第7話 田舎令嬢と荒れ狂う家族

 いろいろあった王都でのいざこざから5日、ようやくルーデル領まで帰ってきた。いやー王族の馬車はすごいね!全くおしりもいたくなかったし快適な旅だった!

 何時もは行商の場所に同乗させてもらってるからおしりどころか体中痛いし、商品や他の人と一緒だから肩身が狭いかった。

 でも今回はまっすぐウチを目指しているからいつもより早く着いた。いやーこの馬車欲しいな、買えないかな?ってそうだ、この馬車高級品じゃん…あきらめよう。


「それでは私たちはこの辺りで」

「あ、イースさん、ジャンさんありがとうございました!帰りも気を付けてくださいね!」


 イースさんとジャンさんは今回護衛についてきてくれた騎士さんだ。彼らのおかげで野盗の心配もせずに帰ることができた。


「おう!嬢ちゃんとの旅は楽しかったぜ!また手ほどき頼むわ!」

「ジャン!貴族様になんて口をきくんだ!」


 ジャンさんとは旅の道中どうしても体を動かしたくてうずうずした時に何回か組み手をしてもらった。かなりの実力者だったが師匠よりは弱かったので俺の戦績は

 20戦20勝0敗だ。


「いいだろ?嬢ちゃんや兄さんもそんな貴族っぽい方じゃないし、何より話していて楽しい!」

「ああ全くこのアホは…部下が無礼なふるまいをしてしまって申し訳ございません」


 イースさんが頭を深く下げた、左手でジャンさんの頭をつかみ強引に下げさせる。


「いいんですよ、俺もアルも気にしないですし、それにうちは田舎貴族だから立派なものでもないし」


 正直ちょっと立派な家に住んでる町人ぐらいの認識だよね、ガキどもからもいじられてるし、大人の人も普通に雑用押し付けるし。


「いえ、ギニアス元副団長のご子息でもありますから…」


 今回初めて知ったのだが親父は王立騎士団の元副団長だったらしい、家の姿だけ見てると子煩悩のちょっと気さくなおっさんでしかないんだけどな。


「ついでだし『暴風の剣豪』様に会いにいってもいいか?俺ファンなんだよ!」


 ジャンさんが顔を輝かせた、え?親父そんな二つ名あったの?身内の二つ名とかなんか恥ずかしいな…。


「やめろみっともない!帰ったら武闘大会の用意があるんだ!道草食ってる暇はないぞ!」

「イースだって暴風の剣豪のファンだろ?カッコつけるなって」

「な、なにを!いいから行くぞ!」

「いててて、いてぇって!耳引っ張るな!」


 イースさんが耳を引っ張ってジャンさんを連れて行った。耳がとれるんじゃないかってぐらい引っ張ってるけど大丈夫かよ…。


「また今度ゆっくり遊びに来てくださいねー!」


 ちょっと遠いけどのんびりするにはいいところだからね、ぜひともお越しくださいな。


「さて、久々の我が家に帰るとしますか!」

「…どうする、逃げるか?いや無理だあの二人から逃げきれない、正直に話す?速攻打ち首だろう、どうするどうするどうする、考えろ、生き残るんだ俺…」


 ケイ兄は家に近づくにつれてぶつぶつと何やら呟いている。王都でいろいろあったしストレスがひどかったんだろう…後でマリアに頼んでおいしいものでも食べさせてあげよう。



「あれ?屋敷に人が集まってない?なんか催し物でもあったっけ?」


 屋敷の近くで大勢の人が集まっていた。よく見るとあれうちの領の辺境騎士団じゃない?

 ルーデル領のように王都から離れすぎていると何かトラブルや害獣被害などが起こったときに即座に対応できないので辺境の領には自治的に騎士団を運用していいという決まりある。家の領も例外ではなく騎士団を運用している、親父が名誉顧問、ミハ兄が臨時騎士団員として関わっている。


「あ、団長さんだ、おーい!団長ー!レイモンド団長ー!」

「ん、お嬢!戻ってらしたんですかい!」


 俺を見た瞬間強面の顔が満面の笑みに代わり肩をガシガシたたいてきた。痛い痛い。


「いったいどうしたんだよ、こんなに騎士団の人たち集まって」

「ああ、これですかい、お嬢は安心なさってください、俺らが全部けり付けますから」

「いったい何の?」

「まま!お気になさらず、ご家族がお待ちですよ、早くお帰りなったほうがいいんじゃないですか?」


 なんかはぐらされてる気がするけど…まあいいか、早く家族に顔を見せてあげないとね。


「何するのかは知らないけどみんな気を付けてねー」

「なーに、塵一つ残しません!」


 ほんと何するつもりなの!?





「ただい…ま?」


 家に帰ると、そこにはなぜか完全武装した親父とケイ兄がいた。


「アル!」

「アルトリア!」

「ぐぇ」


 鎧姿のまま抱きしめられたから痛い、一体全体何事!


「なんでそんな恰好してるの二人とも!」

「なんでって、きまってるだろ?」

「王子、抹殺してきます☆」

「そんな気軽に王族殺す宣言するな!」

「アルを嫁に出すぐらいなら国を捨てるね、僕は」

「大丈夫大丈夫、俺たちがやったって気づかれないようにするから」

「そういう問題じゃないよね!?」


 あ!もしかして面にいた騎士さんたちってこのため!?なんで領を上げて討伐しようとしてるんだよ!


「母さん!母さんは!?」

「母さんなら従兄弟のところにいって隠蔽の裏工作をしに行ったよ」

「母さん!?」


 うち唯一のストッパーが!?


「ま、マリア、マリアなら止めてくれるよね?」


 すがるようにマリアを見る、するとマリアは菩薩のような微笑みを浮かべて


「ご安心くださいお嬢様、大事にならないうちに私が暗殺して参りますから」


 味方がいなーい!!!!!!


「マリアの暗殺が失敗したら騎士団もろとも乗り込んで切り捨てる二段構えの作戦だ!失敗することはない!」

「成功させんな!正気に戻れよ!」

「正気じゃないのは妹と結婚できないこんな世界だ!」

「ケイ兄が何言ってるのかわからん!!!」

「お嬢様、即死の毒よりじわじわと苦痛を与える毒のほうがいいですかね?」

「マリアはなんでそんな毒持ってるの!?」

「お嬢をどこの馬の骨ともわからん奴に渡すな!騎士団全員で王子を切り捨てろ!」

「「「おぉ!!!!」」

「そんなことより秩序を守れや!」

「いざ出陣!」

「すんなぁアアアアアアアアアア!!!!!」


 その後、切れた俺が親父とケイ兄にシャイニングウィザードをかまして、やっとこの騒動は収まった。






「俺は空気俺は空気俺は空気俺は空気俺は空気俺は空気」


 ミハエル、気配を消しこの場は一命をとりとめる(尚この後の保証はない)。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る