第5話 田舎令嬢と国王様
こうして俺、アルトリア・ルーデルと第2王子ジーク・ファジエルド殿下と婚約関係になった。
はいこれでおしまい、だったらよかったのだが貴族と王族の婚姻だ、一般人の婚約とはわけが違う。書類にサインしたりなんだりとやることが多いらしくすんなりと婚約者になるわけではない。
その必要な順序の一つに顔見せがある。
まあ普通に考えても子どもが「婚約しました!」「そうかよかったな」となるわけはない。何回かは本人たちとその両親が顔合わせをして話を詰めていく必要がある。
それは王族の方々も例外ではなく。
「アルトリア・ルーデル様、並びにミハエル・ルーデル様をお連れしました!」
…王様に謁見することになった。
ジーク殿下との話し合いが終わって帰ろうと席を立ちあがったとき、勢いよく扉が開いた。
「ジーク王子!並びにルーデル家のご子息たちは居られますか!」
白いマントを肩から掛け、綺麗な鎧に身を包んだ屈強な男が入ってきた。その右目には縦に切り傷があり歴戦の戦士といった風格だ。
いいねーあんな渋い漢は憧れるよなー。
「ユリウス落ち着け、客人の前だ」
さっきまでの雰囲気からガラッと変わり威厳たっぷりの殿下、どうやら切り替えは早いようだ。
「も、申し訳ございません…。申し遅れました私は近衛騎士しておりますユリウス・ファルトマージと申します」
右手を胸に当て深々と頭を下げる、近衛騎士といえば王族のために組織された少数精鋭の騎士団だ。歴戦の英雄が抜擢されたり、新人でも腕が立つと認められれば所属することがある。騎士たちにとってまたとない名誉なんだとか。
「ご丁寧にありがとうございます、自分はミハエル・ルーデル、こちらが妹のアルトリア・ルーデルです」
「アルトリア・ルーデルです」
スカートの端をわずかに持ち上げて淑女の礼をとる。ふふん、どうだ、結構様になってるんじゃない?
横目にミハ兄を見ると「また変なこと考えてんな」と目線で言われた気がする。
「それで、一体何の用なんだ」
「…陛下がお二人をお呼びです、時間を作ったから顔が見たいとのことで」
…はい?
「おおおおおお王様に?」
「いいいいい今から?」
兄妹そろってアホな声を出す、仕方ないよね、私もミハ兄も今まで王都にに来る機会なんて数えるほどしかないし、見たことはあるけど声をかけるなんておこがましいし。
「はい、今すぐに会いたいとのことでした」
「…いくらなんでも急すぎる、ルーデル家の方々は元々私が無理を言って今日まで拘束してしまったんだ。謁見の用意もしていない、父上には申し訳ないが日を改めてもらって…」
「そそそそそうですよ!夜会用のドレスとはいえ王様の前に出れるような恰好ではないです!」
「そそそそもそも私たちは貴族とはいえ南の田舎に引きこもってる三流なので恐れ多いでござる!」
思わずミハ兄が前世のキモオタみたいなしゃべり方になってしまった。
「すいません、あの顔になった陛下を止めることは、できません」
痛々しい顔で告げるユリウス、まさしく私たちにとっては死刑宣告と同義だ。
「…俺ただの護衛だったはずなんだけどなー」
「私だってただの観光だったはずなのに…」
二人そろって天を仰ぎ、謁見の間に案内(連行)された。
「ミハエル・ルーデル様、アルトリア・ルーデル様が到着なされました!」
「うむ、入れ」
立派な扉が開いた。
綺麗に整えられた真紅の絨毯が敷いてあり、天井からは様々な色が使われたステンドグラスから通る光が空間を彩る。最奥には玉座があり一人の男性が腰かけている。その横には綺麗な女性が寄り添うように立っている。
この国の王と王妃、イアソン・ファジエルド陛下とリリーナ・ファジエルド王妃殿下だ。
…帰りたい、余りのプレッシャーで涙目になる。今まで全く接点のなかったのに昨日からなんで尊き方々に連続して合わなきゃいかんのだ!いくら前世でやんちゃして立ってあっちでも一般人だったんだぞ!こっちで生きてきた間も田舎で魚釣りとか虫取りとかしてのんびり過ごしていたのに!なんでや!
