勇者ロボ、重機合体!!

 縦穴を昇っていたところを、腹の下から飛び出してきた形のテツに突き飛ばされ、仰向けのまま穴の底に落ちていく蜘蛛型魔獣、そして足場の無い空中に飛び出してきたビルダーズの三人も、その蜘蛛を追うように穴の底へ落ちていく。

穴の底からの震動が俺達の足元を揺らし、金属同士がぶつかり合う音や、ビルダーズの咆哮が、地底で戦いが始まったことを報せる。


「今のは一体何だ? 蛮族は何をしたというのだ?」


 切り札の蜘蛛が穴の底に落ちていったというのに、それを見て呟く魔人は未だ冷静な態度を崩すこともなく、素早く何かの印を切ると、穴の底に向かって高速で飛び去ってしまった。


 てっきり、この類いの研究者系ってのは、自信満々で自分の研究以外のことはどうなっていても知ったこっちゃないタイプで、判で押したように自分の成果を自慢して興奮するキ印が相場だと思っていたが、そりゃ人間の想像の範疇での話だったか。


「今のうちに、捕まっている皆さんを助け出しましょう。あの繭を落としますから、誰か受け止めて下さい」


 ガイオのロープを伝って、エリノア達が穴を脱出したのを確認し、アデルが槍を天井からぶら下がった繭に向けながら声を掛ける。

熟練の冒険者達は、すぐその言葉に反応し、繭の下で準備を始めた。


「そっちは任せても良いか?」


「はい、任せて下さい。ヨータ様も、お気を付けて。マウラさんをお願いします」


 穴の縁に立ってアデルに問うと、これの意図を察した彼女は颯爽と笑って頷いた。

言われて下を見れば、俺の足元で紅い狐が穴の底を見通すように睨付けている。


「よし、とにかく決着をつけてくるか」


 やけに好戦的なマウラの背を軽く叩き、俺はエリノア達が上がってきた斜面を駆け下りて、穴の底に向かった。


 縦穴の底は、かなりの広さの地下洞窟になっていた。

何処か他にも入口があるのか、蜘蛛の巣に捕らえられた小~中型の魔獣や、すでに餌食になったと思われる魔獣の骨などが散らばっている。

そんな堆積物を蹴散らしながら、ビルダーズが大蜘蛛相手に奮戦していた。


『グラップルクロー!!』


 前足の爪一本を両腕で押え、更に突きたてられようとする別の爪を、背中から伸びたショベルアームの先の圧断爪で挟んで締め上げるタツことショベルビルダー。


『クラッシュハンマー!!』


 クレーンの先端を粉砕用の鉄球に換え、大蜘蛛の背に叩きつけるテツことクレーンビルダー。


『ブレードシールド!!』


ブルドーザーのブレード型シールドで大蜘蛛の頭を押え付け、動きを止めるリキことホイールビルダー。

息のあった連携で大蜘蛛を制圧しつつあったのだが、仮面の魔人が蜘蛛の背後に飛来し仮面の隈取りが赤く輝くと、大蜘蛛は足を広げて回転し、三人を弾き飛ばしながら後ろに飛び退くことで戦況を仕切り直してしまった。


「ふむ、蛮族達はここまで自在に動く魔人形を完成させていたか。私の技術が完成していなければ、危ないところだった。だが、切り札の威力分だけ私が上回ったな、蛮族の術士よ」


 仮面の魔人が、洞窟に降りてきたばかりの俺を見て言う。

言葉が通じているとは思っていないようだが、それでも彼の中では魔人側の新技術、おそらくは魔獣を改造し、あの仮面を通して意のままに操る彼の技術と、人間側の新技術だと思っているビルダーズを操る俺の新技術による戦いを、技術力の差によって自分が制すると宣言したかったのだろう。


「その魔獣は、お前の思った通りに動くというのか?」


「ほう、蛮族が私の言葉を理解するというのか。その武器といい魔人形といい、かつて我らが同胞を本国まで追い返した、勇者のようではないか。貴様が言う通り、このフォートスパイダーは貴様らが使う魔人形の如く、私の意に従うのだ。個体としては貴様が私を上回っているのだろうが、技術力は私の勝ちだ」


