第15話 文化祭 終

「おかえりなさいませご主人様」

 そう私が接客した相手は、絶対に来ないでと言っておいた。家族だった。

 わかっていた。わかりきっていた。どれだけ来ないでと言おうと、当たり前のように来るのが私の家族だということは。

 大河は私の姿を見て爆笑しているし、母と父に限っては、無表情無言だった。(そんな表情されるならいっそ笑ってくれたほうが、よかった)


「で姉ちゃん俺はどこ座ればいいの?」

 偉そうにしている大河に、私は少しイライラしながらもちゃんと。笑顔で。接客を。し続けた。


「じゃあ俺サイダー」

「私達はウーロン茶でお願いね」

「サイダーとウーロン茶ですね」

 注文を受けとった私は、料理係に注文を伝え、次から次へ訪れるお客さんの接客に戻っていった。


「ごゆっくりどうぞー」

 私はそうお客さんに接客をして、テーブルから離れていく。

 ふと家族達がいる席を見てみると、ちょうど飲み物が運ばれてきたタイミングだった。

 飲み物を持ってきたメイドは、向日葵だった。

 その飲み物を運んでいる姿に、ドキっとしたのは自分だけの秘密にしておく。だって向日葵可愛いし。胸大きいし。谷間すごいし。しょうがない。

 向日葵も母と大河には、面識があるので何か会話をしているようだが、聞こえそうで聞こえないそんな距離感だった。

 しかし会話をしているのは、母だけだった。

 父はわかる(面識ないし)でも大河はもう何度もあっているだろうし、全く会話がないのはおかしい。

 私は気になって大河をよく見てみると、照れていた。

 向日葵のあの服のせいだろうか? いやでも今思い出すと家に向日葵が、来た時も全然会話をしていなかった気がする。

 まさかまさか、大河が向日葵のこと? そうなのか? そうなのかな?

 顔が思わずニヤケてくる。私は恋バナが好きなのだ。

 すると接客を終えた向日葵が、私に近づいてくる。


「葵ー大河が目合わせてくれないんだけど」

「ははは。まぁあの年頃の男の子には色々あるんだよ色々」

「色々?」

「そう色々」

 向日葵は私の言ったことに対して、首を傾げていたが、私はそれを適当に流し接客に戻っていった。

 私も人のこと言えないぐらい、色々思ってるけどね。



「いってらっしゃいませご主人様」

 私はこのクラスから出ていく家族に、そう接客をした。

 家族もいなくなったので、私はついにずっと気になっていたことについて言及する。

 それは来てからずっと同じ席に座っている百合さんについてだ。

 百合さんが来てから一、二時間は超えているというのに、百合さんは同じ席でずっと私と向日葵の写真を撮り続けていた。(定期的に飲み物は頼んでいた)しかし常に写真を撮られているという恐怖に、私はそろそろ我慢ができなくなっていたので、百合さんに一言言おうと思っていた矢先に天からのお導きのような出来事は起きた。


「あのー、一人急用で帰っちゃったんで誰かメイド服着て、接客してくれると助かります」

 私はその言葉を聞いて真っ先に、百合さんの方をみると百合さんは、荷物を鞄に詰めて逃げる準備をしていた。

 私は急いで百合さんの元に行き、勢いのまま腕にを捕まえた。

 するともう片方の腕は向日葵が捕まえていてくれたようだ。


「百合さん? 着ますよね?」

「お姉ちゃん? 着るよね?」

 私と向日葵の上目遣い。それに二人同時のおねだりに案外すぐに百合さんは、落ちてくれた。(もう私たちが諦めないのを察してくれていたのかもしれない)


