第11話 田舎令嬢と王子と家族
修行も終わりそろそろ家族が帰ってくるころだ。
うーん、この前は暴走していたけど偽装の婚約だってわかったしもうあんなことにはならないかな?
と風呂場で汗を流しながら考えていた。ちなみに一人である。本来なら侍女が手伝うが例によって人手不足なのでいつもお一人様だ。
マリアが要るときはたまに手伝ってもらうけどある日から「何か間違いが起きる前に出入り禁止にしましょう」とマリアは出禁されてしまった。女同士だから問題ないと思うんだけどな?
改めて鏡で自分の体を見る。うーむ素晴らしい!すらっと長い手足に透き通るような肌、胸は小さいけどバランスがよくていい感じ!前世だったらモテモテだったろうし、俺が男だったら間違いなくナンパする。
しかしなんでかそういった話はない、元男とはいえ一応年ごろの女の子、恋をしたいってわけではないけれどもうちょっとちやほやされたい。
着替えを終え応接間に戻ると
笑顔で抜刀するケイ兄と部屋の隅に逃げる殿下の姿があった。なんか今日このパターン多いな…。じゃなくて!?
「アル、大丈夫だよ安心してこれはただ殿下に剣舞をみせようとしてるだけだから」
「じゃあ何で部屋の隅で殿下が膝抱えてんだよ!てかそもそも狭い室内で真剣振り回そうとするな!」
ダメだ、何故かまだケイ兄の暴走モードは終わってない。てか目が怖いよ!ハイライト消さないで!
「いくら偽装婚約とはいえ可愛い妹に寄り付く虫は駆除しなくちゃいけないのが兄の役目だからね…」
「虫じゃなくてこの国の王子だっての!」
なんとかケイ兄をなだめ、殿下に謝る。そして何故殿下があるのか説明した。
「なるほど、事情はわかりました。確かにその状況で『この婚約は嘘でした』なんて言ったら色々と問題が起こりそうですね、嘘だったら本当のことにすればいい、とか言いだしてアルが王宮に軟禁される可能性もあるんですから」
その考えはなかった、確かにあの王妃様の熱意ならあり得そうで困る。
「はい、僕もそう思って言いだせませんでした。すぐに偽装だと言うのではなくて時間が経って合わなかったの方が納得してもらえますから」
「しかし、よく両陛下がこの婚約をお許しになりましたね、正直私達の家は辺境伯と肩書きは伯爵家ですが実際は末端も末端ですよ?」
この国では王族>公爵>侯爵>伯爵≧辺境伯領>子爵>男爵といった序列がある。しかし辺境伯は王都から離れていて管理がめんどくさい領地を押し付ける名目として定められているため子爵はおろか男爵家よりも下と見られることが多い。それに加えて貧乏、社交界にあまりでない、という2つの負の要素も持っているためルーデル家は他の貴族たちから舐められまくっている。まぁ誰も気にしてないんだけどね。
「政治的理由があるならともかくこの婚約が成立しても得することはないと思うのですが?」
「父上と母上は政略結婚よりも恋愛結婚をして欲しいらしく、むしろノリノリでした…」
「あの二人ならそうだろうな」
「親父!?いつの間に帰って来た!?」
「ついさっきだ、話もマリアから聞いた」
「お久しぶりです、ギニアス・ルーデル辺境伯爵殿、突然訪問、誠に申し訳ありません」
「頭を下げずとも大丈夫です殿下、あの万年頭花畑夫婦の奇行には慣れておりますので」
「親父…それはいくらなんでも不敬に当たるんじゃ…」
「問題ない、あのアホどもとは旧知の仲だ、昔から迷惑をかけられている」
アホどもって言い放った!?
「父上、両陛下と友人関係だったのですか!?」
「ん?アイツは俺が騎士団に入った頃からの付き合いでよくつるんだものだよ、その時に王妃殿下、リリーナとも知り合った。ちなみに母さんと出会ったのもリリーナからの紹介だ」
言わなかったか?と首をかしげる。知らないよ!ってか想像もしてないよ!
「ち、ちなみに奇行とはどのような…」
殿下も初耳だったようで声を震わせながら親父に聞いた。
「そうだなぁ、夜中に叩き起こされて海を見に行くために連れ出されたり、山賊討伐しようぜ!とか言ってろくな装備もなしに乗り込んだり、リリーナが可愛すぎてヤバイって内容を一日中話されたり、あぁリリーナの誕生日プレゼントのために南の山脈の頂にある希少な花。取りに行ったこともあったな、あの時は死にかけた…」
遠い目をして思い出を語る親父、色々あったんだろうなぁ…。
「父親が大変ご迷惑をおかけしてすいません」
「ちょい殿下!また土下座しようとしない!」
土下座の構えを取ろうとした殿下の脇腹を手刀でつく、うぐっと呻き声が聞こえた気がするが気にしない。
「軽々しくこんな田舎貴族に頭を下げないでくださいって言っているじゃないですか!」
「し、しかし東の国の古事記にも土下座が一番誠意が伝わると…」
「時と場合によります!」
「どう思います父上」
「危ないな…やはりアルトリアに気を持たれる前に消した方が…」
この後二人に新技をお見舞いしたのはいうまでも無い。
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