勇者ロボ救助隊、緊急出動!

 冒険者ギルドの様子を盗み見てから三日後、[強獣]と[青玉の剣]が再びサナダマルを訪ねて来た。

[強獣]のジルド達は、そのまま居着くつもりか、帰ってきたなんて言っている。


 そして、俺達の読み通り、[青玉の剣]がリーゼロッテ女史を連れてきていた。

狙い通りのことなので、今回はアデルを代理に立てたりせず、直接会うことにする。

実のところ、冒険者ギルドとのやり取りに構え過ぎて、この件が片付くまで自分でもロビンスの街に入り辛い状況を作ってしまったという反省もある。


 そんなわけで、早々に本丸の応接室で面会となった。


「ロビンス冒険者ギルドのリーゼロッテです。こうしてお会いするのは初めてですね。先日は、そちらの事情が分からず、大変な失礼をいたしました」


 リーゼロッテ女史にソファを勧めたのだが、座る前に姿勢を正し、深々と頭を下げられた。

改めて正面から見ると、ブルネットの引っ詰め髪といい、アイスブルーの瞳といい、是非メガネを掛けて欲しいタイプの知性派美女だ。

前線生活の垢と疲れが滲んでいるのがとても残念で、椅子より風呂を勧めたい。


「それについては、お互いなかったことにしよう。こちらの方でも、最前線の冒険者ギルドが抱える苦労について、配慮する余裕がなかった。あの日は、この地に辿り着いたばかりで、右も左も分からなかったんだ」


「そう言っていただけると助かります。この地に辿り着いたばかり、というと、どちらからいらしたのですか?」


「何処から来たかは言えないんだ。ただ、とても遠いところだと思ってくれ。だからこの地の歴史も習俗もほとんど分からない。ヴェリオが手配してくれたアデルだけが頼りでね、彼女も、それを慮って俺の利益を最優先してくれている」


 言いながら、後ろに控えるアデルに視線を向けると、控えめに目を伏せて会釈をし、それからお茶の支度を始めた。


「そうでしたか。冒険者ギルドがお力になれる機会があれば良かったのですが……」


 アデルとは顔見知りらしいリーゼロッテ女史は、アデルと、彼女が扱っているティーセットを見比べ、本当に残念そうに溜息をついた。


「幸い、ヴェリオとアデルには良くしてもらっているから、気にしないでくれ。それで、俺を探していたそうだけど、どういった用件かな? 急ぎの用ならここで聞くと、[青玉の剣]には伝言を頼んだけど、実際にここまで足を運んでもらう理由に、心当たりがないんだ」


 ソファの背もたれに背を預けながら、軽く両手を広げてざっくばらんな態度で、リーゼロッテ女史の思惑が分からない風に振舞う。


 リーゼロッテ女史は、一度口を開きかけてから右手で口を覆い、しばし考え込んでもう一度口を開いた。


「単刀直入にお願いします。我々、冒険者ギルドに協力して欲しいのです。と申しますのも、現在、ロビンスの冒険者ギルドは、とても難しい状況にあるのです」


 そう言って、真正面から俺の目を見据えたが、その視線は徐々に下がっていく。


「一月前、ある冒険者ユニオンが森で行方不明になりました。ギルドの精鋭です。ギルド長は、ギルドの総力を挙げて彼らを捜索することを指示しました。しかし、そのためにギルドが保有する魔石を全て放出することになり、御領主様と約束した魔石をお渡しすることができませんでした」


 そうして冒険者が出払い、軍備も動かせず、丸裸になったロビンスにロックバブーンの群が襲いかかった。

何が最善であったかは分からないが、結果としてロビンスの冒険者ギルドは、資源が払底し、領主の信用も失った。


 それでも、俺が現れなければ亀裂を残しながらも、ギルドと領主の協力関係は続いただろうが、ヴェリオの動きは素早く、独自で魔石を確保して自前の軍備を稼動状態に持ち込んでしまった。


「ふむ…… 冒険者ギルドの現状は、ある程度分かったと思う。それで、具体的には俺に何をさせたいんだ? そして、協力した場合は俺にどんな利点が?」


「お願いしたいことは三つございます。一つ目は、御領主様とギルドの仲を取り持ってはいただきたいのです。二つ目は、御領主様の手に余った分で構いません、我々ギルドにも魔獣素材を売ってください。三つ目は、厚かましいお願いなのは承知しておりますが、連絡を絶ったユニオンの捜索に手を貸してくださいませんか? どれか一つでも聞いていただければ、高位の冒険者として対応させていただきます」


 現状、冒険者ギルドが抱える問題の全てに手を貸せと言っていないか?

