第18話 百合さんとのデート 二

 私と百合さんは、一時間ほど電車に揺られて目的の駅まで向かう。

 遊園地の近場の駅に着いた私達は、小走りで電車を降りて、遊園地を目指して行く。

 百合さんは、向日葵のことが心配で、あまり楽しめないんじゃないのか? と私が心配していたのだが、そんなことはなくむしろ本当に楽しんでいてくれている、そんな風に私は感じた。

 空は青空で、綺麗な太陽が人間を明るく照らしていた。


「楽しみだね、遊園地」

 遊園地に向かいながら、百合さんが会話を始めてくれた。

 正直助かった。

 これからのことを考えていると、遊園地に行くまでが無言になってしまう可能性があったから。


「はい! 百合さんは何か乗りたい乗り物あったりします?」

 私はなんとか会話を繋げることができて、ホッとしていると百合さんが、もう一度パスをくれた。


「うーんそうだな、ジェットコースターとかかな。葵ちゃんは? 何かある?」

 私は多少悩みながらも、なるべく素早く返答する。


「そうですねー。乗り物じゃないですけど、お化け屋敷とかですかね」

 まぁ今から行く遊園地のお化け屋敷は、全然大きくないので、全く怖くはないのだけどやっぱりデートで、お化け屋敷を入らず帰るっていうのはないでしょ?

 そんなことを私が、考えていると隣にいる百合さんが何かカタコトで喋りだした。


「お、オバケヤシキタノシミダナー」

 百合さんが怯えていた。恐れていた。怖がっていた。恐怖していた。

 あの完璧な百合さんが、お化けが怖いんだよ? そんなの。そんなの。

 可愛い以外の何者でもないじゃん!

 私の顔は今多分赤面しているだろうけど、私はそんなこと気にせずに百合さんを煽っていく。


「ホント楽しみです。お化け屋敷。何回も入りましょうね! お化け屋敷」

 なんかあのホーム画像の件から、百合さんの上に立つのが好きになってしまったかもしれない。


「え!? 何回も? 一回でいいんじゃないかな? お化け屋敷は」

 百合さんはもっと怯えていた。

 私はそこで追い討ちをかけていく。

「え? 何回も入りますよ」

 私はそう言って、走りだした。

 私が百合さんをいじめて楽しんでいるのを悟らせないために、この話をここで終わらせるために。


「え? 葵ちゃん待って、まだ話終わってないんだけどー」

 私は百合さんの言葉を無視して、走っていく。

 だっていじめて楽しんでるのバレたら、あの顔もう一回は見らなそうだしね。



 最初に私達は、ジェットコースターに乗る。

 そこまで列が長いわけでもなく、そこまでジェットコースター自体の角度があるわけでもない。

 それなのに百合さんは、自分で提案しといてジェットコースターに乗るまで、ずっと怯えていた。


「葵ちゃん。ちょっとこのジェットコースター怖そうだし後にしとかない?」

「何言ってるんですか? さっき自分で提案したじゃないですか、それにもうすぐ番きますし」

 私は妹を世話する気持ちで、そう言った。

 案外百合さんは完璧じゃないのかもしれないなー。そんなことを考えながら、ジェットコースターに乗る。


「ほら番来ましたよ! 早く乗りましょ」

「うん」

 まるで昔の大河を見ているような、そんな気分になりながら、私は百合さんの隣に乗る。


「それじゃあー発車しまーす」

 という係の人の、掛け声の後ジェットコースターはすぐに発車した。

 ガガガガガガと音を立てながら、ジェットコースターは進んでいく。

 最初の方は普通にちょっとした上り坂や、下り坂カーブなどがあり、最後の山場でジェットコースターはゆっくりと上り坂を登っていく。

 ふと隣を見ると百合さんは、目をつぶっていた。

 もうそれならなんで提案したの? と疑問に思っていると、上り坂を登り終えたジェットコースターはすごい勢いで、急降下していく。


「うわぁぁぁぁぁぁぁー!」

 という声が隣からは聞こえてきた。

 私も一応空気を読んで叫んでおく。


「うわーーー!」

 少しわざとらしかったかもしれない。


 そんな山場を超えたジェットコースターは、だんだんと速度を落としていく。

 ジェットコースターのこの速度が落ちる時に、なぜか寂しい気持ちになるのは私だけかな?


