第3話 田舎令嬢と急展開


 さてさて、いきなり婚活にいけと言われ早1週間、山を越え、谷を越え、ようやくやってきました。王都ヒュベリオン。


「でっけぇなー、あの城だけでうちの畑ぐらいあるんじゃないか?」

「アル、言葉遣い、母様に怒られるぞ」

「おっといけね、じゃなくて危なかったですわ」

「…なんかキモイな」

「ぶっ飛ばすぞミハ兄」


 王都へ行く前に母さんから「王都へいる間はおしとやかになさい、これも淑女になるための練習よ」と結構な圧力をかけられていたので今回はおとなしくいていよう、と言っても自分でもなんか気持ち悪い。


「宿は取ったし、夜まで王都でも見て回るか?俺も王都はあまり来たことないからな、結構ワクワクしてたりする」

「うっし、それじゃあ腹ごしらえと行こうぜ!…ですわ」

「晩餐会までには慣れて置けよ」

 …

「ミハ兄、いたずらグッズ専門店だって」

「大量に買って親父殿の部屋に仕掛けようぜ」

 …

「母さんとケイ兄の土産何にする?」

「母さんは香水とかで、ケイ兄はお前からだったら何でも喜ぶと思うぞ」

 …

「王都の建物は全部きれいだし、大きいけど畑も山もないのにどうやって飯食ってるんだろうな?」

「その発想田舎者すぎるぜ」

 …

「へい!そこのお嬢さん!俺と一緒にうちの山でイノシシ狩らない?」

「さすがにそのナンパはレベルが低すぎるよミハ兄…」



 王都での観光も終わり、いよいよ第2王子主催の婚活パーティー、もとい親睦を深めるための晩餐会。

 いつ来てもなれないドレスを着て適当な席に腰掛ける。ミハ兄も一緒なのだが常に一緒にいるも体裁が悪いので今は別行動中だ。…端のテーブルでひたすら料理を口に詰め込んでいる。俺も母さんからのお達しがなければ腹いっぱい食うのに…。


「さて、ここで今回の晩餐会の主催をしてくださりました、ジーク・ファジエルド王子より皆様にご挨拶を申し上げるそうです、よろしくお願いいたします」


「皆様、今回はお集まりいただきありがとうございます、この晩餐会を通して親交を育みたいと思いますのでよろしくお願いいします」


 金髪碧眼の顔立ちの整った青年が壇上に上がった。ファジエルド王国第2王子、ジーク・ファジエルド王子だ。ちなみに俺は今まで数えるほどしか王都での晩さん会には出席したことがなく、ジーク王子を見るのは初めてだ。少し童顔だけど体は締まっているし、高身長、うん文句なしのイケメンだな。


 今回は王子様の婚約者探しの晩餐会なので一応俺も形だけでもあいさつしなければならないのだが、なにせ南の田舎貴族王都に住む王宮貴族の娘さんたちよりも早く挨拶に行ってしまうと関係が悪くなってしまう。そのため俺は最後のほうに挨拶をすることにしたが。


「…待ち時間長くね?」


 かれこれ晩餐会が始まって3時間ほど経過していた。


「前に来た王妃様の誕生日パーティーでも1時間立たずで挨拶できたはずなんだが?」

「ま、仕方ないさ、今まで表舞台ではなく裏方としてやってきた日の目の当たらなかった第2王子があっという間に王位継承権を獲得したんだからな、お嬢様方から見れば降ってわいた超優良、玉の輿物件ってわけだ」


 確かに先ほどから公爵家などの貴族階級一位、二位の家柄のお嬢様方が王子の周りを占領している。


「女って怖いわぁ…」

「お前も女だろうに、早く言って挨拶して来いよ」

「んなこと言ったて、さっきから話しかけに行ってる人たちみんな取り巻きに「「それではジーク様には私からお伝えしておきますわね」ってあしわられて帰らされてるからなぁ」

「…あの子らはここが一応社交界の場だってことわかってんのかね、自分たちの家に迷惑かけるってのに」

「おかげで暇だしなー、大概の飯は食いつくしたし」

「飯ではなく食べ物と言いなさい、我が愚妹」

「それは失礼いたしましたわ、愚兄殿」


 ちなみにかれこれ1時間ほど兄妹で陰険漫才を繰り広げている。おいしい王都の料理も粗方食べ終え、ミハ兄も目を付けていたお嬢様方とのお話も終え、暇になってしまったのだ。さすがにさっさと帰るわけにもいかず、こうして会場の隅で兄妹漫才を繰り広げている。