それに、その報酬が冒険者としての立場って、それを受けたら俺は冒険者になってしまう罠のような気がするんだが……


「横から失礼します。ヨータ様は冒険者になるつもりがないそうです。高位の冒険者として扱われても何の得にもならないどころか、迷惑にすらなりかねませんが?」


 俺が指摘しようとしたことを、後ろに控えていたアデルが先に言ってしまった。


「いえ! 冒険者になってもらうのではなく、ただ、高位冒険者が持つ権利をヨータ氏にも適用するという意味で申し上げました」


 アデルに小声で聞いてみると、高位冒険者特権って窓口の優先利用、素材の買い取り価格優遇、魔石等の優先購入枠、高位向け宿舎、魔獣情報の優遇などの他に、少々問題を起こしてもギルドマスターの権限でもみ消してもらえるというもので、正直なところあまり魅力を感じない。


「いや、ちょっと待て。森で行方不明のユニオンって、ギルドとしてはどれくらいの重要度なんだ? まだ生きている見込みがあるのか?」


 もし生きている可能性があるなら、それが最優先事項だろう。


「高性能リュイン三台と発掘型を含むバルレー四体を擁した、30名構成のユニオンです。隊長は熟練の冒険者なので、生き残りが居る可能性も十分に考えられます。それと、捜索に出た冒険者達が森の近くに作った避難所で籠城していて……」


 それは、[強獣]や[青玉の剣]を俺の捜索に回している場合じゃないし、回したとしても事情を先に話しておくべきことじゃないか。


「そんな一刻を争うときに、ヨータ様を探して人手を割いていたのですか!?」


「もう、こんな不確定な話くらいしか、縋れるところがないんです!」


 アデルの驚きと呆れを含んだ声をきっかけに、リーゼロッテ女史が叫ぶ。

順番としては、ユニオンの連絡途絶、ユニオン捜索依頼、俺が出現、俺の捜索依頼、[青玉の剣]が俺の手紙を届ける、避難所からの救援要請、リーゼロッテ女史サナダマル訪問という時系列だったらしい。


「普通は、そういう話から先にするもんだろ。スコット、バージル! 先行して避難所の安全を確保してくれ」


『スコット、バージル了解です、森の避難所と思われる地点へ向かいます』


「バルキリーズ、ビルダーズ、ゴードン、出動だ。ライナーズはここの守りに残ってくれ。ガイ、俺達も出るぞ!」


『『『『了解!』』』』


「さあ、リズ。私達も行きますよ」


 立ち上がった俺に続き、アデルもリーゼロッテ女史の手を取って立たせる。


 俺達が外に出ると、ビークルモードのガイが玄関前に車体を横着けして扉を開き、アデルはリーゼロッテ女史を連れて後部座席に乗り込む。


 俺が運転席側に回ろうとすると、まだ自分達の宿舎に移動していなかったエリノアやジルド達が、俺の姿を見つけて集まって来る。

両パーティーで集まっていたのは、リーゼロッテ女史を乗せて来たエリノア達が、ジルド達に避難所の話をしていたからのようだ。


「もしや、もう救援に向かうというのか? ならば我々も同行させて欲しい」


「おお、それだったら俺達も行くぜ。野郎ども、支度しやがれ!」


 リーダー達がそう言うと、俺が返事をする前に、それぞれの車両に散った冒険者達は、物資や装備の確認を始めてしまうが、最高時速30kmの車両に足並みを合わせていたのでは、時間がかかり過ぎてしまう。