 未だ散発的にマウラが放つ火球を、自慢の[障壁]で防ぎながら気にも留めず、仮面の魔人が淡々と語る。

その間に左肩が淡い光に包まれ、流れ出ていた青い血が止まり、肩口に肉が盛り上がって傷口を塞いだ。


「この勝利と引き替えならば、腕の一本は高い代償ではないな」


 塞がった傷口を撫でる魔人の、終始冷静だった声に初めて愉快気な響きが混じった。


「いや、個体としての能力も、技術力もあんたの方が上さ。だが、生きて帰るのは、

多分…… 俺達だ」


 言いながら、俺がGコマンダーを取り出す間に、弾き飛ばされていたビルダーズが立ち上がり、再び大蜘蛛、フォートスパイダーの前に立ち塞がる。


「無駄だ。その魔人形も良くできてはいるが、フォートスパイダーほどではない」


 この魔人の、最後まで冷静で淡々とした語り口調が、俺は嫌いでは無かった。

だからって彼の誤解を説明してやる義理もない、答え合わせは戦いの決着を以て教えてやるとしよう。


「いくぞ、ビルダーズ……」


『『『「重機合体!!」』』』


 Gコマンダーを掲げた俺と、ビルダーズのかけ声が重なった瞬間、Gコマンダーが眩い輝きを放ち、周囲とビルダーズの黄色いボディを黄金色に染め上げた。


 その光の中、トラッククレーン形態に戻ったクレーンビルダーから、クレーン部が外れ、残った荷台部分の後ろ三分の一が折畳まれてから起き上がり、中心から分れた後、運転席が回転して爪先が出現し巨大な脚部に変形する。


 同時に、ホイールビルダーがブルドーザー形態に戻り、クレーンビルダー同様、中心から二つに分れ、運転席が上腕部、車輪の付いた荷台部分が前腕部へと変形し、ドーザーが左肩へとスライドして盾となる。


 一方、ショベルビルダーは、車体が起き上がると車体下面から胴体が現れ、架台部分が腰となり履帯がその左右にスライドする。そして、運転席が左肩、ショベルアーム支持部が右肩に変形しながら宙に浮かび、その肩にホイールビルダー、腰にクレーンビルダー、最後にクレーン部が背中に合体すると、胴体から角張ったデザインの頭部がせり上がる。


『重機合体、ビルド・レーックス!!』


 手首から拳が飛び出し、右肩の外に張出したショベルアームが折畳まれ、背中からクレーンアームが左肩越しに前に倒れ、名乗りを上げながら見得を切れば、全高25m、[勇者戦隊]きってのパワーファイター、ビルドレックスの完成である。


「なん……だと……」 


「くぉん……?」


 さすがにビルダーズの変形合体までは、魔人にとっても予想外だったらしい、ついでに言えば、狐のマウラにとっても。


「ビルドレックス、そいつは魔人側の新型兵器だそうだ。破壊するんじゃなく、鹵獲して調べてみたい。できるか?」


 アニメやゲームなんかで、新技術とか新兵器とか手に入れられそうな場面で、特に理由も無くそれを壊したり見過ごしたりするのをよく見る。

あれは、主人公側が有利になりすぎては面白くないって大人の事情があるんだろうが、俺はそんなことに気を使う必要はないし、手に入れられそうな物は貪欲に狙っていくつもりなんだ。


『ガッテンだ! 朝飯前よ!』

 

「いや、鹵獲して調査させてもらうのはこちらの方だ。フォートスパイダー、バインドウェブであの魔人形を拘束しろ」


 魔人の仮面に描かれている隈取りに、魔人の意志が反応して光が走る。

フォートスパイダーは、尻の吐糸管をホース状に伸ばしてビルドレックスに向けると、蜘蛛糸を射出した。


『アームチェーンソー!!』


 ビルドレックスの右肩に畳まれているショベルアームが伸びると、その先端が巨大なチェーンソーに変わり、向かって来る蜘蛛糸をバラバラに切り散らしてしまう。


「ほう、動力車の兵装まで装備しているのか。スパイダー、もう一度だ」


 魔人の指示通り、もう一度、蜘蛛糸を吐こうとフォートスパイダーが構え直すが、その隙を逃がさず、ビルドレックスはロケットスタートで走り出した。


『ドーザータックル!!』


 そして、左肩にマウントされているドーザーブレードを前面に押し出し、アメフトのように肩から体当たりを喰らわせ、敵の頭をかち上げてひっくり返す。


『パワー・コーキングガン!!』


 ひっくり返った大蜘蛛が起き上がる暇を与えず、左肩越しに伸びたクレーンアームが、コンクリートポンプアームに変わり、そこから泥状の硬化物質を浴びせていくビルドレックス。


 まずは硬化物質を浴びた足の付け根が固定され、そこから徐々に身動きがとれなくなっていくフォートスパイダーに、さらに硬化物質が降り注ぎ、ついには完全に固まった硬化物質の山に覆われて活動を停止した。


