第14話 文化祭 一
それから一ヶ月後、私と百合さんの関係には何も発展はなく、夏空もすっかり秋空に変わっている頃(秋空とはなんぞやと言う感じではある)文化祭当日。
私はいつものルーティンに加え家族に、絶対に文化祭に来ちゃダメということを伝え家を出ていく。
少し遅刻気味ではあったので、走って別れ道まで向かうとそこにはもう向日葵は来ていた。
「葵おはよー!」
と向日葵は元気よく挨拶をしたので、私もそれに対抗するように元気よく挨拶をしていく。
「向日葵おはよー!」
「ふふっ」
「ふふふっ」
と二人で仲良く微笑んだところで、私は少し遅刻気味ということを向日葵に伝え。急いで学校に向かって走りだす。
この後のイベントのことを考えると、今この状況が一番幸せなのかもしれなかった。
私達は学校につくやいなや、大時計に目をやった。その時計はやはり集合時間を少しだけだが過ぎていた。
私と向日葵は一瞬だけ目を合わせて、急いで教室に向かって走りだした。
なんとか教室にたどり着いた私達は、二人同時に。
「ごめんー! 遅れた!」
そう言って教室に入っていくと、女子群が集まって来た。(主に私達の友達なのだが)
二人共何事かとキョロキョロしていると、一人の女子が言い放った。
「ちょっとこのクラスのエース二人共が、遅刻は困るんですけど!」
私達二人は戸惑った。何度もお互いに顔を合わせ、何度もキョロキョロしていると、一人の女子が私達の戸惑いに気づいてくれたようで、喋りだした。
「だから! この文化祭で売り上げ一位を取るには、あなた達二人が必要って話。昨日の話聞いてなかったの?」
私達二人は同時に、「?」マークを浮かべた。
話を聞いてみると、なんとこの文化祭で売り上げ一位を取ったクラスには、今回の文化祭の売り上げ額を全額クラスの中で、山分けする権利が貰えるそうだ。
それって色々大丈夫なの? とか心配してしまうが、まぁその辺は大丈夫なのだろう気にしていてもしょうがない。
「それでこのクラスの中で、誰が一番可愛いかってことになって同率一位だったのが、あなた達二人だったの! だからこのクラスのエース」
それを聞いて私は驚きつつも、当たり前にわかっている。私は知っている。知らないとヤバイレベルの質問をした。希望的観測だった。
「ちなみにこのクラスのお店は?」
「え? そんなの決まってるじゃん──メイド喫茶よ。メイド喫茶」
私と向日葵は同時に両手で、顔を隠し小さな声で叫んだ。(小さな声で叫ぶは矛盾しているのかな? わからない)ようするに照れた。
自分たちも提案したよメイド喫茶、でもでも今になって冷静になって考えてみると、私が見たかったのは、百合さんのメイド姿であってけっして私が着たいわけじゃなかったのに、なんで提案しちゃったのかなメイド喫茶。
「はぁー」
と私はため息をついた。
「このスカートやっぱり短い気がするんだけど」
とメイド服に着替え終わった私は、文句を叩きつけるようにそう言った。
スカートの丈は私が、百合さんで想像してたスカートよりも短く、太ももの半分ぐらいまでしか長さがないそんなスカートで、誰かが風を送ればすぐに見えてしまうんじゃないのか? という感じのスカートだった。それと私はあまり関係がないけど、胸元も開いているので、胸が大きい人とかは谷間が目立ったりとかする。(この説明だけで涙が出てくる)
「そんなことないと思うよ、普通普通」
そう言ったのは、さっきの女子群の中にいた一人だった。
「絶対短いと思うけどな」
私がそんな文句を言っていると、私よりも少し遅れて向日葵が教室に入ってきた。向日葵の表情は照れていた。
いつもボーイッシュな向日葵が、女の子らしい照れ方をしているとやはりドキっとしてしまう。
しかしそんな私の気持ちは、すぐに粉々に破壊された。向日葵の行動によって。
向日葵は私を見つけるやいなや、その照れた表情を狼のようにして、スマホを取り出した。
すると向日葵は走りだした。その速さ今の向日葵なら100m走で余裕で、世界記録を塗り替えられるであろう速さだった。
私に到着するとすぐに写真を撮りだした。連写だった。
上上右左後ろと色々な方向から向日葵は写真を撮った。それも吐息混じりに「はぁーはぁー」と息をしながら。
しかしそのつかの間の幸福。つかの間の写真タイムは、向日葵自身のミスによって突然の終わりを迎えた。
そのミスとは、向日葵が下からのアングルを撮ろうとした。ただそれだけ。
向日葵が下にカメラを向けた瞬間私は、向日葵の顔を殴った。とっさの判断だった。
「バカー!!!!」そう叫びながらだった。
「ごめん! 向日葵」
私が勢いで殴ってしまったことを謝ると、向日葵は笑顔をで「大丈夫大丈夫」と言ってそのまま喋り続けた。
「葵の秘蔵写真が増えたからね。家に帰ったらお姉ちゃんと見せ合いっこするんだ、あー楽しみ!」
「ちょちょっとまって! 今のやつ百合さんにも見せるの?」
「え? うんまぁ当たり前のように見せるけど」
「ちょっともう一発だけ殴らせて」
私は笑顔のままゆっくりと向日葵に、近づいていった。怒りだった。
「え? 葵ちょっとまって一旦立ち止まろ、ね! 一旦考えなおそ!」
私は向日葵のそんな心配恐怖嬉しみ色々な感情が、入り混じったその言葉を無視して近づいていく。
私が向日葵に近づき終わり、いざ殴ろうかというタイミングで(このタイミングが良かったのか悪かったのかは、わからないけれど)このクラスの一人目のお客様が来た。
白石 百合さんだった。
百合さんは、さっきの向日葵の走りだしよりももっと速く私達の元にたどり着き、スマホを取りだすと無表情のままシャッターをきりだした。無言だった。
「あの百合さん、怖いですよー」
私がそう言っても無言、無表情ただ連写で写真を撮るのみ。怖い怖いこの姉妹怖い、恐怖恐怖だよ。
やっと喋ったかと思うとポーズの指定、仕草の指定その程度だった。クラス中の人が引いていた。
あげくの果てにはこんなことまで、言い出した。
「もうちょっとバリエーションが欲しいな、葵ちゃんと向日葵抱き合ってくれない?」
この人はホントに何を言ってるんだ? という気持ちになりながらも、何故かノリノリだった向日葵に押され半無理矢理ではあるが、抱き合ってしまった。
私はこの姉妹と仲良くしていて本当に大丈夫なのだろうか? そんな気持ちを抱いてしまった。
するととうとう百合さんまでもが、下からのアングルを撮ろうと、カメラを下にしだした。
向日葵の時はこのタイミングで、殴れたのだけど私には、百合さんは殴れないもう撮られるのはしょうがない。そう決意したタイミングでなんと向日葵が百合さんを殴った。
「お姉ちゃんのバカー!!!」そう言いながらだった。
「私でもさすがに下からは、撮らなかったよ」と自信満々に告げた向日葵。
すると先程までガヤガヤしていた教室は、向日葵の言葉で、シーンと静まりかえった。
私はその教室の様子に「ふふっ」と微笑んだ。
なんだかんだで文化祭は楽しくなりそうだった。
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