 ジェットコースターが、速度を落としきり完璧に止まると、私達の体を押さえつけていてくれたバーは、外れていく。

 さっきからずっと黙っている、百合さんを見てみると死んだ目をしていた。

 私は次のお客さんに迷惑をかけないように「行きますよー」と百合さんに声をかけて、ジェットコースター乗り場から降りていく。


 乗り場から降りてくると、百合さんは多少は元気を取り戻したようで、私に話しかけてくれた。


「葵ちゃんすごいね! 全然怖そうじゃなくて」

 百合さんほど怯えはしなかったものの、私も多少は怯えていたので、嘘じゃない返事を返す。


「いやー、怖かったですよ」

 すると百合さんは何かホッとしたようにため息をついた。


「それなら良かったー。乗ってたお客さんの中で叫んでたの私だけだった気がしたからさ。多分みんな心の中で叫んでたんだよねきっと」

 その返事は私にはできなかった。

 私はなんとか作り笑いで誤魔化し、次の乗り物に百合さんを誘っていく。


「百合さん次、あれ乗りましょ、あれ」

「もう元気いいね葵ちゃん。いいよ乗ろ」

 いつのまにか百合さんは妹から、お姉さんに、戻っていた。


 それから私達は、三つほど乗り物に乗って、昼食タイムに入った。


「お腹空いたねー。葵ちゃんは何食べるの?」

 私はここでやっときた、と思った。

 なぜなら私はこの食事のためだけに、この遊園地を選んだと言っても、過言ではないからだ。

 この遊園地には、カップル用のメニューというのが用意されていて、私はそれを指差して、百合さんに教える。


「私、あれがいいです。安いですし」

 そのカップルメニューは、全く同じのハンバーガーとポテトよりも、半額の値段設定になっている。

 もちろんただ値段が、安いからあれがいいとかではなく。

 あのメニューのルールが一番の目的だ。


「いいねあれ安いし。それになんか食べ物二つずつ、ついてるみたいだしちょうどいいね」

 百合さんは全く私を疑わない様子で、賛成してくれた。

 百合さんを騙してる風でちょっと申し訳ないと思うつつ、私はそのまま注文を開始した。


「このカップル用のメニューください」

 すると店員さんは、私達をまじまじと見て申し訳なさそうに喋りだした。

 私達を姉妹とでも見間違えたのだろうか。


「ごめんなさいこのメニューは、カップルの方限定になってまして」

 私はその店員さんには、申し訳ないが真剣な目で、真剣な口調で答えた。


「カップルです」

 と。

 隣に百合さんがいる状態で、めちゃくちゃ恥ずかしかったが、この後のご褒美に比べれば全然痛くも痒くもなかった。


「そうでしたかごめんなさい。すぐにご用意致します」

 そう言い終わり店員さんが奥に行っている間に、百合さんは私の耳元で囁いた。


「いいの? 私達カップルじゃないのに、あんなこと言っちゃって」

 私は、店員さんには心中で、本当にごめんなさいと謝っておき。

 百合さんの方にはとりあえず返事をしておく。


「大丈夫ですよ。次の指令クリアしないと結局同じ値段に、なっちゃいますし」

「指令?」

 百合さんはそんなことを呟きながら、首を傾げていたが、そのタイミングでちょうど料理が奥から運ばれてきたので、幸い私は答えずに済んだ。

 私は店員さんから、料理が乗ったトレーを受け取り席につく。

 そのトレーには、少し大きめのカップに二本のストローが刺してあり、そのストローは二つともハートの形で刺されていた。

 まさにカップル様のメニューと言った感じだが、このメニューにはもう一つカップルに必要不可欠なものを、無理矢理させる紙が乗っている。

 私はそれをあたかも今見つけたように、振る舞い百合さんに教えてあげる。


「百合さんトレーの上にこんなのが乗ってましたよ」

 百合さんはその紙に書かれている文字を、読み上げていく。


「うん何々。『カップルメニューの指令。ポテトを二人ともどちらもが、あーんする側に回ること。もしこの指令が達成できないようなら、普通のメニューと同じだけのお金を頂きます。(監視しています)』なにこれ」

 さっきからずっと、何か視線を感じていたのは、これだったのか(監視があるのは知らなかった)それでも私は知らないふりを貫き通す。


「こんなのあるんですね」

 私が白々しくそう言うと、百合さんはムッとした表情に変えて喋りだした。


「葵ちゃん知ってたでしょ?」

「いや全然知らなかったですよ」

「嘘!」

 私は今日のデートで、百合さんは押せば落ちるということを学んだので、とりあえず押しまくる。


「とりあえずやっちゃいましょ。あーん。だって絶対安い方がいいじゃないですか?」

「で、でも」

 やっぱり百合さんは押せば落ちる。

 私はそのままの勢いで、ポテトを手に取った。


「そんなに言うなら私からやりますね」

 そう言いながら私は、ポテトを百合さんに近づけていく。

 百合さんは諦めがついたのか、目を瞑り構えている。


「あーん」

 私は百合さんに近づけていく。

 しかし私は、百合さんの顔を見た瞬間に恥ずかしくなってきてしまった。

 だって百合さん恥ずかしそうに、赤面してるんだよ! それにいつもよりなんかエロいし。

 可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い!

 そんなことを考えていると私は、いつのまにか自分の口にポテトを入れていた。

 するとそれに気づいた百合さんが、喋りだした。


「えー! せっかく準備できてたのに。」

 百合さんは少し残念そうに、そう言ってくれた。

 私はもう一度チャレンジと、ポテトを手にとって百合さんの口に近づけていく。


「あーん」

 今度はちゃんと百合さんの口の入れられた。

 すると百合さんは、次は私の番と言わんばかりに、ポテトを手にとって私に近づけてくる。

 途中までは、百合さんの照れていた表情を見れていたのだが、百合さんが「あーん」と言ったところで私は目をつぶってしまった。

 だってこれ案外やられる側も恥ずかしいし。

 私の口に入ったポテトは、他のポテトよりも何倍も美味しく感じられた。


 私と百合さん両方が、ご飯を食べ終わったタイミングで、私は提案する。


「次お化け屋敷行きましょ」

 と。

 百合さんは大変怯えていた。

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