第6話 田舎令嬢と立ち込める暗雲

「…またですか父上、母上…」


 この甘ったるい雰囲気を打ち破ったのはジーク殿下、いやほんとありがとう、このまま至近距離でこのイチャイチャを見せつけられてたら間違いなく口から砂糖を吐き出すとこだった。


「あらジークちゃん!今日も可愛いわねー!」


 王妃様がジーク殿下に駆け寄って力いっぱい抱きしめた。


「や、やめてください母上!私ももう17です、過度なスキンシップは辞めてください!」


 顔を真っ赤にしながら王妃様の腕の中から抜け出す殿下、王妃様はとても寂しそうな顔をしていた。


「うぅ…ジークちゃん…私にとってはまだまだ可愛い息子なのに…」

「子どもの成長を見守るのも親の役目だ、我々も我慢しようリリー」

「イアン…わかったわ、私見届ける!こうして自分でこんなにかわいい婚約者を見つけてきたんですもの!」


 おっとここでその話に戻るんですか。


「は、はい…母上たちも喜んでいただけているようで何よりです…」

「もう婚約なんて言わないですぐに結婚式をしましょう!」

「そうだな、ジークの気持ちが変わらないうちに結婚してもらうのも…」


 って待って!なんか話が飛びまくってる!


「い、いくらなんでも気が早いですよ両陛下、妹は昨日ジーク殿下と初めて出会ったのですから」


 ミハ兄が口をはさんだ。すかさず俺も。


「そうです!それに婚約といっても偽装結…」

「父上!ルーデル方には無理を言って引き留めているのでもうそろそろおかえりいただかなくては!」


 食い気味に言葉を被らされた。


「うむ、そうか引き留めてすまなかった、また今度ゆっくり話すとしよう」


 ほとんどノロケと王妃様の怒涛のしゃべりだった気がするのだが、何か話したっけ?


「今度はそちらのご両親ともお話ししなくちゃね!どうせだし視察の名目で伺いましょうか?」

「それはいいな、ジークが生まれてからは忙しくて旅行も行けなかったしな」

「そ、その話も後でしましょう!僕は彼らを見送るのでこれで失礼します!」


 早々と去っていく殿下、私たちもその後に続き両陛下に礼をして謁見の間を出る。

 なんか、何もしていないはずなのにとても疲れた…。



 殿下のあとをついていくと城門付近についた、そこには王家の紋が入った立派な馬車がある。


「えーっと殿下これは?」

「今回は僕のせいで滞在を伸ばしてしまったからね、帰りの足ぐらいは面倒見させてもらうよ」

「これって王族が領地を回るときに使う専用の馬車だ…」


 馬車を目の前にわなわなと震えだした兄。

 目の前にある馬車は細部の装飾も凝っていて見るからに貴族が乗ってます!といった感じの馬車だ。道中で野盗に狙われそうだ。


「こ、これ一台で俺たち一年は遊んで暮らせるぞ…」

「まじ!?」


 馬車になんて金かけてんだ!王族ってやっぱりすごいんだな、ウチだったら生活費とか領地の街道の開発資金に回すだろうな、なんせお金がなくてなかなか進んでないからね!

 なんか悲しくなってきた。


「護衛として騎士団からも数人つけます、道中の心配はしなくていいですよ」

「ありがとうございます殿下、と頃で話は変わるのですが…」

「どうしました?」


 殿下の耳元で周りに聞こえないように話す。


「あの、もしかして陛下と王妃様には今回の婚約が偽物だと知らせていないのですか?」


 お二人とも完全に婚約者どころか義娘認定していたし明らかに殿下の様子もおかしかった。


「…ええ、というか両親には今回の件は話していないのですが場所が王城のホールだったことと多くの令嬢たちに見られてしまったせいで話が広まってしまったみたいで…」

「なら、あの時言ってしまえばよろしかったのに」


 俺がそう言うと神妙な顔で明後日の方向を向き、


「…母上と父上がああなってしまったら何を言っても通用しませんよ」


 虚空を見つめふっと乾いた笑いが漏れた。これは昔からあの二人に振り回されてるんだな…。


「…心中お察しします」

「ありがとう、少し気が楽になったよ」


 うちも両親(主に父)が破天荒だからな…やっぱり一番常識がある俺がしっかりしなくちゃな…。


「自分はまともだって顔しているけどルーデル家の問題児筆頭はお前だからなアル」


 準備をしていたミハ兄がなにか言っていたようだが華麗にスル―だ、まったくこの完全無欠の美少女に何を言っているのだか。


「…そういうところがダメなんだよなー」


 うるさい、心の中を読むな。


「落ち着いたらこちらから改めて婚約についての書類や確認事項をまとめた手紙を送りますので、まずは道中お気をつけて」

「ありがとうございます殿下、それではまた」


 こうしていろいろあった王都であったがようやく家に帰ることができた。

 とりあえず帰ったらのんびりしよう、心の疲れを癒さなければ…。


 しかしこの時俺たちは知らなかった。俺の両親と陛下夫婦は昔からの親友で、今回の話を聞いて早馬で手紙を出し、ルーデル領の屋敷では大パニックが起こっていることを…。


「「「よし、王子を抹殺しよう」」」


 こんな話になっているなんて考えもしなかったのだ…。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る