことにしたようで、当たり前の顔をして敷地内を自由に歩き回っている。

ただ、汚れっぱなしのままにはできなかったので、アデルに頼んでハヤテのバスルームで徹底的に洗ってもらった結果、ルビーレッドに輝く毛皮の美狐になった。


 一応、マウラの部屋も本丸内に用意したのだが、どういうわけかランダーの俺の寝室に潜り込み、俺やアデルが何度部屋に戻しても、しれっとベッドに戻って来るので、諦めてランダーに入るときはガイに足を拭いてもらうことだけ守らせている。


 こうして本拠地も最低限機能するようになり、十分にこの世界での足場も固まったと判断した俺は、ずっと先送りしていたことを実行に移すことにした。


 そう、うちの冒険者達の派遣に合せて、俺自身もロビンスに足を踏み入れるのだ。

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