思わず心の声が関西弁になるぐらいには慌てているのだが表情は無表情を貫いた。決して俺がポーカーフェイスというわけではなく緊張のしすぎで一周回っただけである。
玉座の前まで行き名乗りを上げ、王族に対して最敬礼をし膝をつく。
「面を上げよ」
陛下から許しをもらったのでゆっくりと顔を上げる。
陛下は白金の髪に綺麗な碧眼をしている。顔立ちは中性的なジーク殿下と違い男性的で厳かな雰囲気があるが瞳の奥には優しい光がともっていた。
王妃様はふんわりとしたブロンドの髪とエメラルドの様な綺麗な碧色をしている。肌もつやつやでまるで妖精のような柔らかい微笑みを浮かべている。これでアラフォーだというのだから本当に人ではないのかもしれない。
「ひとつ、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「よい、問うてみよ」
ミハ兄が恐る恐る尋ねた。
「今日はなぜ我々をお呼びになったのでしょうか?恐れ多いながらも我ら兄妹は父や兄と違い王都にもあまり来る機会もなかったので今回のお呼びに戸惑っております」
「…何故、か、それは君らが一番よく分かっているのではないか?」
ギロッと青色の相貌が私たちをにらむ。背後からえも言わせぬほどのオーラが出ている気がする。何もやってないよー、毎日師匠にしごかれてるだけだよー。
ミハ兄もこのオーラにやられたのか若干涙目だ。わかる、わかるよ、俺もちょっとちびりそうだ。
「それは「それはジークちゃんの婚約者が一目見たかったの!!!」」
陛下が言い終わる前に王妃様が身を乗り出しながら声を上げた。
その目はキラキラと輝いているように見える、というか眩しっ!満面の笑みの王妃様は本当に輝いているようだ。
「ジークちゃんはいつまでたっても婚約者どころか恋人の一人も作らないでこれはもしかしたら私たちに言えないような特殊な嗜好を持っているのかとかこっそり愛人を作ってくるのかとかいろいろ勘ぐったけど色っぽい話の一つもなくて、そんな子がようやく婚約者を決めたでしょ!それはもう驚いて驚いていてもたってもいられなかったの!それに子どもたちは二人とも男の子でしょう?二人とも本当にかわいいけどずっと娘が欲しかったの!私の部屋に私の小さい頃のドレスがあるから後で着せ替えごっこしましょう?あとはショッピングでしょう?スイーツも一緒に食べて、演劇とか見て、そしてゆくゆくは孫の顔を…」
「リリーナ、それぐらいで止めなさい、彼らが困っている」
いきなりはじまった王妃様の言葉に呆けた表情になってしまった。ミハ兄なんて口を大きく開けている。顎が外れるんじゃないかなこれ。
しかもこの長文をノンブレスで言い切るなんて王妃様肺活量すごいな。
「でもでもイアン!あのマジメが服を着ているような性格のジークちゃんが選んだ婚約者よ!これはもう私たちの娘といっても過言ではないのかしら?」
「リリーナ、急だったとはいえ謁見の最中だ、あまり砕けた態度は…」
「イアンはうれしくないの!こんなにかわいい子が義娘になるのよ!ああ、これは夢なのかしら…はッもしかしてここは天国?いつの間にか私は死んでいて幸せな夢を見ているんじゃ」
「冗談でもやめてくれリリー、君に先に立たれたら私は狂ってしまうよ、せめて私より長生きしてくれ…」
「だめよイアン私だってあなたがいなくなったら生きる意味がなくなってしまうわ、死ぬときは二人一緒、いいえ生まれ変わったってずっと一緒よ」
「リリー…」
「イアン…」
熱のこもった視線を絡ませあって二人は抱きしめあった。
あれー?なんで今目の前でいちゃついてる様子を見せつけられなきゃいけないんだ?
「…またですか父上、母上…」
甘ったるい空気の中にジーク殿下が登場し、ようやく本題が進むことになった。
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