「できれば直接挨拶できたらいいんだけど、さすがにあれではなぁ…」


 あ、また一人王子にたどり着けずに散っていった。


「この夜会ってあとどのぐらいやるの?」

「今、21時近いからそろそろ終わるんじゃないか?」

「終わった後普段着に着替えて飯屋行かない?さっき話した執事さんからいいお店紹介してもらったのだよね」

「お、いいねー行っちゃいますかー」


 話をしていると人だかりから騒がしい声が聞こえてきた。王子の周りを囲む取り巻きから聞こえてくるようだ。


「なんかあったんかね?」


 ミハ兄と人だかりに近づいて様子をうかがう。


「あなたさっきから何よ!子爵家風情で王子になれなれしく近づいて!」

「そっちこそ王子が迷惑しているって気が付かないの?おめでたい頭しているわね!」


 ワオ!公爵家と子爵家のお嬢様が揉めてらっしゃる!


「これやばくない?王家主催の夜会で揉め事起こすって…」


 言いあう二人の中心に殿下が仲裁に入ったがむしろヒートアップしていく。


 あの女が悪いだの、弱小貴族が口答えするなだの、聞いてられないほど幼稚な言い争いが続く。拗らせてんなーこの人たち。


 当事者ではないのでのほほんと眺めていたのだが殿下の様子がおかしい。きらびやかなイケメンスマイルに陰りが見える。あれってひょっとしなくてもキレかけですよね?王族とはいえ殿下も人の子だからね、仕方ないね。


「このような貴族の振る舞いも知らぬような令嬢は元々殿下のお相手にふさわしくないのです!早急にここから消えなさい!」

「あなたのような傲慢で独占欲の塊のような人のほうがふさわしくないわ!殿下の顔に泥を塗るつもり!」


 今あなたたちが塗りたくってますが気づいてますかー。


「いい加減にしないか!」


 殿下の堪忍袋の緒が切れたようで、明らかに怒り心頭な表情で言い争っていたれ上たちを睨み付ける。


「いつまでも幼稚な言い争いを続けて恥ずかしくないのか!そんなこともわからないようなマヌケどもとは婚約はもとより今後の付き合いも拒否させてもらう!」


 殿下からの社交界追放宣言、これは一番最悪なパターンですな。


「し、しかし殿下「しかしもくそもあるか!貴様たちは今王族を愚弄していると同義だぞ!そもそも私の婚約者を探すための夜会だというのになぜ貴様たちが好き勝手にしているのか!」

「わ、私の家は公爵家です!家柄的にも私が婚約者としてふさわしいのです!元々こんな婚約者探しなどせず私と婚約をお決めになればこんなことにはならなかったのです!」


「…そうか私がなかなか婚約者を決めなかったからこんなことになったのだな」


 そういうと殿下は辺りを見渡し、そして俺のところで目線を止めた。ん?何もしてないよ?ただこの喧噪を見ながらミハ兄とのんびりデザート食ってるだけだよ?

 ちょっと待って、なんかこっち来てない?なぜ?


「…名は何という」

「ふぇ?あ、アルトリア・ルーデルと申します…」


 すると殿下は俺の腕を取り、大勢に向かって声高に叫んだ。


「私は今ここで、このアルトリア・ルーデル嬢との婚約する!」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?


 婚…約…?あ、あれか、芋を潰して灰を入れた水と混ぜて作るノンカロリー食品、おでんに入れるとうまいよなー、おでん食べたくなってきた。

 それともあれか?ブランデーのほうかな?前世は未成年で死んだから酒飲めなかったんだよなー、こっちではもう飲めるみたいだけど。


「これで夜会は閉会とする!今後婚約者探しは行わん!」


 殿下は呆然とする俺の手を引き、会場から出た。視界の端でミハ兄が大口開けてアホ面をさらしていた。うん、そうなるよね。


 俺といえば未だに現状を把握できず、頭の中はコンニャクのことで頭がいっぱいだった。

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