嬉しい雨
「一日中雨」の予報は私を落ち着かせた。
「師匠!双子山のかさ雲撮ったんですよ、今度見てください! 」双子山はここから見え、二つの標高がほとんど同じだから同じような雲のかかり方をする。山頂にかさ雲が両方かかることは何度もあるが、先生のは美しさの問題だ。
「最高傑作? 」
「もちろんです」
「あ、お姉ちゃん今日の傘は鳥籠みたいな形、カワイイ」
「そう、よく見えるように今日はビニールなの」
「ふーん、なんで? 」
「ほらほら早く渡らんと危ないぞ」朝の日常だ、そして仕事、そのあとが私には本番だった。
帰り道で立ち止まり、雨の中携帯を扱うふりをして、橋の上でしばらく待った。そしてあの傘が遠くに見えた途端、私の緊張は一気に解け、傘が走ってやって来る数秒を本当にうれしく待っていた。
「この傘、一度学校で無くなったんです、それを同級生の男の子が届けてくて! 」「そう、良かった、その子ってイケメン? 」
「ええ! でも昔はすっごい太ってたんですよ、マジックってみんな言うんです」
「うまいなあ、今の子は言葉のセンスもある」
「そうですか? でも本当に良かった、手入れした直後だったから」
ありがとうと心の中で彼に言った。
彼女の可愛い傘を見送って、私は鳥籠のような傘の中から周りを見た。
三百六十度、まるで自分がプラネタリウムにいるようで、外灯と、雨に濡れた自動車とライト、本体のものと路面に映った、二重の光が見えた。車も年々塗装の技術が上がって美しくなり、ライトも明るくなっていく、品質向上のために、人間の多くは働いている。
「ものが多くなればなるほど心は貧しくなる」
その格言も知っている。あの時捨てようとした傘がビニール傘だったらという自問自答は、私の中に一生残っていくだろう。
でも、太古の昔から
雨は降る、必ず。雨は止む、必ず。
ずっと雨でも @nakamichiko
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