第12話 田舎令嬢と魔法

さて、家族との話し合いも済み、とりあえず王子は家の客室に泊まることになった。

後日王子付きの護衛と使用人が来るそうなのでしばらくは一人で大丈夫だそうな。

それよりも俺は、あることにとても興味を持っていた。

…もう我慢できない、早く王子に会いに行こう。


客間の扉を勢い良く開ける。ラフな格好でこちらを驚いた表情で見ている。


「殿下!もう我慢できない!」

「はい!?」

「頼む!一生のお願いだ!見せてくれ!」

「何をですか!?」

「そりゃもちろん!魔法に決まっているだろ!」


無い胸を張って高らかに宣言する、我慢ができなかった、不敬だろうと何だろうと俺は今!魔法が見たいのだ!


「…それだけのためにこんな時間にやってきたのですか!?」


ちなみに今は夕飯が終わりそろそろ就寝時間にいいころ合いの時間だ、仕方ないじゃん、見たくって仕方なかったんだから。


「修行の時からずっと気になってて、いてもたってもいられなくなった!見せて!」

「いや、その、見せるのは構わないのですが…明日にしませんか?」

「いやだ!今みたい!頼みますよ殿下!」


殿下に近づき両手を握りしめる、意外とごつごつした手だった。毎日県の鍛錬に励んでいるのがわかる手だった。


「ちょッ、その、あの、いや、その、わかりましたから手を放して!あと服装どうにかしてください!」


寝る前だったので寝間着に着替えていたのだが、前世の時から寝るときはTシャツとパンツ一枚、もしくは全裸というのが日常だったので転生した今でも寝るときは薄着だ、かなり薄いキャミソールとちょっとした上着を羽織っている状態だ。


「別にこの貧相な体見たって面白くもないだろう?いいから見せてくれよ!」

「何を言ってますか!?いいから着替えてきてください!じゃないと魔法は見せません!」


顔を真っ赤にしてこちらを見ないように俺の手を引きはがした王子、魔法のためならさっさと着替えてやる!


とはいってもめんどくさいので近くのミハ兄の部屋に突撃し近くにかけてあった騎士服の上着を強奪する。「へ?なに?ってかなんだよその格好!俺の上着に名にすんの!?」という言葉はガン無視。身長の高いミハ兄の上着だと俺が着ると膝上2センチぐらいまですっぽり覆われる。


「これでいいだろ殿下!早く魔法!魔法!」

「…なんかさっきよりやばくないか、いや、気のせい気のせい…」


殿下が何やら呟いている、そんなことより魔法!


「夜ですのであまり派手な魔法はできません…それなら」


空中に指で文字を描くように振る、すると魔法陣が浮かび上がった。


「光の聖霊よ、星の瞬きをここに表したまえ」


次の瞬間、部屋中に星空のような光が浮かび上がった。前世で言うプラネタリウムのようなものだがかなり幻想的な雰囲気で美しい。


「すごい!すごい!本当にきれい!魔法ってすごい!」


テンションが上がってピョンピョンと飛び跳ねる。それを見ていた殿下が軽くほほ笑んだ。


「それならお次は…光の聖霊よ、星の光を降らせたまえ」


星の光がゆらゆらと雪のように降り落ちていく、光に触れるとほのかに温かい。それはすぐに虚空へと消えた。


「すごい…ロマンチックやん」

「ろまんちっく?」

「え、ああ気にしないでくれ…」


思わず前世の言葉が出るぐらいにはこの風景に見とれていた。


「殿下!これって俺にもできるのかな?」

「えーっとそうですね、魔法の仕組みについては知っていますか?」

「魔法とは、自身の体内にある魔力を精霊に捧げ、言葉を紡ぐことによって起きる、だったっけ?」

「その通りです、精霊は普段目には見えませんがどこにでも必ず存在します、その精霊に魔力を渡すことで魔法を発現できます」


精霊か、ここにもいるんだろうか?おかし食べるか?


「ちなみに精霊と対話することでその精霊と契約を結ぶことができます」

「契約?」

「人の魔力には属性があって、その属性にあった精霊と契約することで通常よりも強力な魔法を少ない魔力で行使することができます」

「そんなことがあるのか!」

「通常は一つの属性だけなのですが、僕は光と風の精霊と契約しています」

「へえー!すごいんだな殿下!」


おもしろいな!魔法!


「なぁ、それって俺にもできるのか?」

「何がですか?」

「契約だよ!俺も精霊と契約したい!そんで魔法使いたいんだ!」

「え、うーんどうでしょう、通常の魔法に関しては魔力があればできますが…」

「なぁ!教えてくれよ!殿下!」


殿下の両手を掴んで両目を見つめる。一瞬で顔が真っ赤になった。どうした?風邪でも引いたのか。


「頼むよー!俺もきれいでど派手な魔法使いたいんだ、な!な!!」



「…一体何をやっているの?アルトリア」


声の方向へ振り向くとやわらかい微笑みを浮かべている母さんがいた。

…笑っているはずなのになぜ背筋がゾクゾクするんだろう。寒気が、寒気が止まらない…。


「淑女が、こんな時間に、そんな恰好で、殿方の部屋にいるものですか?」


あ、これブチギレモードの母さんだ。


「いやーその…ついうっかり?」


全力さわやかスマイル発動!母さんの怒りを鎮めろ!


「何がうっかりですか!いつも言っていますがあなたは淑女として何もかもが欠けています!」


失敗!ちくしょう流石にダメだったか!ケイ兄と親父なら効いたのに!


「あなたには矯正が必要なようですね、アンヌ『勉強部屋』用意をして頂戴、今日は朝までみっちりやるわ!」

「かしこまりました」


後ろには誰もいなかったはずだがいつの間にかいた母さん付きの侍女、アンヌさんが控えていた。

そして勉強部屋、これは小さい頃から何かやらかした時に缶詰めにされる説教部屋のようなものだ、つまり俺にとっては恐怖の対象でしかない。


「いやだー!もうやりたくない!」

「だまらっしゃい!今日という今日は淑女が何たるものか染みつかせてあげましょう!行くわよ!…殿下お騒がせしました、どうぞごゆっくり」

「あ、はい…お気遣いなく…」


俺の首根っこを掴んでずるずると引っ張る、母さんもなんだかんだ言って田舎暮らしに順応しているので結構力強い、てか王子助けて、見送らないで…。

しかし俺の願いはむなしく閉じられた扉によって潰された。




「…俺の服、帰ってこないんだけど、明日騎士団の仕事あるのに…」


ちなみに服はすっかり忘れ去られており、帰ってきたのは3日後だった。

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