それは悪魔か否か

実行日 当日


校長先生の要らない長話の途中

突然体育館の全ての扉が閉まる

ざわつき始めた生徒達に先生が落ち着いてくださいと声をかける


そして教師が扉を開こうとするが何故か開かない扉にまたもや周りがざわめいた


「なんで助けてくれなかったの」


何処からかそんな声が響いた

俺はゆっくりと壇上へ行く


「おい!工藤…!?」


名前を呼ばれるが無視をした

おもむろにマイクを手に取るとキーーンと耳障りな音が響いた


「今、この体育館は俺の支配下にあります」


反抗するなんて初めてだから緊張と不安で少しだけ呼吸が乱れる

止めに入ろうとした先生が俺に触れた瞬間窓ガラスが割れた


「数ヶ月前、俺のクラスの白石幸那という少女が亡くなったことはご存知ですよね?」


知らないわけがない。全校生徒で黙祷しただろう?


「死因はイジメによる首吊り自殺。でもそれを先生方含めたほぼ全ての関係者が否定した」


担任に「やめろ」と怒鳴られるが止めるつもりは無い

現実を見ろ、そして罪を背負え


「そしてそれから少したったある日からこの学校で怪奇現象が起きるようになった。それは関係者が白石幸那に恨まれているから」


「そんなデタラメな話をするんじゃない。」


校長先生も相当頭にキているようだ

根が腐っていれば全て腐るものだな

同じクラスの奴らも声をかけてくる


「嘘に決まってるじゃない」


「もうこんなことやめろよ工藤!」


ああ、またひとつ人間に失望した。

自分の心がよどんでいくのを感じながら声を荒げてみた


「お前らは犯罪者だ!」


おー、なんかドラマの主人公みたいな感じ?呑気なことを考えていると後ろから白石に声をかけられる


「大丈夫なの…?こんなことして…」


ここからは俺の出番じゃない。白石の口からの言葉で伝えないと意味が無い


「タイムリミットは30分だ」


同じクラスの女子が叫んだ

そりゃあそうだろう、亡くなったはずの白石は俺の隣に立っているのだから


「…見えてる、の?」


俺になにか特別な力があるわけじゃない

白石の強い思いがあるからこういうことが出来る

そう伝えると白石がぽつりと話し始めた


「私は、いじめられてました」


なんの真似だと教師軍が騒ぐ

そして恐怖に震えた同じクラスの奴らが心無い言葉を浴びせた


「ひっ、悪魔だ…」


口々に出て行けと言うが白石の声でその言葉は止んだ


「黙って!!!」


大人しい優等生だった白石が叫んだことにより周りの動きが止まる


「しんでほしい。見て見ぬふりする大人も無かったことにした周りも心の底から死んで欲しい」


その真剣な白石の言葉に腰をぬかすもの

恐怖に怯え命乞いをするもの

あわれなものだなと少しだけ哀しくなる


「私は頑張って生きてたのに、頑張れとか。暇だからイジメたとか…知らないフリした担任とか許すつもりもない」


「白石…」


担任が声をかける。


「黙ってって言ってるでしょ!悲しんだフリしてなんとも思ってないのは知ってる。そんなの3年で関係なんて無くなるからなんの痛みもあるわけない」


そんなことない、と声をかける奴らがいるが白石は言葉を続けた


「だから自殺する人が増える。逃げ場がないのに生きることが苦痛になって、腐っていくの……最低で最悪で辛くて、苦しくて…でも私、友達を嫌いになれなかった」


ああ、主犯の子達が泣き崩れた


「仲良くなれるかも、私が我慢したら優しくしてくれるかも…頑張ったよ。私泣かないで頑張ったよ……それなのに皆が私に死ねって言うから…夢もあったのに、生きたかったのに皆のために死んだの」


どれだけの人にその言葉が刺さっているのかはわからない


「だから皆も死んでよ。私を殺したんだから罪償いに死ねるよね?」


白石って演技派なんだな

周りが死にたくないと声を泣き始めた


「そんなのいじめた奴らが悪いだろ!」


「俺は関係ない!」


「私も関係ない!!」


「関わった人達だけ死んだらいいのに」


「そうだよ!」


今日は人間の汚い部分ばかり見るなあ…

死ねというコールが始まった


「いい加減にして!!!」


白石がまた叫ぶ、マイクを持つ指が震えていた


「それが悪いことだってなんで気づかないの!?皆も主犯のこと同じことしたんだよ…?だから皆死ななくちゃいけないよね」


窓ガラスが次々に割れていく

これ、俺が弁償しなきゃいけないのか…?


「誰から死ぬの…?みんないっしょに死ぬ?」


死にたくないと喚く奴ら

助けてと叫ぶ奴ら


それが、いじめられてきた白石の痛さだ


「しんで…」


ぽたりと白石から涙が伝った

思ってもない言葉を口に出すのは苦しかったんだろう

そろそろタイムリミットだ


「うそ、…死んでなんて…嘘だよ…ごめんなさい………生きて……」


その言葉を最後に白石は半透明なり、全員が倒れ込んだ

起きた時、もしかしたらただの悪い夢だと思うかもしれない

それでいいと白石は言う


誰かの心にあの言葉が刺さればいいと少しの願いを込めて


私の分まで生きて欲しいと彼女は泣いた

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