銀の君は怖がらない

その数日後。騎士団に再び激震が走った。

今度はいいものでなく、悪い意味で。

手錠をかけられ目隠しをされ騎士団の厳重な警戒のもと医務室に運び込まれたのは、シルキーとそう年の変わらぬ少年だった。

この少年、ストリートチルドレンのリーダーで、スリをして捕まった仲間を逃がすため、街中で1時間以上の激闘を繰り広げたと言う。

あまりの暴れっぷりに手がつけられず、異例の近衛騎士団が出動しやっと捕まえたのだと言う。

その近衛騎士さえ無傷とは言えず、何人かが軽い傷を負っていた。

「幸いなのはこちら側に重傷者が出なかったことだな。もし1人でも死んでいたら罪を重くせざる得ない」

その強さに目をつけた騎士団長が彼を無理やり引っ張って来たらしい。

近衛騎士に入れば仲間も彼も見逃す、と。


そこまで聞くと、シルキーは小さく頷いた。

「目隠しを取ってもいいですか」


アーノルド翁が止める前に、彼女は目隠しを解いていた。

別に彼女が尋ねたのは翁でなく目の前の少年だったので。


現れたのは強い意志の秘めた黒曜の瞳。しばらく見つめあった後、シルキーは用意してあった濡れタオルを差し出した。


少年は、シルキーを睨みつけたまま受け取らない。


シルキーも黙ってタオルを差し出し続けた。


固唾を飲んで見守っていた騎士たちが痺れを切らした頃。

やっと少年がため息と一緒にタオルを受け取った。

「変な奴だな、お前」

シルキーはすっと目を伏せた。



「……昔から、ずっとこうなので」



気まずい沈黙と、非難の目が少年に集中する。



部屋にはただシルキーの治療する音が響き、所在なさげに少年の目がうろうろと彷徨う。


シルキーはそんな彼の様子を全く気にせずに淡々と作業をし、彼もされるがままになっていたけれども


流石にシャツのボタンに手を掛けられた時にはぎょっと身を引いた。


「……上も治療しないと」


空色の瞳がパチリと瞬く。


「もういい」


頑なに身を引く少年の腹部を、シルキーは強く押した。


「っ!!」


痛みに思わず息を止めた少年に、シルキーはちょこっと首を傾ける。


「それでも、治療は必要ない?」


少年は頷こうとして、また腹部に伸ばされた手に慌てて言った。


「分かった。勝手にしていいから、服は自分で脱ぐ」


シルキーは手を引っ込めた。

その代わりに、1番近くにいた騎士を申し訳なさそうに見上げる。


「縄を解いても良いですか」


逡巡する騎士を見やって、少年はため息をつく。


「…別に、もう暴れねえよ」


「外してやれ」


アーノルド翁が諦めたように言う。きつく縛られた縄が外されると、少年は少し肩の力を抜いた。









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銀の君は微笑まない @leefie_no

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