『ヨウタ、シールドキャリアーを出そう』


 ガイがそう言うと、どこからともなくキャリアトレーラーの荷台部分が走ってきて、ガイの後部に連結された。

シールドキャリアーは、グラン・ガイアースの追加パーツとして、二枚の可動盾に変形するトレーラーで、装甲車の二台くらいなら格納して運搬できる。

今後、この世界の車両と行動を共にするときは重宝しそうなメカだ。


 キャリアーの後部ハッチを開き、エリノア達に車両を載せるように言うと、誘導をしながら順番に車両が入ってくる様子が、運転席のモニタに映し出される。

後部座席用のモニタにも同様の映像が出ていて、混乱するリーゼロッテ女史を、アデルが宥めつつ、数日掛けて貯め込んだガイアース達に関する知識を披露していた。


 こうして、この異世界では最初の、勇者戦隊による救助出動が始まった。


 移動中、先行したスコット達から、冒険者ギルドが作った避難所の映像が送られて来たが、丸太を積んだ防壁越しに、ワニに似た中型魔獣の群に囲まれていた。

元がワニだからか、防壁を囲んだ魔獣達は急ぐ様子もなく、ただじっと防壁から誰かが出るのを待っている。

中の冒険者が焦れて飛び出してきたときに襲いかかるつもりらしいが、それが逆に幸いして、大きな被害も出さずに済んでいるようだ。


 防壁の中に被害を出さないように言うと、スコットはロボット形態に変形、アサルトライフル型のビームガンで防壁に寄っていた魔獣を蹴散らし、バージルは防壁上空に滞空し、機首から伸びたビームガトリングで、隙を窺っていた魔獣を一掃する。


 僅か数分で、避難所の安全を確保した二人は、そのままロボット形態で避難所の歩哨についた。


「い、今のは……? 魔動砲? 魔動砲なのですか? あんな連射ができる魔動砲を備えたバルレーが空を飛んで……」


 主にバージルが送ってきた映像なので、スコットが戦闘機形態からロボット形態に変形する様や、防壁に寄っていた魔獣を蹴転がした後、ビームライフルで撃ち殺す映像を食い入るように見つめていたリーゼロッテ女史が、混乱してうわごとのように呟いている。


「ご覧の通り、ヨータ様の持つ戦力は影響力が強すぎます。故に、独立勢力として御領主様や冒険者ギルドとは、緩やかな協力関係を望んでいるのですよ」


 混乱するリーゼロッテ女史を諭すように、アデルが落ち着いた声で話している。


「ところで、その行方が分からなくなったユニオンの目的は何だったんだ?」


 話を聞いてきた限りでは、人類から魔人種に反撃できる戦力は貯まっていない、というかこの調子だと世紀単位で貯まらないんじゃないかと思う。

だというのに、わざわざ精鋭戦力を投入してまで、森に踏み込む必要性は何か。


「神殿から魔獣素材の大口調達依頼があったのです。元々、森の浅い部分での狩りはそれなりに行われていましたが、依頼達成に必要な素材がもう少し奥の方で見たという情報があって……」


 精鋭の戦力で、森の奥を調査しようと思ったわけか。

事情を説明させたのは正解だったようだ、女史はなんとか落ち着きを取り戻した。


「そのユニオンが行方不明になり、それに続くように森からロックバブーンの群が現れて暴走が始まりました。ですから、ユニオンが何らかの理由で魔獣を刺激してしまったのではないか、という見方が有力になっています」


 リーゼロッテ女史の言葉を引き継いだアデルが、その後について説明を続ける。

まだロックバブーンの暴走が冒険者のせいと決まったわけではない、と女史は抗議するが、この際、原因が何であったかはどうでも良い。


「むしろ、暴走の原因が冒険者であってくれた方が話が早いな……」


『魔獣が街まで移動した痕跡を辿れば、その延長線上の森の中に、冒険者達の手掛かりが残っているかもしれないな』


「そういうことだ。スコット、一っ飛び、大猿どもの移動ルートを探ってくれ」


 画面に顔を出したガイの言葉を肯定し、スコットに街まで飛んでもらう。

避難所の守りはバージルだけでも大丈夫だろうし、フロントグラスに移し出されているホログラフのマップを見ると、バルキリーズがもうすぐ到着するはずだ。


「バルキリーズは現着後、避難所の守りをバージルと交代。サクラとツバキは避難所を守ってくれ。ユリは俺達が着いたら怪我人の治療を始められるよう、準備を頼む。バージルは、交代後、スコットから情報をもらって森を上空から捜索だ」


『『『『『了解!!』』』』』


「リーゼロッテ女史、貴女には後ろに乗っている冒険者達と一緒に、俺達と避難所内の冒険者の仲介を頼む。特に治療が必要な者については、どれだけ早く不信感を拭えるかに掛かっているので、しっかりやってくれ。アデルはその補助と護衛な」


 矢継ぎ早に指示を出すと、戸惑いながらも二人が頷いた。

後は準備が調ったら森に踏み込んで探索を始めよう、この異世界でも皆の特徴を活かす場所はいくらでもありそうだ。


 

 


  

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