「わかったよ着る。着ればいいんでしょ」

 私と向日葵は互いに目を合わせて、笑いあった。

 そう言って百合さんは、更衣室に移動して行った。



「現役JKの中に、この服着た大人がいるのはやっぱり不自然な気がするんだけど」

 更衣室から戻ってきた百合さんの、第一声は照れながらのそんな感じだった。

 髪が綺麗で長く、胸は小さいながらもその他の部分でちゃんとカバーしてある。足も綺麗そんな大人の色気を醸し出している、百合さんを見て私の手はスマホに一直線だった。


「綺麗」

 そんなことを呟きながら私は、連写した常にシャッターボタンを押していた。

 そんな私を見てクラス中が、さっきまでこの姉妹ヤベーだったのが、この三人はヤベーに変わっていたとしても私は、シャッターを押す指は止まらない。(イメージなんてどうでもいい。とにかく百合さんを撮っていたい)

 しかしそんな幸福も長くは続かなかった。自業自得なのだけれど。

 私は今日一日見てきた、ダメなことつまり下からシャッターを切るということに挑戦してしまった。

 しかしあとほんのすこしで、私自身が自分の顔を殴った。

 その光景を見てクラス中が、驚きを隠せてはいなかった。

 それはしょうがないなぜなら私自身もなんで、自分が自分を殴ったのかわからないから。私自身にわからないことを他の人がわかるはずがない。

 しかしそんな驚きもすぐに笑いに変わった。


「葵何してるのー?」

「さっき向日葵がやってたことじゃん」

 そんな感じでクラス中が爆笑してくれていた。

 私もそんな笑いにつられて、微笑んでいた。



 それから少し経った頃。

 百合さんもだんだんと接客に慣れてきたころ。

 私が席まで案内した男の団体客に、私は酷く絡まれていた。


「ねぇ君。ちょっと膝抱えて座って見てくんない?」

「ごめんなさいそういうことは、お断りしています」

 団体客全員がヘラヘラと、笑っていた。


「いいじゃん一瞬だけだから」

「ですから!」

 私がそう言って逃げようとすると、団体客の一人が私に手を掴んだ。


「逃げんなよー! もうちょっとお兄さん達とお話しようよー!」

 さすがに我慢の限界がきていた私は、男の人たち全員を殴ろうと思っていた矢先に、私よりも先に、私の手を握っていた男を誰かが殴ってくれた。

 殴ってくれた人は、髪が一瞬バサァと広がったと思うと直ぐに綺麗な髪へと戻っていく。

 私の代わりにに男を殴ってくれた人は、百合さんだった。


「あんた達──キモい!」

 百合さんのその一言と、眼力のみで男たちは教室を後にした。

 この時の百合さんは、始めたあった日の百合さんだった。

 とても頼りになってカッコよくて、可愛くて、そんな百合さんを私は好きになったのだと再確認した。

 そしてこの時私は決意した。

 今年のクリスマスに私の気持ちを伝えようそう心に決めた。

 その後私は、百合さんと向日葵に慰められながら、何とか文化祭を無事に終わらせることができた。

 楽しい文化祭だった。

 そう総括できる。



 それから家に帰ると、真っ先に大河に笑われた。


「メイドだメイド! 早く接客してくれよ」

 未だ私をメイドだと思い込んでいる、大河に私は今日仕入れたとっておきのネタを、大河になだけ聞こえる大きさで喋った。


「大河、向日葵のこと好きなんでしょ?」

 それを聞いて大河は、顔を真っ赤に染め上げた。


「は、は、はー!? 誰があんなやつ好きになるか姉ちゃんバカなの?」

 わかりやすすぎる照れ隠しだった。

 そんな大河を見ていると、なんだか微笑ましくなり私は大河の頭に手を置き。一言言った。


「大河も頑張ってね。私も頑張るから」

 大河の励みにになればという気持ちもあったが、ほとんどは自分自身に対する戒めだった。

 これからはもっと頑張るぞというそんな意味だ。

 大河ずっと頭に ? マークを浮かべているが、私はそんなことを気にせずにご飯を食べ始めた。


 〜その頃の白石家〜


「こっちの葵のほうが可愛い!」

「いや私の撮った葵ちゃんのほうが可愛い!」

「お姉ちゃんは葵のことなんにも分かってないよ! 葵、検定初級だね、初級!」

「なに? 私から言わしてもらえば、向日葵の葵ちゃん検定は初級以下だね」

 そんな感じで仲良く喧嘩してました。

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