1月17日(木)

 中学校の教室にて。


「ん、何してるの」

「数学の問題解いてるー」

「何で放課後になってまた。掃除始まってるけど」

「当番のみんなに声かけたから大丈夫ー」

「あ、そう……そんな難しい問題なの?」

「そうなんだよー。見てよこれ」

「うん。どれどれ……」

「難しいでしょ」

「……難しいっていうか。ちょっと表紙見せて」

「うん。どうぞ」

「数学Ⅲって書いてあるけど」

「お兄ちゃんのなんだ。借りてきたの」

「何でまた」

「数学の問題って、解いてると落ち着かない?」

「いや、別に。現にあんたが苦しんでるし」

「アタシは苦しんでないよー。問題を解くために頭を回しているんだよ」

「はぁ。違いがわかんない」

「えー? じゃあみんな何のために勉強してるの?」

「受験じゃないかな」

「趣味にしていこうよ」

「いや難しいなぁ」

「アタシのこれは趣味だよ」

「趣味で高校数学勉強してるの」

「うん。楽しいよ」

「ごめん、一切共感できない」

「まぁ、数学嫌いだもんね」

「嫌いじゃないよ。国語が好きなだけで」

「じゃあ一緒じゃん。本読んだり古文読んだり漢文読んだりするでしょ、趣味で」

「いやしないな」

「おかしい!」

「一般からズレてるのはあんただよ!」

「一般なんて知らないよ、アタシはアタシの道をゴーイングマイウェイするんだ!」

「英語は?」

「興味ない」

「伝わってくるよ」

「ということで、数学好きとして、アタシは断固としてこれをマクローリン展開する」

「なにそれ」

「説明すると長いよ」

「じゃあ帰り道でしてよ」

「わかった」

「それで、そのふんちゃか展開は」

「マクローリン展開」

「マクローリン展開はいつ終わりそうなの。わたし帰りたいんだけど」

「分かってないな。マクローリン展開したあとにまた操作があるんだよ」

「何でもいいから」

「もっと興味ありそうにしてよ!」

「めんどくさいなぁ!」

「アタシくらい他人の知識に興味を持ちなよ」

「真っ当な主張で微妙な気分になるけど……うん、全部帰り道で聞くから」

「微妙な気分にならないで。よし、全部話すから覚悟しといて」

「……なんか帰りたくなくなってきた」


 結局二時間くらい帰れなかった。

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