幕間 第2王子と田舎令嬢
夜会のあいさつを終えると早速令嬢達が群がってきた。
群がってきたという表現は正直失礼なものだがこの表現は間違ってはいないと思う、何せ今目の前にいるだけでも10数人はいる。全員が甘ったるい香水の匂いを漂わせてひらひらとしたドレスを伴って囲んでくるのだ。
花の蜜にたかる蜂のようだ、それが一番初めに思った感想だ。
「殿下!私の領地では~」
「このドレスは最高級の~」
「今日殿下にお会いできるのを心待ちに~」
猫をふんだん被った表情とおべっか祭りの始まりだ。普段なら飄々と受け流すこともできることもできたのだが今日に関しては妙に気に障った。表情に出ないように尽くしているがどうもイラつきがましてつい酒が多くなる。
すると突然令嬢たちの集団から一人飛び出してきた。確かどこぞの子爵家の令嬢だったはずだが…。
「で、殿下!ようやくお目見えできました、私…」
「ちょっと!あなたなぜ殿下に話しかけているの!」
子爵家の令嬢があわただしく話しかけたと思ったら全身を真っ赤の燃え盛る炎のようなドレスで着飾ったきつい顔立ちの令嬢が立ちはだかった。
彼女はエルモンド公爵家のご令嬢だ。私が主催(ということになっている)夜会にすべて出席しいつも周りをうろちょろしては猫なで声でおべっかをまくしたてる。正直に言うと私はこの令嬢が嫌いだ。自分は何もしていないのにいつも上からmw戦でものを語り、家の名前をひけらかす。
「あなたさっきから何よ!子爵家風情で王子になれなれしく近づいて!」
「そっちこそ王子が迷惑しているって気が付かないの?おめでたい頭しているわね!」
「はん!弱小貴族風情が何を言っても負け犬の遠吠えにしか聞こえないわね!ほら泣いてみなさいよ!だらしなく口を広げてわんわんって!」
なぜこの人たちは主催である、更に王族の目の前でここまで愚かなふるまいができるのだろうか、笑顔がひきつっていくのを自覚する。
…だんだん感情の抑えがきかなくなってきた、このままだと危ないかもしれない。
「このような貴族の振る舞いも知らぬような令嬢は元々殿下のお相手にふさわしくないのです!早急にここから消えなさい!」
「あなたのような傲慢で独占欲の塊のような人のほうがふさわしくないわ!殿下の顔に泥を塗るつもり!」
どの口で…、その瞬間私の堪忍袋の緒が切れる音が聞こえた。気が付いたら声を荒げている自分の声がどこか遠くで聞こえたような気がした。
「いい加減にしないか!いつまでも幼稚な言い争いを続けて恥ずかしくないのか!そんなこともわからないようなマヌケどもとは婚約はもとより今後の付き合いも拒否させてもらう!」
「し、しかし殿下「しかしもくそもあるか!貴様たちは今王族を愚弄していると同義だぞ!そもそも私の婚約者を探すための夜会だというのになぜ貴様たちが好き勝手にしているのか!」
「わ、私の家は公爵家です!家柄的にも私が婚約者としてふさわしいのです!元々こんな婚約者探しなどせず私と婚約をお決めになればこんなことにはならなかったのです!」
この期に及んで…、酒の力もあるのだろう、もう私は完全に吹っ切れることにした。
「…そうか私がなかなか婚約者を決めなかったからこんなことになったのだな」
辺りを見渡し、一人の令嬢と目が合う。この喧噪の中口いっぱいにデザートをほおばっている。まるで小動物のようだった。
「…名は何という」
「ふぇ?あ、アルトリア・ルーデルと申します…」
名前を聞くや否や私は令嬢の腕を取り大声で、会場全体に聞こえるように宣言した。
「私は今ここで、このアルトリア・ルーデル嬢との婚約する!」
すると辺りが今までの喧騒が嘘のように静まり返った。うむ、とてもいい気分だ!
「これで夜会るは閉会とす!今後婚約者探しは行わん!」
そう言い、私は会場を後にした。ここからの記憶は正直ない、ただその日はとても気持ちよく眠りについたことは覚えている。
「私は…なんてことを…」
起床して朝食を食べた後、昨日の醜態を思い出し頭を抱えることになった。
あ、二日酔いで頭が痛い。
―王子の土下座まであと30分―
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