銀の君は靡かない


エスタール王国の王城にある一画。

近衛騎士団の錬成場及び宿舎。


そこで暮らす彼らには、最近浮かれて病まない出来事がある。


曰く、「我が近衛騎士団にも春が来た!」である。


さてその春がどこに来たかといえば、騎士団専用医務室。

用もないのに入口をウロチョロとし、医師のアーノルド翁に「用があっても無くてもに来るな!」と空の瓶を投げられ(結果無傷で医務室に行きたんこぶを作って)すごすごと退散する。


そのお目当ては言わずもがなアーノルド翁に奥に隠された助手の彼女である。

長い銀の髪は邪魔にならないようにサイドを編み込み後ろに流されている。

多くを語らない唇は桃色に色付き、空色の瞳は凪いだ湖面のように穏やかだ。

シルキー・アーレ。12歳。

近衛騎士団の紅一点であり、騎士たちのアイドル。通称銀の君。


アーノルド翁と違って言葉数は少ないながらも優しくいたわってくれる。

優しさ万歳。女の子万歳。

彼女の元へはここで働き始めてから3日にして、既にたくさんの花やら恋文やらがと届いている。

彼女はその一つ一つに丁寧にお礼をいい、そして少し表情を申し訳なさそうに動かして頭を下げる。


その様子に騎士たちは落ち込みながらも悶えるのだ。


曰く。





『簡単になびかない所もいい!』

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