「完敗か…… いや、より強力な獣を使えば……」


 冷静であってもフォートスパイダーに揺るがぬ自信があったのだろう。

淡々とした口調ながら、魔人の意識は完全にフォートスパイダーとビルドレックスに集中し、他のことが一切意識から外れているようだった。


 そう、俺が彼の[障壁]を貫く攻撃手段を持っていることも。


「が……っ!? こふっ……」


 胸と腹に穴が開いた魔人の仮面から青い血が溢れ出るが、それでも宙に浮いたその身体は、落下せずその場に留まっていた。


「あの飛行魔法が優秀なのか、魔人が死んでいないのか…… ビルドレックス、俺をその魔人の近くに運んでくれ」


『親方ぁ、この死体をそっちに置いた方が早かねぇですかい?』


 そう言ったビルドレックスは、右肩のショベルアームをクランプハンドラ(巨大なピンセットみたいなもの)に変え、魔人の体を摘んで俺の前に下ろしてくれた。


 それでも地面からは僅かに浮いたままの死体から仮面を剥がしてみると、驚愕に目を見開いた表情のまま固まっている。


 アデル達も怯えるほどの魔人、自信に満ち、不動の冷静さを保ち続けることで大物感すら感じさせ、現にこの男の技術が実用化すれば、諸人族の領域は危なかった。


「だから、あと二回くらい、復活か変身が残っていると思ったんだがなぁ……」


 言いたい放題、したい放題やらかして姿を消す因縁の敵とか、あと一歩でこちらの追手をすり抜け、味方を危機に陥れる敵の秘密兵器とか、そういう面倒なのは要らないから、余計なことをする前に片付けたかったんだが、考えていたほどの手間も掛からずあっさり倒せてしまった。


 身ぐるみも剥いで持ち物を漁ると、腰に[収納拡張]の効果が付いたバッグを着けていて、中に魔宝具(或いは、魔人種が使う別系統の道具)と思われるアイテムや手記のようなものが入っていた他、腕にも何か価値がありそうな腕輪が嵌めてあった。

 

 どんな恨みがあったのか、マウラが所持品を回収した後の魔人に、一際大きな火球を叩き込み、結果として荼毘に付すことになる。

初めて人間に類する相手を殺したことになるのだが、意外に動揺はしていない。

まあ、明確に敵と分かる相手を叩き潰す経験は、小学五年生で経験済みなんだが、こうして意識してしまうと、何かが欠けているような寂しさを感じる。


「くぅん……」


 燃える魔人を眺めて溜息をついた俺に、マウラが気遣うような声で鳴きながら、その身を擦りつけてくるので、気分転換にその背を撫でさせてもらった。

毛皮のある動物を撫でていると、気持ちが慰められるってのは本当のことなんだな。


「さて、ビルダーズが地下ルートを作ってくれたことだし、捕まってた冒険者を回収して森の外へ出るか……」


『親方ぁ、お疲れさんっす』


 そう言って頭を軽く下げたビルドレックスが再び黄金の光に包まれると、元の姿である三機の建機形態に分離する。

トラッククレーン形態であるテツの運転席が一番広いので、テツに乗って縦穴を登った俺達は、繭に囚われていた冒険者達の回収作業を続けていたアデル達と合流した。


「何とか時間を稼いでくれるとは思っていましたが、まさか倒してしまうとは……」


「魔人殺し…… もう数十年も現れていない快挙だが……」


 魔人の最後を聞いたアデルやエリノア達は、言葉に困って半笑いで俺の顔を見るが、異世界に来て十日そこそこで遭遇した俺には、彼女らの恐怖が分からない。


 しかし、お互い無事だったし、意識こそ戻っていないが探している相手も発見できたということで、脱出を優先することにした。

ホイールビルダーのラージバケットとクレーンビルダーの荷台に分乗し、地下道を駆け抜けて廃墟の外へ出た俺達は、予めビルダーズが廃墟の外の木々を伐り拓いて作っておいた広場で、バージルことヘリディフェンダーに[鉄甲団]を預け、森の外への帰路についた。


 それから五日、一度に三十人は運べるバージルの活躍で、この件に関わった冒険者の生き残りは、全員がリーゼロッテ女史と共にロビンスの街に戻った。

結局、[鉄甲団]の足りなかったメンバーは、廃墟の街に逃げ込むまでに囮や足止めになって死んだらしい。


 謎の装置と一緒に大破していた車両は、やはりマウラ率いる[篝火]の車両で、中から人間の女性冒険者一人の死体が発見された。

[篝火]は獣人種四人と人間一人のパーティーだったそうなので、残りのメンバーは未だに獣の姿であの森を彷徨っているのだろうか。


 謎の装置は、用途こそ分からないが瘴気を放出するものだというのは分かったので、今回の冒険で見つけた戦利品と共に回収し、隔離倉庫を作って封印した。


 かくして、俺の異世界最初の冒険は、大げさな成果と共に幕を下ろしたのである。


 

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